真夜中の冒険1
魔美子は寝る前に、翔之介に挨拶に来る。
いやいやの義務心からとしても、とてもリチギな人だ。
この冷めた表情の下に、口にはできないほどのうらみを自分に持っているのだと思うと、悲しくなる。
「あしたから魔能訓練に入ります」
「わかりました」
ついつい緊張して、やりとりもそっけなくなる。
たま子に言われたとおり、すっかり信用することはやめた方がいいのかもしれないが、世話役なのだから本当は仲良くなれたらいいのに、と翔之介は魔美子が去ったあとも思うのだった。
しかし自分の家をつぶされた彼女にしてみると、そんな気がさらさらないに決まっている。これからどんな態度で彼女に接していったらよいのだろう?
そんな、あれこれいろいろ考えていると眠ることができなくなった。布団の中でぐでんぐでんしてしまう。
そんなふうに寝返りを打っていると、自分の唯一の持ち物であるリュックサックに目がいった……
と、不意に翔之介は思い出した。
(そうだ、あの鏡!)
飛び起きるとリュックサックの中をあさった。そして包みを見つけると、ほどいた。
(そうだ!やっぱりこれだ!)
翔之介が取り出したのは昨日、静代おばさんから預かったばかりの母のなぞの形見である。
昨日はあまりにいろいろなことが矢継ぎ早にあったので気づかなかったが、これはあの廊下にあった鏡の縁飾りにそっくりだ。あの欠けていた部分にちがいない。
(でも、お母さんはなんでこんな縁飾りのかけらを、わざわざ形見として残したのだろう?)
あれこれ、そのかけらを調べまわしてみたが、何の変わったところもない細工物だ。なにが役に立つのか、母の考えていることがわからない。ちょっとの間、考えると翔之介は決断した。
(よし、もう一度あの鏡を見に行こう)
それも昼間じゃない。だれにもわからないように夜中のいま一人で行くんだ。
たま子にも知らせないのは悪い気がしたが、母が自分にだけ残したもののことを安易にもらすのは、実の姉にでもなんとなくためらわれたのだ。
家の中にいる限りは何も心配はいらないと言われているから、廊下に出るくらい大丈夫だろう。
翔之介はこっそり部屋を抜け出すと、渡り廊下に向かった。
結界のおかげで危なくはないかもしれないが、昼間、魔美子に
「この家の廊下はふつうではないので、気をしっかり持っていないとすぐに迷ってしまいます。迷子になったら数か月は戻ってこられません」
と言われていたので、気を張っていくようにした。
彼女は、内心はいやいやでも世話役として翔之介に適切な助言をしてくれるので助かる。本当は仲良くなれたらいいのにな、とまた思ってしまったが仕方ない。
翔之介はだれにも会わずに大鏡の前に立つことができた。縁飾りの欠けた部分に、母から残された金属のかけらをあててみると
(やっぱり!ぴったりあうよ!)
やはり、母の形見はこの縁飾りの一部にまちがいない。
(でもだからといって、こんなことがいったい何の役に立つっていうんだ?)
それで思わず、翔之介が強く金属片を押し込むと
ピカッ!
鏡が光った。




