巨人号の事件15
崩子は、同窓生の顔をまじまじと見つめて
「そう……まあ、とにかく陽城家が復権なさってよかった」
にこりとすると、
魔美子はそれには素直に
「ありがとう」
礼をのべる。さらに
「それで、お宅のほうこそいかが?新しいご当主……鬼利江さまは?」
返すと、
崩子は肩をすくめて
「叔母は、急に重責がまわってきて戸惑っているわ。ご存知でしょう?叔母は魔の道についてはまったくのしろうと。思いがけない当主の座に、一番不安を感じている」
急に魔道家の当主となる重責は、少年にもよく分かる。
「おかげで執事……ツァーリにすっかり頼りっきりよ」
鬼利江女史のそばにしたがう白皙の長身男性のことだ。
「彼は異一郎大おじの懐刀だった。斑玉家の事情に通じていない叔母が彼をたよるのはしかたない部分もあるけど、あまり一使用人に依存されてもこまるわね……彼とて男性だしね」
鬼利江は独身らしい。そこにたよりがいのある男性。もめるもとになりそうなのは、こどもの翔之介にもなんとなくわかる。
ときおり鬼利江がわに向けられている十鬼太郎の視線も、従者への警戒のようだ。
そんなオトナ世界の思惑ぶくみの視線交差を興味ぶかくながめていた少年の耳に、聞き覚えのある声が入った。
「ほうっ!こりゃよくできたヒトガタだっぺな!さては二八術式と楡の木のコンボだな。よく合わせてある」
イルカのヒトガタに、まったく含むところが無い大声で感心しているオトナがいた。先ほど搭乗口で十鬼太郎ともめていた青年だ。
「……ちゃんと乗れたんですね、よかった」
翔之介がつぶやくと
「ええ、巣難奇多郎さま。大叔父の手紙は本物でしたわ」
崩子がほほえむ。
魔美子は、ヒトガタにはしゃぐ奇多郎を観察して
「……彼は、魔道具職人なのね」
たしかに、乗降橋で職人だと言っていた。でも魔道具職人とは、いったいなに?
甥の問いに
「われわれ魔道者が扱う道具の制作者……でも、こまったものね。あんな大声で、ヒトガタにこめられた術式を明かしてしまうだなんて。術式情報は、軽々(けいけい)に明かしてよいものではないのよ」
顔をしかめて
「この業界において、情報の隠匿は命。ああ安々と術式を解析してしまっては、道具の価値が下がりかねない。彼は術を使うがわじゃなくて作るがわだから、気にせず口にしてしまうんでしょうけど。このような社交の場には似つかわしくない言動ね」
きびしい指摘を与える。
そんな同級生の言に対して、崩子は
「……とはいえ、あんなふうに周りが見えなくなるほど熱心な方こそ、本物の魔道者といえるのではなくて?いくら世事に通じていても魔の追求心が無ければ、ほんものの魔道者とは言えないでしょう。奇多郎さまの純粋さは、あたくしのような中途半端な魔道者にはまぶしく見えるわ」
かばうように言う。




