巨人号の事件3
「大型船に乗船して、太平洋上をクルージングします」
(クルージング?クリーニングじゃなくて?)
「……まさか、漁船のおそうじバイトとかに応募したわけじゃないよね?」
きびしい生活を送ってきた少年は、すぐ自分が労働をしないといけないのではと思ってしまう。
「もちろんです。『豪華』客船の乗客として乗船します。部屋もスイートですから、ゆったりできます」
「豪華」を強調して言った。
「スイート、というのは甘いという意味ではありません。設備が『揃っている』という意味です」
心なしか、叔母の声も弾んでいるように聞こえる。
しかし慎重な少年は、いぶかし声で
「――そんなお金、どこから?」
こどもらしくない言いぐさで、問うた。
そもそも陽城家は再興したとは名ばかりで、構成は翔之介と魔美子のふたりきり。
10年前、禍王家に敗れたときに財産を全て失い、魔美子が生まれ育ったという屋敷もすでにない。
今は、代が変わって陽城と良好な関係にある禍王家の当主・獣吉が世話をしてくれた小さな貸家に、従者を使うこともなくふたりで暮らしている。
禍王家の隷属を離れた魔美子は、これも獣吉の世話で学園がらみの仕事に新しく就いたが、収入はそれだけで生活は決してラクではない。
翔之介にしたところで、ほんとうは放課後も魔能の訓練などでなく、以前のように食べられる野草摘みをしたいくらいなのだ。
けっして豊かでないこの魔道家に、そんな豪華な船旅などできるはずが……
「大丈夫です。今回の旅行はわれわれが出費するものではありません。招待されたものです」
招待?
「ええ。かつて陽城とつきあいがあった『斑玉』という魔道家があります。そこの当主が毎年、船を貸し切っておこなう親睦会に招待されました」
そう言って、魔美子は大きな封筒を見せた。
「『障玉會』開催のご案内」とある。(「會」は「会」の古い字で「しょうぎょくかい」と読むのだそう。なんだかものものしい)
なぜぼくらが招待されるの?当然の問いに
「この案内状によると、旧交ある陽城家の再興に祝辞を述べるとともに、よい機会としてその新たな当主と誼を得たい……とのことです」
「当主って……」
「無論、あなたのことです」
「……ぼくは、こどもだよ」
少年は肩をすくめるが、
叔母はきっぱりと
「魔の道に、年齢は関係ありません。禍王家での混乱鎮圧にあなたが大きく貢献したのは、魔道界で広く知られた事実です。あなたの活躍によって、わが陽城家は斯界での復権を果たしました」
そこは、誇らしく言った。




