巨人号の事件5
「……まさか、ぼく売られたりしないよね?」
少年は危惧した。
なにせ獣吉の娘・豹子に
「あなたほどの美少年ならば、いくらでも買い手がつきますよ」
と、からかわれるほどなのだ。(真顔で言われたのが、おそろしかった)
甥の問いに、叔母は首をふって
「もちろんちがいます。あなたはこの家の当主です……売るには、おしい」
……言いぐさがどうにもこわいんだよな。この叔母も結局はずっぷりとした魔道者だから、少年から見てなにかあぶないところがある。
叔母はそんな甥の気も知らず、説明を続ける。
「……資料を見ると、魔道家からの流出品も売りに出されるようね。もしかしたら、我が家の品もあるかもしれない」
「えっ?そうなの?」
それは……叔母は、ぜひとも参加したいだろう。
なにせ10年前に禍王家に敗れて、陽城家はすべての財産を失っている。そのさいに禍王家がおさえて保持していた品は、今回の代替わりにあわせて獣吉が返却してくれたのだが、それらはほんの一部。ほとんどの品は外部に流出して、行方を探すのさえむずかしい。
魔美子は失った家伝の品々を少しずつでも集める気で、それもあって切り詰めた生活を送っていた。
そんな叔母にしてみたら、よい機会となるだろう。納得する甥に
「――それと」
叔母は、声をひそめると
「家の品が見つからなくとも、クルーズの旅ならば観光しながら食事がいただけます。少なくとも二週間、空腹から遠ざかることができます」
『豪華で美味しいお食事とお飲みもの!』と書かれたパンフレットを見せる。
……そうだね。ゴハンに困らないことは、なによりありがたいよ。
わかき当主はうなずいた。
……というわけで、斑玉家主催の催しに参加するため港に到着した翔之介少年は、今から乗りこむ豪華客船・巨人号(GIANTESS号。略してGTS)を眼前にして圧倒されていたのだ。
案内状に添付されていた旅のしおりによると、その高さは20階建てのマンションにならぶ65メートル、全長は320メートルにおよぶ。容積(総トン数)は17万トン(48万立方メートル)におよぶ……
と言われても、数字が大きすぎてイメージがわかない。ただ『巨人娘』(GIANTESSはGIANTの女性形)の名に恥じない船であることはまちがいない。
見ると、船の側部に大きなコンテナが搬入されている。食材かとも思ったが、魔の世界になじんで感覚が鋭敏になってきた少年は、その積荷からどうにもみょうな気配を感じた。
(なんだろう?)
気になったが
「さあ、行きますよ」
「は、はい」
叔母にうながされ、乗船のため乗降橋に向かうと
「いやあ。でっけぇ船だなぁ」
自分と同じようにまぬけな声を出して巨人号を見上げているおとながいた。




