豹子の話3
「えっ!?……そんな」
「反禍王派の暗殺によっておじさまといっしょに暗殺されたということになっているけど、それは嘘よ。父はもともと反禍王派とも関係をよくしようと尽力してきていて、彼らとも一定の信頼を築いてきた。反禍王派が父を暗殺する理由はない。それにおじさまと父は同時に暗殺されたというけど、おじさまは毒殺で、父は術で倒されたなんて変なことになっている。遺体もおじさまのは見つかってるのに、父のは術でバラバラになってしまったとかで見つかってもいない。お父さまを倒すことができる魔道者なんて、おじさまか大おばさまだけよ」
翔之介には知らないことばかりの話だ。
「わたしは前から言っているようにあなたが当主になることには断固反対よ。でも、それは自分が当主の座にどうしてもつきたいという私心からでは決してない。――あなた、つまり龍雄おじさまの子が当主になるというのは危険すぎるのよ。龍雄おじさまは、あまりにほかの魔道家のうらみを買っている。今度またその凶王の息子、それも『ぬばたま』を使うようなおそろしい子があらわれ、当主の座を継ぐという話は、すでに魔道界中に広まっているわ。この天鼠先生の件でますます広がるでしょうね。また、かつての暗黒時代が復活するのではと恐怖・警戒する意識はとても強い。
正直、このままではあなたの当主就任前、または後にでも大きな反乱、争いが起きるわ。わたしはそんな悲劇を引き起こしたくない。――だからお願い、わたしに当主の座を譲ってちょうだい。穏健派だった獣吉の娘であるわたしが当主になれば、反禍王派もみなも受け入れてくれるわ」
翔之介は黙った。
豹子の話は本当なのかもしれない。たしかにあの昨日、学園で受けた態度を見ると、自分たち表家が魔道の世界で恨まれているのは間違いなさそうだからだ。それにもともと、こんな魔道の家の跡取りになりたい気持ちは翔之介にはさらさらない。豹子に譲っていいのならそうしたいところだ。しかし
「ぼくにはわかりません。どうしたら本当はよいのか。――ただぼくは龍子大おばさまやたま子おねえさんたちの気持ちを裏切るようなことをしたくありません。表家のみなさんは、ぼくにとっては新しくできた家族です。その家族のためになるようなことを、ぼくはしたいです」
「大勢の血が流れるかもしれないのよ」
「……それは困るけど、ぼくがその当主になったとしても、みんなが仲良くできるようにしたら、それでいいんじゃありませんか?豹子さんも表家と仲良くしてください」
「そんなの無理よ」
豹子の、即座に一蹴するその言いぐさに翔之介はうなだれた。
豹子は、そんな年少のいとこをいかにもいぶかしげにまじまじと見た。
(きれいな目で急にじっと見つめられて、翔之介はドキドキした)
「……ほんとうに不思議ね。こんなに龍雄おじさまとそっくりな顔をしているのに、あなたと話していると、とても表家……ううん禍王家の人間とは思えない。冬子さまの血かしら?あなたがそのままの気性で大人になって、しかも龍子大おばさまがいらっしゃらなければ、禍王の当主になってもらってもいいのかもしれないという気がするわ。でも今の状況下では、あなたに当主になってもらう訳にはやはりいかない。
あなたがどうしても当主の座にこだわるというのならわたしはあなたに逆らうわ。その覚悟はしておいてちょうだいね」
それはいとこに対する、はっきりとした宣戦布告だった。




