巨人号の事件9
船内部にあるパーティ会場は、大きく立派だった。
ゆれもほとんど感じない。船とはゆれるものだと思っていた翔之介は、自分が大きなホテル会場に入ったように思えて不思議だった。船内であることを忘れてしまいそうだ。
すでに場内には、魔道関係者が数百人単位でいるようだ。
カクテル・パーティふうの立式のつどいということで、翔之介と魔美子もかぎられた家計のなか、それなりにフォーマルな装いをしている。翔之介は蝶ネクタイが苦手だが、しかたない。叔母もシックなワンピースをまとっている。この叔母はまだわかいし、きれいだ。
翔之介自身も(人が言うには)美しいらしいし……そう、陽城家のふたりはとても人目を引くのだ。
自分に注がられる好奇心と賛嘆の視線に、少年は緊張する。おぞましい顔で注目を浴びていたときの習性で、やはり多数の視線はおそろしいのだが、叔母のためにもせいいっぱい見栄をはって背筋をのばしていた。
「オ飲ミ物ハ、イカガデスカ?」
見ると、ドリンクの給仕をしているのは人間ではなく、サメ型の着ぐるみだ。名札を見ると「サーメくん」。実にストレートなネーミング・センスだ。
他にもイルカやイカ、タコ、ヒラメなど海の生き物を模した着ぐるみが仕事をしている。まるで竜宮城だ。
翔之介が感心していると、叔母が
「あれは人間が中に入っているわけじゃないわよ。術式によって動く自動人形の類……ヒトガタね。これだけの数のヒトガタを同時に動かすところに、斑玉家の力が示されているわね。術式は単純だけど、カネがかかる。いやそれにしても精巧ね。ふつうのヒトガタにしては。でもまさかね……」
解説をしてくれる。
(やっぱり、ふつうのパーティとはちがうなぁ……)
感心しているとライトが一瞬暗転、そして明転すると壇上にひとりの男性が立っていた。
それは制帽にピー・コートをまとった、いかにも海の男という出で立ちの壮年男性だった。
ただちょっと変わっていたのは、彼の着こなしがピー・コートは肩がけ、制帽はつばをあげたいわゆる阿弥陀かぶり、左目には眼帯、という絵に書いたようなヤクザな海の男スタイルだったことだ。
男はピー・コートを投げすてると
「やあ、諸君!よく来やがった!おれさまが、このイカしたベイビー、偉大な海のデカ女・ジィアンティス号の船長、キョ――――――ヤッ・ゴ――――――ゥジィだぜぇ!!」
ハデに体をねじらせポーズを決めた。
「レセプションといっても、おれはただの雇われ船長で、言うことは特に無いのさ!あとは『障玉會』運営に任せるぜぇ!……というわけで、あばよっ!!」
客が面食らうなか敬礼をきめると、船長は一仕事を終えた満足の表情をうかべて悠然と壇から下りていった。




