巨人号の事件16
「あら?あなたがああいった方に共感を示されるとは意外ね。あなたの婚約者とはまるでちがうタイプに見えるけど」
魔美子のことばに
「……そうね。まるでちがうわ」
令嬢は貌に微苦笑をうかべると、話を変えて
「――それより、あなたご存じ?今回は志魔家の方がいらしているのよ」
「志魔の?」
魔美子は、その家名を聞くと不審な面で
「あの家は、跡継ぎだった長女の百合子さまが駆け落ちなさったことに悲観した当主の鬼三郎さまが亡くなって、途絶えたのでは?」
問うと、
崩子はおかしげに
「妹さんがおられたでしょう……地味で、社交の場にすがたを見せることもなかったけど、久しぶりに出ていらしたわ。従者をつれて」
その視線の先にいたのは、真っ赤な夜会服をまとった、どう見ても地味ではなく派手派手しい女性のすがただった。そのうしろには、片目が潰れた異形の巨漢が控えている。それが従者らしい。
「……ほんものの志魔なの?」
魔美子のひそめ声に
「ええ。提出いただいたデータと照合しましたよ。うちには前に鬼三郎さまが娘がたを引きつれて会に参加したときの妹さん……蘭子嬢の魔力紋データが残っていましたからね。百合子さまと違って魔的には無能と思われていたけど、今回うかがうとそんなことはなさそうだわ。占術方面に才を示しておられます」
魔美子は、赤い女性を興味ぶかげに見やると
「志魔の長姉……亡くなった百合子さまについては、兄からうかがったことがあります。学園で同窓でいらしたから。百合子さまの駆け落ち相手といえば、あの名高き旅館のあるじすじ……幹久さま。行方知らずになっているのよね。旅館のあるじは今……」
「ええ。ふたりのあいだに生まれた娘さんが務めているらしいわ。まだ小学生だというじゃない。信じられないわ。あんな重要な施設の管理を年端も行かない少女に任せるなんて。『あの』番頭がいるから回っているらしいけど、ひとり娘を残してなにを考えてらっしゃるのかしらん?」
「……しかたないわね。幹久さまは天才でらっしゃるけど、有名な変わりものでもあるもの。だいたい、だれが『あんなもの』を召喚したうえで、旅館の番頭としてつかうなんて考える?」
「わからないわ。天才のやることは」
ほんとうにあきれているのかして、ふたりで乾いたわらいをもらしていると、その噂の志魔家……蘭子嬢が近づいてくる。
彼女は、鼻がかった声で
「崩子さま、ごめんあそばせ。こちらは陽城家のかたがたね。あたくし、志魔蘭子と申します。鷹太郎さまとは、姉の縁で親しくさせていただいておりました」
首を揺らす。




