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第7話『水上都市ハルバネラ』

本日2話目

「旅の人、助かったぜすごい召喚獣を持っているんだな、俺はガイル冒険者チーム緑の穴熊(グリーンシザーズ)の頭張ってるガイル・クルーガーだ」


 ケガ人への処置を指示したガイルが幸雄たちの元へとやってくる。


「私は召喚士のユキオ・サナダといいます。こちらは同門の――」

「シズナ・ヒムロです」

「ユキオにシズナか。すまないな、ちゃんとお礼がしたいんだがまだ一匹残ってんだ。おい、すぐに仕掛けをなおすぞ、近くにいる可能性もある見張りを立てろ、槍隊はいつでも動けるようにしておけ、さっきみたいに腑抜けてると取り分へらすからな!」


 前半は幸雄たちの礼で、後半は後ろに振り返り怒鳴り散らしている。


「あの、ガイルさん。あと一匹のことなんですけど、どうして三匹だってわかったんですか」


 四匹以上いる可能性はないのだろうか。


「この川は上流にハルバネラ、下流にはアキノスタージって大きな街があってな、川へと侵入する大型のモンスターは全部察知できる仕組みになっている。有名な話だが」

「知りませんでした」

「やっぱりよそから来たのか、この道はホーンダイルを退治するまで封鎖されているからな」

「俺たちは向こうの森を抜けてきたんです」

「ああ、さっきもそう言っていたな、あそこは凶暴なモンスターが多数いるガルーンの森、確かにさっきの召喚獣がいるなら突破できなくはないか」


 幸雄たちが飛ばされてきた森は危険地帯だったそうだ。


「それでもう一匹いるとの話ですが――」

「安心してくれ、もうへまはしない」


 説明しきる前に話を遮られてしまった。次は必ず俺たちが倒してみせると、力強く握りこぶしを幸雄にみせてくれたのだが、その相手はもういないのだ。取り返しがつかなくなる前にはやく説明しなければと、幸雄は口で言うよりも証拠を見せるべきだと判断してこの場に黒焦げたホーンダイルを呼び出した。

「解放」


 横たわるのは真っ黒になった固体。


「こ、こいつは」

「すみません、切り出すタイミングがわからなかったので、実は先程このホーンダイルに襲われてしとめていたんです。おそらくですがコイツが三匹目ですよね」

「収納魔法か、まさかホーンダイルを丸々一匹入れられるとは」


 罠を設置しなおしていた男たちの手も止まり信じられないといった表情でこちらを見ている。


「等価交換しないでよかったですね」

「ああ」


 静那がこっそりと幸雄にだけ聞こえる声でささやく、昨晩のうちに欲しいモノはあらかた交換していたので、無理にホーンダイルを交換材料に使うことはなかったが、交換したいカードがあればしていたかもしれない。


「マルト、こっちにきてくれ」

「呼ばれるまでもありませんよ」


 ガイルがマルトなる人物を呼び寄せようとしたら、そのマルト本人がガイルのすぐ後ろから現れた。


「きてたのか」

「もちろんですとも、これほどの実力をお持ちの御方に挨拶をしないなど商人失格です。はじめまして旅の御方、わたくしサンビスカス商会の会長をしておりますマルト・サンビスカスです。たったお二人でホーンダイルを倒せる召喚士様に出会えるとは、今日は良き日ですな、どうぞご贔屓に」

「ユキオ・サナダです。よろしく」

「シズナ・ヒムロです」


 四十代くらいの上質な生地で作られた洋服を着こなすふくよかな男性が幸雄へ挨拶をしてくる。マルト会長とその部下たちは緑の穴熊に罠を作る資材や食糧を届けに来ていた商人だった。


「サナダ様にヒムロ様ですな、必要な物があればなんでも言いつけてください。サンビスカス商会が全力で用意させていただきます」


 やり手の営業マンのようにぐいぐいと迫ってくるマルトに社会人を半年しか経験していない幸雄ではどう対処していいのかわからない。


「今のところ、欲しいモノは思付かないかな」

「そうですか、それでは思いつきましたらご連絡ください。それではお二人の旅の目的を伺ってもよろしいですかな」

「目的ですか」


 幸雄がチラリと静那に視線を送ると、幸雄に任せると視線で返事をしてくれた。


『たった数日でマスターと静那は仲良くなりましたね』


 確かにいつの間にか視線だけで短いやり取りができていることを幸雄は不思議に感じながら、自分の方が年上なのだから年下の少女を守らないとの責任感と、少しの見栄を混ぜてこのまま会話を続ける。


「旅の目的は話せば長くなりますので、当面の目標はどこか街へいきたいですね」

「それでしたらわたくしたちと一緒にハルバネラへまいりましょう。我が商会もございますしオススメの宿などにも案内できますよ」

「わかりました。よろしくお願いします」

「それではガイルさんホーンダイルの積み込みをお願いします」

「その前に解決しなくちゃいけない問題があるだろ、助けてもらった上でずうずうしいんだがユキオたちに頼みがあるんだ」

「なんですか」

「あの二体のホーンダイルなんだが俺たちに売って貰えないか」


 二体とは黒焦げと静那が倒した固体を差している。


「俺たちはホーンダイルの討伐と素材回収までがセットの依頼を受けていたんだ。二体分の報酬は全てそっちにまわすから頼む」

「かまいませんよ、黒焦げにした方は大丈夫なんですか」


 譲るのはかまわないが、黒焦げの固体は素材回収できるのか。


「それは問題ありませんよ、皮なども素材になりましたが一番の目当て素材は角でしたから、表面は焦げていますが削れば使えるでしょう」


 ガイルではなくマルトが答えてくれた。どうやら素材回収の依頼を出したのはマルトだったらしい。簡単な話し合いでマルトの査定額に助けた礼としてガイルたち緑の穴熊が色を付けてくれることになった。


「ホントに等価交換しないでよかったですね」

「まったくだ」


 マルトとの会話でこの世界の通貨を一切持っていないことに気がついた二人はホーンダイルを残しておいて本当によかったと安堵する。

 幸雄と静那は三匹のホーンダイルを荷馬車に固定した緑の穴熊やマルト商会一行と一緒に水上都市ハルバネラへ向かっていた。


 移動馬以外にもモンスターに馬車を引かしていたのでイグアラプターで移動しても問題なさそうだが、いまさらイグアラプターを召喚するのも変なのでアスタリオンに二人乗りのまま移動、モンスターも三十人以上いる集団には襲ってこない。のどかな陽気に静那の肩にいた見上げる翼竜ルビーはアスタリオンの頭の上に移動して丸くなりすやすやと眠っていた。


 これだけなら微笑ましくて幸雄も眠くなっていたかもしれないが、黒髪の美少女が珍しいのか、アスタリオンの傍にいる緑の穴熊の若いメンバーたちがちらちらと静那を盗み見ては感嘆の息をこぼしたあと、二人乗りをしている幸雄に悔しそうな視線を送ってくるのだ。


 これでは眠気など来るはずがない。


(俺たちは別に恋人ではないんだが)


「あ、やったレベルが上がってる」

「え? あ、俺も上がって7になってる」


 手持ちぶさたにステータスを確認した静那がレベルがアップしていたことに喜び、幸雄も確認してアップしていると伝えると、馬上で振り返り悔しそうに綺麗な唇をかみしめた。


「どうしたの?」

「追いついたと思ったのに」

「まあ、同じ相手としか戦っていないからな。それでも、徐々に上がりにくくなってきたし、そのうち同レベルになるって」

「わかっていますけど、なんか悔しいです」

「ええっと、レベル6だと新しいカードって何かある」

「レベル6ですか、それなら【侍竜人カエデ】ですね」

「お、エレメント系じゃないから武装憑依できるな」

「はい、これで手数はかなり増えます。私のデッキって武装憑依と相性よくないですよね。やはり等価交換が羨ましいです」


 スキル武装憑依は実体の無い魔法生命体のエレメント系モンスターでは使用できない弱点があった。エレメントモンスターを多く入れているらしい静那は取れる選択肢が少ないことを意味する。


「俺は武装憑依の方が羨ましいけどな、俺のデッキにもこっちじゃ使い物にならないマジックカードがある。家にあるモンスターカードと交換したいぜ」


 カードバトルなら重宝したマジックカードが現実になるといくつか使い物にならないお荷物カードとなってしまった。


「好奇心でお聞きしますが、お家にはどのくらいカードがあるのですか」

「詳しく数えてないけど二十キロくらい」

「……あの、カード枚数を聞いたのですが、どうして重さでの返答を」

「使ってないカードを収めた箱が四箱くらい、一箱五キロくらいだと思うから合計で二十キロくらいとしか、万は超えていると思う。ミネルヴァは覚えてる」

『すみませんマスター。私が明確な自我に目覚めたのは異世界に繋がる魔法陣が完成した時なので、前の世界のことはあまり、漠然とたくさんあったとしか』

「だよな」


 一度にまとめ買いする幸雄はカードの正確な枚数など最初から数える気などない。また一箱五キロと言うのは幸雄の大雑把な予測なのでもっとある可能性もある。


「……そうですか、大会上位者となるとそれくらいカードを持っているモノなんですね」


 幸雄のカード量を聞いて静那は考え込んでしまった。そんな静那に苦笑いを浮かべた幸雄の耳にたまたま隣を進む男の小声が聞こえた。


「くっそ、白馬に二人乗りでイチャイチャとか王子気取りかよ、落馬して蹴られちまえ」


(だから、恋人ではないんだって、白馬が似合わないのは自覚してるから許してくれー)


 嫉妬の怨念に困っていると前をいく馬車のマルトからお声がかかった。


「サナダ様、ヒムロ様、見えましたよあれが水上都市ハルバネラです」

「うわ」


 前に座る静那が思わず声を出した。水上都市と名乗るのは伊達ではない。幸雄も知らずに声を出していたかもしれない。

 それは広大な湖を堰き止めるダム型の都市であった。上下で二つに分かれた街、上の街はまるで湖に浮かぶように建設されており、下の街は中央にある巨大な滝を囲むように広がっていた。


「日本では考えられない街の構造ですね」

「まさにファンタジーだ」

「どうです。すばらしい光景でしょ、この街にはじめてくる旅人は皆お二人のような表情をされます」


 幸雄たちのいた位置は小高い丘になっていたので都市の全貌が眺められたが、もう少し近づけば上の都市は見えなくなる。


「我らハルバネラの民はバネル湖で生まれバネル川によって育てられたようなもの、水資源があればどんなことでもできますし、よそでは味わえない絶品料理も作れます。きっとお二人もお気に召すと思いますよ」


 二人の反応に満足したマルトが街の自慢を語りながらバネル川沿いを進み街の入場門にたどり着くまで続いた。

 滝の下に半円形に広がる街は全て城壁で囲まれていた。滝から流れるバネル川の上にまで壁があり、大型船でも余裕で通過できる水門まで完備していた。

 陸路で入る門には道が封鎖されていた影響か、警備している衛兵のみが立っていた。

 衛兵も近づいてくる集団に気がつき、門の中へ何かを叫ぶと嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。


「さすがは緑の(グリーン・)穴熊(シザーズ)ですね。たった一日でホーンダイル三匹を倒すなんて!」

「ま、まあな」


 目を輝かせ称賛する衛兵に、先頭にいたガイルがぎこちない返答をする。

 ガイルたち緑の穴熊は有名らしく衛兵たちの喝采で迎えられた。門を潜ると、石作りの家が七割、木造の家が三割で街は構成されていた。石が敷き詰められたメインストリートのわきには水路があり清潔感がある。


「サナダ様、ヒムロ様、今晩のお宿ですが大滝の皿がオススメです。わたくしどものお取引先の一つで丁寧なサービスが売りなのですよ、もちろんお代はホーンダイルを譲ってもらったお礼にわたくしがしはらいますので」

「そうしろよ、俺たちもその宿をホームにしてるんだ、お前たちの話も聞きたいし夜は大滝の食堂で一緒にパーと食おうぜ」


 あまりの高待遇にためらいを感じる幸雄だが、ホーンダイルの代金をもらうまで無一文なので、ここは言葉に甘えることにした。


「よろしくお願いします」

「それでは、わたくしも夜の打ち上げに参加させてもらいましょう。ホーンダイルのお代もその時お持ちしますので、ではまた夜に」


 マルトは商会へホーンダイルを持っていくために門を入ってすぐに別れ、幸雄と静那はガイルの案内で大滝の皿宿へとやってきた。三十人からなる緑の穴熊がホームに使うだけあり砦と思えるほどの規模があった。三階建てで、一階は石造り二階より上は木造であった。


「馬は裏手に客専用の厩舎があるから、そこに預けるといい」

「いえ、その必要はありませんよ」


 静那に先に降りてもらい、続いて幸雄が降りてからアスタリオンに手をかざし緑の光と共にカードへと戻した。


「驚いたぜ、立派な馬だとはおもっていたが、そいつも召喚獣だったのか」

「まあ、そうですね。忠実なヤツなので私が落馬しても蹴られることはありません」


 道中さんざん幸雄に怨念を飛ばしてきた男が大口をあけて驚いている。これで少しは意趣返しができたと幸雄はわずかに口径を緩めた。


「……真田さん」

『……マスター』


 大人げないと言いたそうな二人をスルーして幸雄はガイルに続いて宿へと入る。若いメンバーは全員の馬をあずかり裏の厩舎へと向かっていく。

 宿の中は絨毯が敷き詰められており、従業員はお揃いの制服を着て接客をしている。


「大滝の皿宿をご利用いただきありがとうございます」


 ガイルが受付でマルトの伝言を渡すと、狼の耳と尻尾をはやした従業員がやってきて幸雄たちへ一礼をする。


「マルト様には日ごろ大変にお世話になっております。どうぞこちらへお二人のお部屋までご案内いたします」


 まるでリゾートホテルにきたようだ、案内するのが狼耳の獣人でなければ元の世界に戻ってきたと幸雄は錯覚してしまいそうになる。幸雄自身はテレビで見るくらいでリゾートホテルになど行ったことはないが。


「こちらが二人様のお部屋になります。もうすぐ夕食のご用意が整います。それまでどうぞお寛ぎください」

「へ?」


 あまりにも想像していた異世界ファンタジーとのギャップに思考していた幸雄は案内された部屋の一つしかないダブルサイズのベッドを目撃して現実に戻された。


「私たちはどんな関係だと思われたのでしょう」

「えっとだな、いまから部屋を変えてもらうか」

「宿代を出してもらった上に部屋替え要求は図々し過ぎるのでは、もしもう一部屋借りるとなると代金がありませんよ」

「…………」

「素直にこの部屋に泊まるしかありませんね」

「いいのか?」

「夜営の時も近くで寝てましたし、真田さんのことは信用できると思いますので」

「おお、まかせろ、俺は紳士だと宣誓するぞ、幸いソファーもあるし俺はそっちで寝るよ、中学生の子供に手を出すほど落ちぶれていない」


 混乱ぎみに幸雄はいろいろと口走る。それを聞いた静那のキレイな眉が少しだけ吊り上ったが正常ではなかった幸雄は気がつかなかった。


「そうですね、護衛にヒサメを召喚しておけば安心ですね」

「それは全然信用されていないのでは」

「そうかもしれませんね」

「あの、もしかして機嫌が悪い」

「そんなことありませんよ」


 あきらかに機嫌が悪くなっている。


「あ、ほら、この部屋シャワーがあるよ、さすがに湯船はないけど、これで旅の汚れおとせるぜ」

「そうですか」


 思いっきり素っ気ない返事をされた。

 そのまま夕食時間になるまで静那の機嫌が直ることはなかった。

夜に本日3話目を投稿予定

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