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ある魔道家の跡取り息子  作者: みどりりゅう
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魔道家からの迎え3

 魔美子は目をまるくしている翔之介に

「禍王家は魔道の家です」と言葉をつづけた。


「……『まどう』ってなんですか?」

「ふつうの人間にはない能力、魔能を持った者が扱う呪文・技術などの体系のことです。そんな力をあなたは生まれついて持っておられるでしょう?」


 翔之介は戸惑いながらうなずいた。生前の母は幼い翔之介に、このふつうじゃない力はなるべく人前では見せないように、心を普段から落ち着かせておきなさいといっただけで、そのことになにか特別な技術があるなんて言わなかった。


「年若いあなたに魔道の正式な訓練はまだ無理だったのでしょう。むやみな魔能の暴発を制御するよう心がけなさいというお母上の指導は、幼いあなたには適切なものです。

 ――とにかく、そんな魔道を扱う家の中でも禍王はたいへん大きな勢力を持つ家で、その跡取り問題は非常な重大事です。本来ならば禍王家にお連れする前に、あなたが本当に龍雄さまのお子であるか確認すべきなのですが……どうやら、そんなことは無用のようですわ。そのお顔を拝見いたしますと」


 翔之介は顔を赤らめた。

 彼は自分の顔がコンプレックスだった。なんというか変わった顔立ち……それも、とてもおそろしいつくりらしい。

 「らしい」というのは、翔之介自身は鏡で見てもそんなにおそろしい顔だという感じを持っていないからだ。ただ、初めて会った人にはほぼ間違いなくギョッとされるし、ちっちゃい子供などには見たとたん泣き出されることもよくある。


 どうも他人から見ると十一歳のこどもの(つら)つきには思えないパンチのきき方らしいのだ。どちらかといえば引っ込み思案でおとなしい自分には全く不釣り合いな顔で、友達ができにくいのは異常な能力のせいだけではなく、むしろこの顔のせいということが大きいのではないかと彼は疑っていた。


「そのお顔は龍雄さまにそっくりでらっしゃいますので」

 魔美子は淡々と言った。


(やっぱりこの顔はお父さんゆずりなのか……)

 なんだか少しガックシだ。


 そのあとふたりは黙りあった。「詳しい説明は禍王家に着いてからでよいでしょう」というと、魔美子はだんまりを決め込んで一言も発さない。

 翔之介としては、なにかこちらから言ったほうがいいのかとも思うのだが、とにかくこの魔美子という女性が話しかけにくい雰囲気を出しているので、そうもしにくい。


 ちらりとあおぎみると、とても美しい横顔をしているのだが、なんだか冷たい感じなのだ。

 しかたないから翔之介は走り行く車窓の風景をながめて気をまぎらわせるしかなかった。


(ああ、緊張しちゃうなあ。いったいこの先どうなるんだろう……)

 そんなことを考えてしばらくしていると、不意に道の途中で車がスピードを緩めた。


「どうかしましたか?」

 魔美子がインターフォンを通じて運転手に尋ねると

「……前に何やらあやしい霧が出ています。どうやら何者かが行く手をさえぎるつもりのようです」


 翔之介が窓を覗き込むと、たしかに前の方に何とも言えない気味の悪い紫色をした霧が立ちこめつつある。

(いったいなんだ、あれ!?)


「突っ切れるかしら?」

「……さて、少々わたくしの手には扱いかねますかと」

 異常な光景に対し、意外なほど淡々とやり取りをする大人の態度が、少年には不思議でしょうがなかった。


「仕方ないわね。――翔之介さまはここにいらしてください」

「えっ?」

 そう言うと、魔美子はまるでちょっとジュースを買いに行くような気軽さで車の外に出た。


(いったい何をする気だろう?)

 彼女は霧の前で仁王立ちになると息をかるく吸い込んだ、と思うと


「そこで進路をさえぎるものはだれか!?われらを禍王の家中(かちゅう)のものと知った上でのふるまいか?即刻お引きめされよ!」

 かぼそい体から出たとは思えぬほどの大音声をあたりに鳴り響かせた。


 翔之介はその声量にまずおどろいたが、もっとおどろくことにはその呼びかけに返事するように紫色の霧全体から、寒々と震えるような声が響いてきたのだ。

「……戻るがよい……その『こども』はこの世に災厄を招くもの……決して禍王の家に入れてはならぬのだ……」

 翔之介の胸は詰まった。


「笑止!そのようなことを口にするものは、定めて禍王にさからう下等な(やから)であろう!身をわきまえて立ち去るがよい!」

「……わからぬとあらば、やむを得ん……生きてはここを通さぬぞ……」

 その言葉に続いて、なんと!霧が生きもののようにうねって車に迫ってきた。


(キャッ!)

 翔之介は車内で思わず身をすくめたが、外に立つ魔美子は冷静に「おろかなことを」とつぶやくと手をかざした。そして


「ひさかた!」


 (きぬ)を引き裂くような気合とともに放たれた白い光によって霧がはらわれたのである。

挿絵(By みてみん)

 魔美子は車にもどると、あっけにとられている翔之介に対し

「お待たせしました。さあ参りましょう」と、さも何事もなかったのかのように言った。

 腕時計を見て

「いまのところ予定通りです」とも。



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