巨人号の事件10
(なんだあれ?豪華船の船長って、みんなあんなに個性強いの?)
翔之介も思わず叔母と顔を見合わすなか、次なる男性が壇に上がってきた。
(あっ、あれは、さっき乗降橋でえらそうにしてた男の人……ゲスさまだ!)
「みなさま、ごきげんうるわしゅう。蠏呪十鬼太郎です」
タキシードをバッチリ着こなした彼は、さわやかに挨拶する。
「――おお、蠏呪家だ」
名高い名家の登場に、客もどよめく。
「……まずは、脅谷強司船長からステキなことばをたまわりました。船長、どうもありがとう」
言いながら顔を引きつらせているが。そのあとは調子をもどして
「ご存知の方も多いかと存じますが、わたくし蠏呪十鬼太郎と斑玉異一郎翁の姪孫・斑玉崩子嬢は昨年より婚約関係にございます。新参者ではございますが、斑玉家の一員として本日の障玉會、その司会を務めさせていただきます。よろしくおねがいいたします」
頭を下げると、拍手がふりそそぐ。
「……これで、すでに自分が斑玉家に大きく食いこんでいることを示せたわね」
魔美子が、ぼそっとつぶやいた。
姪孫とは、兄弟姉妹の孫という意味らしい。さきほど乗降橋で見かけた崩子嬢は、異一郎の亡き妹の孫に当たる。
十鬼太郎は、神妙な面持ちで
「……本来ならば、ここで斑玉家当主である異一郎翁からみなさまにご挨拶申し上げるところでございますが、残念ながら翁は先月、急逝いたしました。享年・八十五歳。魔道者として、また経済人としても偉大な生涯であられました」
告げると、当然ながら異一郎の死を知らなかった客から驚きの喚声が上がった。
「――どういうことだ!?」
「――それを知っていたら、今回の障玉會には参加しなかったぞ!」
しかし、十鬼太郎はそれらの動揺をいっさい気にかけず
「……とはいえ、翁はなによりもこの関係者が集まる会を大事に考え、船旅の実施を楽しみにしておりました。そこでなによりも故人の意志を尊重いたしまして、みなさまをご招待させていただいた次第でございます」
平然とことばを続ける。
そこには、いっさいの容喙……くちばし入れをゆるさない圧力があった。
ふつうなら、招待した本人が亡くなったという大事なことは招く前に伝えておくのが当然と少年も思ったが、魔美子によると(力のある)魔道家というものはおよそ他者に対して高圧的なものらしい。
あえて下品な関西弁で表現すると
「――ウチの先代がわざわざ招待したったに、今さら断るっちゅうんか?ワレ」
という姿勢だ。
十鬼太郎は口ぶりこそ丁寧だが、客の困惑を無視して一方的に話を進める。
「また翁の死にともないまして、斑玉家の当主の座が異一郎の姪・鬼利江に移りましたことを、ここにご報告いたします」




