巨人号の事件13
「……なんだか、ずっとへんな感じの挨拶でしたね」
翔之介のことばに、
魔美子はクラゲ型のヒトガタ・クラちゃんに供じられたシャンパンをふくみながら
「……そうね。異一郎翁が亡くなった間隙を他家につけこまれないようにした、ということでしょうね。無能の新当主より、名のある蠏呪家の人間を前面に押し出して。まあ、成功といえるでしょう。文句が入る余地を与えなかった」
見ると、新当主であるはずの鬼利江女史のまわりには、とんと人が集まらない。人が来ないというより、彼女自身が他者を避けているようだ。従者が丁重に断っている。
「鬼利江さんという方は、社交が苦手のようね」
そのぶん婚約カップル……崩子と十鬼太郎が客の応対に努めている。崩子嬢はけっして華やかなタイプではないが、大家の令嬢として品良い。いっぽう婚約者の十鬼太郎は、口ぶりや所作ひとつひとつがスマート。まるで、彼が新しい家の当主になったようだ。
ただ、搭乗口での尊大な態度を見ているせいか、翔之介のゲスさまに対する印象は良くない。
「そんなに蠏呪家って、すごいんですか?」
問うと、
叔母は
「ええ、たしかに魔道の名家よ……むかしより解呪を得意としている家ね」
かいじゅ?
「呪いや念を解いたり無効化する魔能よ。専門性が高く需要も多いので、魔道界でも特別視されている。正直、異一郎翁が一代で大きくした成り上がりの斑玉家がよくお近づきになれたわね……というぐらい誇り高い家よ」
たしかに十鬼太郎の態度を見ていると、ほこりたかい感じはすごくわかる。
「崩子さんも、うまいこと縁づいたわね」
同級生だからか、魔美子が気安い口ぶりで評する。
(うまいことだなんて、いやな言い方するなぁ)
翔之介のしかみ顔に、
叔母は微苦笑をうかべて
「……たしかに、一般社会でこんな言い方をしてはデリカシーが無いわね。しかし魔道家にとって、婚姻でどの家と縁づくかはそれこそ存亡に関わる大事。ほんとうに、そこをあやまったら簡単に滅んでしまう。
魔道家の婚姻は、なによりも家が存続するための打算を先立てないといけない。夫婦の愛情なんてものは、無くとも死にはしない」
わりきった考えだな。
「……それって、ウチのおとうさんやおかあさんもそうだったんですか?家の打算でいっしょになったの?」
翔之介の問いに、
叔母は首をふって
「……あのおふたりは、学園の同窓でいらしたときから仲が良かった。そのまま結婚なさっためずらしいパターンよ」
ほほえむ。
ふーん。
ふたりで語っていると
「魔美子さん」
声をかけてきたのは、斑玉崩子だった。




