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ある魔道家の跡取り息子  作者: みどりりゅう
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禍王家の人々1

 禍王家がある鬼頭町(おにがしらちょう)は四方を山に囲まれた盆地状の町だった。魔美子によると古くからの城下町らしくて、しっとりとした情緒がある。

 その市街地を抜け、北東の山の方に車は進んだ。坂道をくねくね登ったさき、町全体を見渡すようなところに禍王の本宅はあった。


 迎えに来た車の高級感から多少は予期していたが、そんな翔之介の想像をはるかに超えて大きなお屋敷だった。ちょっとしたお城のような石垣が組まれた上、高い土塀に囲まれた向こうに松の木がきれいに手入れされてあるのがわかる。


 車から降りると、目の前にある大きな(ひのき)づくりの門が自動にすべり開いた。

「どうぞお入りください」

 魔美子の先導のもと、御影石の道をたどって二十メートルほど歩いた先に母屋があった。和風の立派な邸宅である。


 庭の中程あたりに幾人か使用人らしき人たちがあつまって話をしていた。

猪吉(いのきち)さん。なにかあったのですか?」

 問いかけに、その中でも一番格上らしい頑丈そうな中年男性が腰低く答えた。

「これは魔美子どの。はい、どうも。いま、二日前に行方不明になった庭師の熊蔵(くまぞう)が発見されまして」


(行方不明?)

 なんだか物騒な話だ。さっきの霧といい、どうもこの家には危険な香りがいっぱいする。

「ああ、そうですか。それで様子は?」

「はい、命に別条はないようですが、やはり、どうも体がふらふらしているようで。ここ数か月続いている被害者と症状が似ております。襲われた時の記憶もないようで」

「そうですか。翔之介さまをおむかえしましたし、警護に気をつけねばなりませんね」


「はい。……では、そちらが龍雄さまの?」

「そうです。翔之介さまをお連れしたと、奥にお伝え願います」

「かしこまりました」

 男性は頭を下げると、足早く屋敷の中に消えた。


「龍雄さまのお坊ちゃまが、お出でになられましたぞ!」

 と触れ回る大声が聞こえて、翔之介は照れくさい。

(お坊ちゃまだなんて、言われたことないもの)


「さあ、翔之介さま、こちらです」

 魔美子とともに玄関に入ると、少年はゾクッと背筋が冷えるものを感じたが、それはただ屋敷が古くて広いからとかだけでは決してない、なにか妖気のようなものがこの家にはあるからだと、本能的にわかった。


 あらわれたのは、魔美子よりいくつか年上らしい、顔色が悪い女性だった。

「ああ魔美子さん、お帰りなさい」

「はい、たま子さま、ただいま戻りました。翔之介さまをお連れいたしました」

「ああ、あなたが」

 魔美子は向くと

「翔之介さま、こちらがたま子さま。龍雄さまのご長女様です」

挿絵(By みてみん)

「えっ?……ちょうじょ?」

「つまり、あなたさまの母違いのお姉さまです。ほかにもお兄様が一人おられます」

 翔之介はびっくりした。自分に兄姉がいるなんて初めて知ったからだ。母・冬子も静代おばさんもそんなことは一言も言ってなかった。


「どうもはじめまして、たま子です。……まあ、本当にお父様によく似てらっしゃること」

 ほれぼれと自分の顔を見る人は初めてで、それにもおどろいた。きょうだいなら不思議ではないのかもしれないけど。

「さあ、奥にいらして。大おばさまと龍臣(たつおみ)お兄さまがお待ちよ」


 長い廊下を三人は歩きながら話した。

「熊蔵が見つかったようですね」

「ええ。命に別条は無いらしくてよかったけど。……ここ二か月でこんなことがあるのも三人目よ。いままで警備を一手にまかせていた銀狼ぎんろう先生が亡くなったのもあるでしょうけど……やはり反禍王派の仕業かしら?気味が悪い」


「――わたくしたちもここに参りますとちゅう、あやしいものに行く手を邪魔されました」

「まあ!それで翔之介さんは?なんのケガも無くて?」

「はい、それは。本気の妨害ではなく、ただの嫌がらせのようでしたので深追いはいたしませんでしたが」

「……そう。でも変ね。翔之介さんを迎えに行くことを知っているものは本当に内々(うちうち)のものだけのはずだけど」

「やはり内通者が?」

「それはわからない。ただ、ここのところ変な事件が続いているから注意しないとね。やはり魔美子さんに迎えに行っていただいてよかったわ。早く大おばさまにお知らせしないと」


「はい――翔之介さま、どうかなさいましたか?」

「えっ?あっ、はい」

 不意に魔美子に声をかけられ、翔之介はハッとなった。

 彼は家のあまりに立派な様子に気を取られていたのだ。縁側から見える広大な日本庭園も見事だったが、廊下にある様々な調度品、染付の壺や華麗な絵も見たことがないようなものばかりで、通るだけで目がくらみそうだった。


 特に今、目の前に立てかけられている大きな鏡は立派だった。

「……なんだかすごく豪華な鏡ですね。それにとても古そう」

「ああ、これ?そうね、わたしが生まれる前からあるわ。たしか先々代当主であるおじいさまが、ヨーロッパのどこかの王様を呪い殺す依頼を受けたときに、報酬としていただいたものよ。立派な縁飾りでしょう?金細工の精巧な仕事ね。ちょっと欠けているのが残念だけど……」

 たま子の説明通り、たしかに縁の飾りに欠けている箇所がある。


(あれ?これどこかで……)

 翔之介はなにかが気にかかったが、それがなんなのかはっきりとは思い出せなかった。

「家の中は後でゆっくり案内いたしますので、今はお急ぎ下さい」

 と魔美子にせかされたので、そのままになった。

 


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