急展開4
(継承の儀式っていったい何をするんだろう?優勝旗の受け渡しみたいなもんかな?)
待ちくたびれたなあ、と翔之介がウトウトしていると、にわかに西の方から大きな爆音がした。
(――なんだ!?)
思わず起き上がって障子に耳を当てると、屋敷の中が大混乱になっているのがわかる。
しばらくすると、魔美子が話しかけてきた。
「――翔之介さま、よろしいですか?」
「どうかしたんですか?」
翔之介は魔美子を部屋に入れなかった。もちろん警戒してのことである。
魔美子もそんな翔之介の態度に気付いているが、表には出さない。
「……反禍王派の大きな襲撃です。外部結界を破壊されました。どうやら豹子お嬢様の手引きのようです」
「豹子さんが!」
「前々から裏家が反禍王派とパイプを持っていることはわかっていましたが、このようにあからさまに手を結ぶとは考えておりませんでした。あの方は、どうやらあなたに当主の座を取られるぐらいなら大おばさま相手にでも逆らう道を選択なさったようです……おろかなことだと思いますが。いくら反禍王派の力を借りたとしても、豹子さまでは龍子さまの相手にはなりません。
とはいえ、わたしも防御に向かわなければなりません。豹子さまに攻撃はしかねますが、ほかの反禍王派の侵入をふさがねば……それにしても、銀狼先生の弟子をかむのに送っておいて正解でした。あの妖刀つかいの少女が敵に回っていたら、どれだけの被害が出るかわからない……」
意味の分からないことをつぶやくと、きっぱりとした口調で
「ですから、今よりわたしはこの場を離れます。翔之介さまはけっしてこの部屋の中から離れないようになさってくださいませ……これは、わたしよりの心からのお願いでございます」
魔美子はそう言い残すと、足早に去った。
(おかしいな……)
顔を見ていない扉ごしのやり取りだったせいもあるのかもしれないが、いつもの彼女らしくない、心からの言葉に聞こえた。
(――いや、いけない、だまされるな。あの人はぼくを襲ったんだ。信用してはならない)
扉をそっと開けてあたりを見わたすと、翔之介は部屋を抜け出した。
遠くで音はするが屋敷の中にはだれもいない。敵の襲撃にもう当主の儀式どころではなくなっている。
(チャンスだ!)
あわてて裏庭の蔵に向かった。
外壁周辺では侵入して来ようとする術者と、むかえうつ禍王家の従者たちが激しい術の攻防を繰り返していた。
そのすさまじい戦いの音、魔術の光が飛び交う間を気づかれぬよう縫いくぐって蔵にたどり着いた。
(やった!鍵が開いてる!)
思わぬ幸運に、すばやく中に入った。
内側から閉めると、外の音が遮断されて、別空間に入ったようだった。
暗がりの中、手探りで探すと
(あっ、あれだ!)
あの大きな鏡が立てかけてある。
急いで母の形見を取り出して縁にあてがおうとしたら、
後ろから手首をつかまれた。
翔之介はギョッ!となった。
「……そうか。鏡が出入り口になっていたのか。異空間への扉だね。その縁飾りの欠けにそんな意味があったとは。さては冬子さんの残した品だね」
そのやわらかい声は、銀鹿医師のものだった!
「いったいこの鏡はどこに通じているのかね?いや、いまはそんなことはどうでもいいのだけど……」
「銀鹿医師!手を放してください!」
「そうはいかない。君にはしてもらわないといけないことがある。今ここで君を逃がして、禍王の当主になられては困るんだよ」
まさか。銀鹿医師が!?
「……医師、そんなところで何をしていらっしゃるの?」
蔵の外から声がかけられた。
その聞きなれた声に、翔之介の胸には希望がわいた。
「たま子お姉さん!」
そこには優しい異母姉のすがたがあったのだ。
「だ、だれか助けを呼んでください!お姉さんひとりじゃ危ない!」
しかし、姉は冷淡に翔之介を一瞥すると銀鹿医師に
「早く、その子を黙らせて連れてらっしゃいよ。いくら音や光が漏れないように結界を張ったとはいえ、手早くしないと他の者に気付かれるわ」
その声音と表情には、翔之介が初めて見る底の知れない冷たさがあった。
そして、なんということだろう!
たま子の腕には黒革の手袋がはめられ、そこから禍々しい黒い妖気が漂っているのだった。




