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ある魔道家の跡取り息子  作者: みどりりゅう
ある魔道家の跡取り息子

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真夜中の冒険2

 ……翔之介が目を開けると、もとどおりの鏡がある。


(あれ?でもなんか変だぞ)

 後ろを振り返ると、そこはすでに先ほどまでの廊下ではなく、見たことのない薄暗い空間に自分が立っていることに気付いた。その空間は背後、ずっと奥まで続いているようだ。

(えっ、これってどういうこと?)

 鏡をもう一度よく見直すと、縁飾りの模様が、さっきとまるであべこべなことに気付いた。

(さては、鏡の向こう側に入ったんだ!)


「この家では何でも起こり得る」

 と銀鹿医師が言っていた言葉が思い出された。


(どうしよう、これから?)

 手には母の形見の金属片がある。これをはめたら、元の廊下に戻ることができるんじゃないか?

(今日はもうここまででいいじゃないか。こわいし、もうもどろう)

 そう思ったとき、後ろに続く空間、そのずっと奥の方から、何やらうめく声がした。


 グルゥルルルルゥ……


 それは決して人間の出す声ではない。

(なんだろう?)

 そのときには、翔之介はもうその声がなんなのか探るために一歩を踏み出していた。

 後々思い返してみても、自分がこんなに好奇心が強かったとは、不思議なくらいだった。

 ただ、この時は、そのうめき声が自分をいざなっているように思えてしかたなかったのだ。


 少し行くと、石造りの階段が下に続いており、翔之介はおそるおそる降りて行った。

 湿ったカビくさいにおいがする。蛍光性の苔が()しているせいか、灯りがなくともこまらなかった。

 声がだんだん大きくなる。

 

 下に出た。

 そこは、まるで大きな洞窟だった。天井からは鍾乳石が垂れ下がり、床からは石筍せきじゅんが生えている。

 奥に、先ほどからのうめき声といっしょに人の声がした。聞いたことのある声だ。


 翔之介は気づかれないように、そちらにこっそり近づいた。

 心臓がどきどきした。下が苔むしているおかげで足音が吸収されるのが幸いだった。

 ごつごつした大きな石筍に隠れてのぞきこんだ。


 そこには、龍子大おばと猪吉の姿があった。その前には、なんとも大きな檻がある。暗くてここからは見えないが、その中から、あのうめき声がしているのだ。


「……もういい加減あきらめてはどうじゃな?もう龍雄の跡継ぎも見つかったのじゃぞ。わしもおまえにこれ以上無体なことをしとうはない」

 グルゥルルルルゥ……

「ええい、まだそのようなことをいうか?この片意地ものめ。いつまでもわしの言うことに逆らいおるわ。もうよい、そこに一生おるがよい!」

 グワゥッ!

 龍子のののしりに、中にいるものが激しくうめいて檻にぶつかる音がした。


 翔之介が身をひそめる脇を龍子と猪吉が階段を上がっていく。途中、猪吉が鼻をひくつかせてけげんな様子であたりを見わたした。

「いかがした?」

「いえ、なにか常ならぬニオイがする気がしまして……」

挿絵(By みてみん)

「ばかな。わしら以外にこの鏡内洞(きょうないどう)に入ることができるものなどおらぬわ。廊下の鏡は壊れておるし、もう一つの鏡は龍臣のやつがこどものとき割ってしまいおった。

 わしの部屋にある鏡以外、入りようなどないわ。おぬしも年を取って感覚が鈍ったか」

「……かもしれませぬ。なにせ、わたくしももうお仕えして百年になります」

「そんなになるかえ?ふたりでいっしょに夜の人狩りに出かけたころが懐かしいのう」

「さようでございますな」

 年の寄ったもの同士の会話にありがちに、話がいつの間にか昔の思い出話に移って、そのまま上に上がっていってくれたので助かった。


 翔之介はおそるおそる檻に近づいた。

 その中にいるものは、龍子たちと違ってすでに翔之介の存在に気付いているらしい。警戒したのか、細かいうめき声をあげる。

 しかし翔之介は近づくことをやめなかった。





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