大団円2
「……もしかして、豹子さんに指輪を見せるか聞いた時に獣吉さんがあんなに強くダメだといったのも?」
「そうだ。かわいい娘を危険な目にあわせるわけにはいかないのでね。なにせうちのこの娘ときたら、正義感は強いのだがとんでもない無鉄砲なのでね。何をやらかすかわからない。
しかし、まさか反禍王派を巻き込んでこんな大きなクーデターを引き起こすとはね。わが子ながらおそれいった娘だよ」
ハッハとの豪傑的な笑いを見せる獣吉に抱きかかえられながら豹子はしかし、意外にもなにか恥じらっている。
「お父さま、そんなにからかわないでくださいまし」
「なんだい豹子、顔を赤らめて。……ああ、翔之介くんがあまりにかわいらしいのに驚いているのか? 」
「いやなこと言わないで、お父さま。……でも翔之介さん。あなた、すっかりお変わりになってしまったのね」
豹子の言葉に、翔之介はそばにある池の水面に自分の顔を移したが
「……別に何も変わってない。前からのぼくの顔ですけど」
「そんなことあるわけないでしょう?大変わりよ」
「なにせ、陽城家は代々、眉目秀麗な一族として知られているからなあ。……君はこどものときの鷹太郎さんにとてもよく似ている。将来もたいへんな男前になるだろう」
周りの反応がわけのわからない翔之介に対し、魔美子が説明した。
「その変装呪文は、冬子さんがほどこした、いわば『まやかし』の術なのです。翔之介さん以外のものには龍雄そっくりの顔に見えますが、あなた本人にはそんなことなく本来の顔が見えていたのでしょう。将来、術が解けたときにあなたが自分の顔がわからずパニックにおちいらないようという、お母様の心くばりです」
(なーんだ、それじゃぼくにとってはなにも変わらないのか。つまらない)
今まで散々この顔で、他人におそれられてきた(と思ってきた)ので、急にとても良い顔だといわれてもピンとこない。それにまだ納得のいっていないことがある。
「あの……この家に最初にぼくが連れてきてもらった途中に、襲ってきた霧はいったいなんだったんでしょう?あれもたま子さんだったんですか?」
それに答えたのは、意外にも龍臣だった。
「いや、あれはおれが雇ったんだ。なにも危害を加えるつもりは無く、ただおまえを怖がらせて禍王の家に来ないようにさせるためだった。魔美子が迎えに行っているとは知らなかったのでな。 ……禍王の当主の座に前から異常な執着を見せていたたま子が、いくら腹違いの姉弟とはいえ、よそから来たおまえに対して、どんなことをするか知れたものではなかったのだ。危険を避けるという意味で、おれはお前には禍王家には来てほしくなかった。
まさか、たま子が銀鹿医師と魔能を奪うなんておそろしい研究までしているとは知らなかった。すべては兄であるおれのことを思っての暴走だ。許してやってほしい」
頭を下げる龍臣に翔之介は顔を赤らめながら
「やめてください、そんなマネ。龍臣さんのおかげでみんな助かったんですから、もうおあいこでいいじゃないですか」
そして、照れをかくすように魔美子にたずねた。
「よく、ぼくの秘密を禍王家の方に言わずに黙っていてすみましたね。隷属契約があったのに」
すると、若いおばは微笑みながら言った。
「わたしは禍王家の人間に嘘をつかずにすむよう精一杯苦心しました。たとえば豹子さんに、本当に翔之介さんが禍王の子かと聞かれた時も『前当主と冬子さんの間の子です』と言って、やり過ごしました。『前当主』というのはもちろん、禍王ではなく陽城の前当主である鷹太郎お兄さまのことです」
「でも、ぼくには、会ったときはっきりと言いましたよね。ぼくの父親は禍王龍雄だって……そんな嘘をついても大丈夫だったんですか?」
「それについては心配はいりませんでした。だって『あなた』は禍王の人間ではありませんもの。他の人はそのことを知らなくとも、わたしは知っている。隷属契約の範囲外ですから、あなたにはいくらでも嘘が言えました。――あなたに早く真実を伝えたかったのはやまやまですが、そうすると禍王に気取られる恐れがあった。あなたのようなこどもが嘘をつき続けるのはむずかしいことですからね。あなたの身を守るため、ぎりぎりまで真実をかくすことを冬子さんは望んでおられました」
「そうですか」
嘘をつかれていたのはちょっとシャクだったが仕方ない。確かに翔之介は自分でも、隠しごとができるようなタイプだとは思えない。
翔之介は明るい気分になって言った。
「じゃあ、もうこれで本当にすべて一件落着なんですね。もうぼくは魔道家の跡取りでもなんでもなく、魔道の訓練なんてものもせずにすむ」
すると、今まですっかり和らいでいた魔美子の顔つきが急にきびしくなった。
「なにを愚かなことを言っているのです!あなたにはこれから亡きお兄さまの遺志を引き継いで陽城家を再興していただく、大事な務めがあるのですよ。立派な跡取りとなっていただくよう、わたしが今からビシビシ鍛えるからその気でいらっしゃい」
その表情は、初めて会ったときよりよっぽどおそろしかった。




