巨人号の事件6
そのいかにも庶民的で正直な声に、翔之介は親しみを感じてしまう。
見ると、そのおとなはボロのリュックサックに、ペラペラのシャツ。無精髭。おそらくだが、同じ服を数日着続けているのではないか。
そんな、言ってはなんだがみすぼらしい格好をした男は、意外にもこの豪華客船に乗船する気らしい。
乗船口でチケットを差し出すが、係員に止められた。
「――少々お待ちくださいませ、お客さま」
「なんだ?おらはほら、ちゃんと切符を持ってんぞ」
そう言ってチケットをふるが、
係員はそこではなく
「……お客さま。そのような身装でのご乗船は、他のお客さまのご迷惑になります」
と、止める。
おとな……と言っても、まだ青年と言ってよいほどらしい年波の男は気色ばんで
「んなこと言ったって、しょうがねぇべさ!おらが山ごもりして仕事に精出してたら、急にこんな呼び出し状が来たんだもの。
ぜひとも来てくれっていうから、おらやりかけの仕事をほっぽりだして、わざわざ来てやったんだど。おらも好きでこんなとこに来たわけじゃねぇど。ただ斑玉 異一郎ってやつに呼ばれたから、しかた無しに来てやったんだ!」
翔之介たちが持つのと同じ封筒をとりだすと、つばをとばして文句を言う。
「そうはおっしゃいましても……」
かたくなに乗船を拒否する係員ともみ合っていると
「――なんだ?無粋な声だな。せっかくの船出のときに」
船上から、いかにも高級そうな仕立ての服をまとった男性が声をかけた。
係員は
「これは蠏呪さま」
と、うやうやしく頭を下げる。
「ゲスさま」は、いかにも傲慢な口ぶりで
「選ばれたものしか乗ることのできない船に、身の程をわきまえず上がろうとする。いやしい魔道者によくある恥知らずなふるまいだ。招待状まで偽装するとは厚かましい」
吐き捨てる。
それを聞いて男は
「なにを言うだ、おめえ。おらは正直もんだぞ!」
さらにいきりたつ。
その様子にゲスさまは
「……うるさい蝿だ」
と身から魔素をただよわす。
それを感じ取った男は
「な、なんだ!?やるってか?おらは職人だから術を使うのは苦手だけんど、バリツのたしなみはあんぞ!やるならかかってこい!」
珍妙なファイティング・ポーズを取る。
すっかり剣呑な雰囲気になった搭乗口に、うしろでひかえる翔之介がはらはら、叔母は冷ややかに見ていたら
「……十鬼太郎さま、いかがなさいまして?」
ゲスさまの背後から、可憐な声がかかった。
そこには、見るからに深窓の令嬢といった趣の上品な若い女性が立っていた。




