巨人号の事件2
正体を明かした魔美子とふたりぐらしを始めた翔之介は、衰微した家の復権になみなみならぬ意欲を持つ年若い叔母から、きびしい指導をあずかるようになった。
それはまず魔道界での常識やしきたり、立ちふるまいの習得からはじまった。
通常人とは異なる業界の慣習は、それまでまったく斯界にふれてこなかった少年にとっては、ただただ面食らう異質なものだった。
加えて、魔道者として剛く生きていくために必須な能力……「魔能」の開発訓練も受けなければならないが、それが過酷だった。
「通常の魔道家であれば幼年期、いや母親の胎内にいるときから始めるものです……それに比して、あなたは訓練の開始がなんと言っても遅い。いかに才能があろうと、かなり無理をしないと先を行くものに追いつくことはできません」
転入した学園が終業して帰宅するや、待ちかまえる叔母による訓練が始まる。体内で発生させた魔素の基本操作や、それを発展応用させて術化するさいに必要な術式の理解など、およそ常識外のカリキュラムをこなさなければならない。
それまでふつうの小学校に通い、放課後には習いごとをする余裕など無く、むしろ生きるため公園で食べられる野草を探し摘んでいた少年にとって、その生活の激変はストレスフルなものだった。
しかし、翔之介は叔母の課すきびしい教育に対して駄々もこねず、なんとかその求めに応じようと努力していた。
なんといってもこの叔母は、実の兄である鷹太郎が禍王 龍雄に倒され陽城家が壊滅した10年も前から、その敵である禍王家に従者……と言うと聞こえはよいが、実際は抵抗が一切ゆるされない魔的な奴隷……魔隷として仕えてきたのだ。その恥辱と苦しみは、こどもの翔之介が想像してもあまりある。
本来お嬢さま育ちで気位が高い魔美子がそんな重苦の日々に耐えしのんだのは、ひとえに鷹太郎の子である翔之介の身を守るためだった。自分のために忍辱してくれた叔母の期待を裏切って逃げ出すわけには行かない。
少年はきびしい訓練に音を上げること無く、叔母の指導についていっていた。
この調子では、学園が夏休みに入ったところで遊ぶ余裕など無く、毎日が魔道の訓練づけになるのだろうと、こども心になかばあきらめていたのだ。
それが
「夏休みに入ったら二週間ほど、船旅に行きます」
と不意に叔母が言い出したものだから、最初はその意味がわからなかった。
(フナタビ?マタタビとかムササビじゃなくて?)
混乱する。




