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ある魔道家の跡取り息子  作者: みどりりゅう
巨人号の事件

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35/45

巨人号の事件6

 そのいかにも庶民的で正直まとうどな声に、翔之介は親しみを感じてしまう。


 見ると、そのおとなはボロのリュックサックに、ペラペラのシャツ。無精髭。おそらくだが、同じ服を数日着続けているのではないか。

 そんな、言ってはなんだがみすぼらしい格好をした男は、意外にもこの豪華客船に乗船する気らしい。


 乗船口でチケットを差し出すが、係員に止められた。

「――少々お待ちくださいませ、お客さま」


「なんだ?おらはほら、ちゃんと切符を持ってんぞ」

 そう言ってチケットをふるが、


 係員はそこではなく

「……お客さま。そのような身装みなりでのご乗船は、他のお客さまのご迷惑になります」

 と、止める。


 おとな……と言っても、まだ青年と言ってよいほどらしい年波の男は気色けしきばんで

「んなこと言ったって、しょうがねぇべさ!おらが山ごもりして仕事にせい出してたら、急にこんな呼び出し状が来たんだもの。

 ぜひとも来てくれっていうから、おらやりかけの仕事をほっぽりだして、わざわざ来てやったんだど。おらも好きでこんなとこに来たわけじゃねぇど。ただ斑玉 異一郎いいちろうってやつに呼ばれたから、しかた無しに来てやったんだ!」

 翔之介たちが持つのと同じ封筒をとりだすと、つばをとばして文句を言う。


「そうはおっしゃいましても……」

 かたくなに乗船を拒否する係員ともみ合っていると


「――なんだ?無粋な声だな。せっかくの船出のときに」

 船上から、いかにも高級そうな仕立ての服をまとった男性が声をかけた。


 係員は

「これは蠏呪げすさま」

 と、うやうやしく頭を下げる。


 「ゲスさま」は、いかにも傲慢な口ぶりで

「選ばれたものしか乗ることのできない船に、身の程をわきまえず上がろうとする。いやしい魔道者によくある恥知らずなふるまいだ。招待状まで偽装するとは厚かましい」

 吐き捨てる。


 それを聞いて男は

「なにを言うだ、おめえ。おらは正直もんだぞ!」

 さらにいきりたつ。


 その様子にゲスさまは

「……うるさい蝿だ」

 と身から魔素マナをただよわす。


 それを感じ取った男は

「な、なんだ!?やるってか?おらは職人だから術を使うのは苦手だけんど、バリツのたしなみはあんぞ!やるならかかってこい!」

 珍妙なファイティング・ポーズを取る。


挿絵(By みてみん)

 すっかり剣呑けんのんな雰囲気になった搭乗口に、うしろでひかえる翔之介がはらはら、叔母は冷ややかに見ていたら


「……十鬼太郎ときたろうさま、いかがなさいまして?」

 ゲスさまの背後から、可憐な声がかかった。


 そこには、見るからに深窓の令嬢といったおもむきの上品な若い女性が立っていた。



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