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第3話『セーラー服を着た黒髪の少女』

眷属召喚(コール・レギオン)。来てくれ聖域を守る白き門番【白鎧(ホワイト)の盾騎士(アーマー・ルーク)】」


 カードに描かれていたイラストは白亜の城壁の前に立つ白い鎧と盾を持つゴーレム。そのイラスト通りの白きゴーレムが姿を現し、巨大モンスターへと突撃した。


 美少女の前へと割り込み、その盾で鎌を受け止める。大きさはモンスターの方が一回り巨大であったが、白鎧の盾騎士は見事に鎌を押さえてみせた。


「早くこっちに!」


 幸雄は少女を呼び寄せ寝泊りをした家へと駆けこみ、窓からモンスターと白鎧の盾騎士との戦いを伺った。


 攻撃力よりも防御力に優れた盾騎士は繰り出される鎌の攻撃を耐え、幸雄たちの方へと来させまいと防いでくれている。しかし、鎌の攻撃は鋭く盾が徐々に削られているようで、このまま続ければいずれ盾騎士が敗れてしまうのは確実だ。


「ホワイトアーマーはあなたが召喚したのですよね」

「ああ」

「あれより強いモンスターは召喚できるのですか」


 幸雄と同じように少女も白鎧の盾騎士では勝てないと判断したようだ。あきらかに年下の少女が落ち着いているのに自分が取り乱すわけにはいかないと男の意地で平静を装いながら質問に答えた。


「いいや、今召喚できる中ではあれが最強だ」

「そうですか」

「こっちも聞いていいか、盾騎士の名前をホワイトアーマーって知っているってことは、やっぱり君も日本人?」

「見ての通りの日本人です。あなたと同じ、やはりここは日本ではないのですね」


 見た目は日本人だけどその落ち着きようは異世界人と言われても幸雄は信じていただろう。だがあの白鎧の盾騎士は日本で作られ日本のみで遊ばれていたゲームのモンスターだ。まさかこちらの世界に同じ物は存在しないだろう。


「日本どころか地球でもない、部屋でスラレギのデッキを作っていたらいつの間にかこっちの世界に移動していた」


 スラレギとはスラッシュ・ザ・レギオンの略称である。


「私も同じです」


 中学生くらいの幼い少女がTCGをやっていることに驚くが、今はそれどころではない。彼女もスラッシュ・ザ・レギオンのデッキ調整中にこっちの世界に移動したのなら。


「君も持っているのかデッキ、その中であれを倒せそうなモンスターは呼べないのか」

「召喚の仕方がわかりません。どうやったらいいのですか、強いモンスターはいます。呼び出し方を教えてください」

「デッキリーダーは教えてくれなかったのか」


 幸雄の場合はデッキの中核であるミネルヴァが直接指導してくれたのだが。


「デッキリーダーとは、このウガウガいっている存在のことでしょうか」


 ウガウガとは何か、彼女は自分のデッキを差し出してくるが幸雄にはウガウガなど聞こえなかった。聞こえるのは外で行われているバトルの音だけ。


『マスター、デッキリーダーの声は持ち主にしか聞こえません。もしかしたら彼女のデッキリーダーは人語を話せないモンスターなのでは』

「まじか」


 確かにスラレギのモンスターの多くは人型をしていないドラゴンや獣系が多く存在する。いや、人外の方が圧倒的に多い。幸雄がもし墓守犬シルバーをデッキリーダーにしていたら、ワンワンと鳴くだけのデッキになっていた。


 ゾッとする。もしかしたら最初のゴブリンとの遭遇で死んでいたかもしれない。よくやったぞ自分とミネルヴァをデッキリーダーにした過去の自分に称賛を送りながらデッキの使い方を簡単に説明する。


「デッキを持ってステータスと唱えてくれ、そしたらレベルが浮かび上がるから。そのレベル以下のモンスターなら眷属召喚って呪文で召喚できる」

「ステータス」


 さっそくデッキに向かいステータスと唱えると浮かび上がった文字は【氷室静那(ひむろしずな)/レベル2:魔力4】だった。


「レベル2これでは強いモンスターは呼べない?」

「そうなるな」


 期待を込めてステータスをチラ見した幸雄も静那と一緒に落胆する。外でも戦いはまだ続いているが、やはり徐々に盾騎士が押され始めている。


「ちなみに聞くけど、どんなデッキ構成、俺は聖域と仙忍の混成カウンターデッキだけど」


 スラッシュ・ザ・レギオンには大きく分けて六属性の集団がある。


 白をイメージカラーに持つ聖域。六属性の中で随一の防御力を誇る聖なる武装集団。

 緑をイメージカラーに持つ仙忍。多くが獣人系や植物系で構成された仙人や忍者のトリック集団。

 赤をイメージカラーに持つ覇竜。ドラゴン系のモンスターが多く六属性随一の火力を誇る集団。

 紫をイメージカラーに持つ邪龍。覇竜と同じドラゴン系に加えアンデットなども所属する呪術集団。

 黄をイメージカラーに持つ精獣。妖精や精霊系モンスターが多く六属性の中で一番魔法が得意な集団。

 青をイメージカラーに持つ冥海。水属性が多く所属する魔法も接近戦もこなすバランス集団。


 幸雄のデッキは聖域の高い防御力で相手の攻撃をいなし、トリッキーな仙忍の能力でカウンターを入れる構成になっている。ここ一番の火力はないが、大きな弱点もなくプレイヤーの腕次第でどんな局面にも対応できると自負している。ショップ大会上位常連の安定構成である。


「私は赤単色の高火力デッキです」

「もしかしてワンマンドラゴン」

「イエス」


 どうしてそこだけ英語で答える。


 ワンマンドラゴンとはデッキ五十枚制限ルールの中で通常のモンスターカードを極力減らし、強化用の魔法や使い捨て(エレメント)系を大量のつぎ込んだデッキのことである。このデッキの特性は多くのモンスターを召喚して戦うのがセオリーのスラッシュ・ザ・レギオンで一体か二体のドラゴンしか召喚せず、そのドラゴンを強化しまくって相手の集団を薙ぎ払う高火力仕様デッキ。


 ドラゴンの強化が成功すれば凶悪で、どんな陣形で待ち受けられても一掃できる可能性を秘めているが、ドラゴンの強化に失敗すると何もできずにボロ負けするとてもピーキーなデッキでもある。そもそもデッキに入っているドラゴンが少ないので、ドラゴンカードが手元に来る前に負ける場合もある。またドラゴンカードを引けたとしても召喚するためには多くの魔力が必要なので、召喚までの時間がかかり速攻デッキなどにはとても弱い。


「よりにもよってワンドラか」


 ワンマンドラゴン。略してワンドラ。一体のドラゴンだけが活躍することからプレイヤーの間ではいつしか言われるようになった造語である。

 レベル以下のモンスターしか呼べないこの世界で、高レベルドラゴンで構成されているであろうワンドラデッキは最悪の相性と言っても過言ではない。


「こんなことになるなんて思っていませんでしたし、遊びの好みに文句を言わないでください」

「すまん」

「レベル以上のモンスターを召喚する方法はないのですか?」

「あるかもしれないが、俺はしらない」


 打開策が見つからないまま時間だけが経過していく。白鎧の盾騎士は良く持ちこたえているが、すでに盾は傷だけで防ぎきれなかった攻撃が本体である鎧にまでダメージを入れている。このままではそう遠くない内に倒されてしまう。


「あなたのレベルはいくつなのですか?」

「俺はレベル4だ」

「レベル4。だったらこのカードを使えませんか」

「え?」


 静那が自分のデッキから一枚のカードを差し出してきた。それはレベル3のモンスターカードであった。


「エレメントドラゴン。なるほどこれなら」


 レベルが2の静那では使えないが幸雄なら使えるレベルだ。


「ミネルヴァ、自分以外のデッキのカードは使えるのか」

『マスターが使えるのはあくまでも自分のデッキに組み込まれたカードだけです。ですので彼女とトレードしてください。マスターのスキル等価交換は人が対象でも可能です。レベル3のカードはEランク相当になります』

「Eランクか、さっき交換して置いてよかった」


 幸雄はさきほど手に入れた雷撃魔法サンダーのカードを取りだしエレメントドラゴンと交換した。


「これは」

「こっちで手に入れたマジックカード。名前を唱えると書かれている魔法が発動する」


 もっと詳しく説明したいが時間切れだった。腕が付いた盾が隣の家へと落下する。鎌で腕の根元から斬り飛ばされたのだ。


「私が注意をひきつけます。その間に決めてください」

「あ、おい」


 静那は日本刀を持ち飛び出して行った。


「あの勇気はどっからくるんだ、勇者召喚でもされたのかよ」

『マスター、考えは後でもできます。トレードしたカードをデッキに入れてください』


 デッキは五十枚と決められている。新しいカードを入れるにはどれか一枚を抜かなければ、普通ならバランスを考えて悩むところだが、今はミネルヴァとレベル4までのカード以外ならどれでも一緒だ。適当に高レベルのカードと入れ替え静那の後を追いかける。


 静那はボロボロになり崩れかけている白鎧の盾騎士の脇をすり抜け、蜘蛛の足へと斬りつけていた。金属同士がぶつかるような甲高い音。あのモンスターの足は日本刀と同じくらいの強度があるらしい。盾騎士はモンスターが静那に意識を向けたわずかな隙に残った腕で胴体を殴りつけた。


 わずかな傷を作ることはできたが、それだけだった。


 殴られたモンスターはよろめいたが倒れはしない、盾騎士が与えた拳大の傷もあの巨体からしたらかすり傷程度なのだろう。強大なモンスターにとって行動が制限されるほどの痛手ではなかった。

 だが、その掠り傷目掛け静那が飛び込む。


「そこ!!」


 気合の言葉で日本刀を拳でできた傷に突き立てた。

 これにはさすがに巨大なモンスターも悲鳴をあげる。トドメをさすならこのタイミングしかない。幸雄はボロボロの盾騎士をカードに戻して魔力を回復させると、トレードしたエレメントドラゴンを引き抜き召喚しようとしたのだが、予想以上に魔力が抜かれ立ちくらみ。


 レベル3のエレメントドラゴンの召喚に、レベル4の白鎧の盾騎士を召喚したときよりも多くの魔力を持っていかれる。カードに生気が取られるようで体温が低下していくのが幸雄には自覚できた。


「眷属召喚。エ、エレメントドラゴン。あの巨大モンスターを倒せ」


 それでも歯を食いしばってなんとか踏みとどまり、青い炎のドラゴンが召喚された。

 このドラゴンの特性はレベル3にも関わらず。攻撃力がレベル6のモンスターに匹敵することである。実体はなく青い炎の体を持つドラゴン。瞳だけを赤く輝かせ巨大なモンスターへとそのアギトで襲い掛かる。


 召喚時のたちくらみで指示を出すのがワンテンポ遅れてしまい不意打ちをすることができなかった。モンスターはその強大な体を倒すように伏せエレメントドラゴンの攻撃を回避しようとする。

 エレメントドラゴンの攻撃はわずかにそれてモンスターの半身を吹き飛ばし傷跡を焼いたのだが、トドメにはならなかった数本の足を失いながらも残った足で立ち上がる。


「くッ、もう一度、攻撃だ」


 めまいで倒れそうになるのを必死でこらえながらエレメントドラゴンに再度の攻撃命令を出した。

 通り過ぎた後に青い筋を残すエレメントドラゴンは体を巨大モンスターへと向き直しもう一度攻撃をしかけた。相手にはもう体の半分が無くなっている。この攻撃が決めれば確実に勝てる。そう確信しかけたが、エレメントドラゴンの噛みつきよりも先にモンスターの鎌の攻撃がエレメントドラゴンへヒットしてしまった。


「あっ」


 そこで幸雄はエレメントドラゴンの特性を思い出した。

 普段使わないモンスターなのですっかり忘れてしまっていた。

 エレメントドラゴン。所属覇竜、種族精神体ドラゴン族、レベル3なのにレベル6と同等の攻撃力を持つがその代わりに防御力は殆どなく、どんな攻撃でも一度ヒットしてしまうと消滅してしまう。ゲーム時代ではほぼ単発でしか使われない使い捨てモンスターと言われていた。

 緑色の光を放ち灰色のカードとなって幸雄のデッキへと戻ってくる。

 やられて戻ってきたカードからは魔力は戻ってこない、幸雄は立っていることもできずにその場にへたりこんでしまった。


『マスター、逃げてください相手はまだ動いています!!』


 デッキからミネルヴァが悲鳴をあげるが、立ち上がる気力が残っていない。


「マジックカード発動・サンダー」


 動けなくなった幸雄の前へ長い黒髪をなびかせ静那が駆け込んできた。トレードしたサンダーを発動させる。カードから飛び出した稲妻が突き立てられたままになっている日本刀に飛来、モンスターの体内に電撃を送り込んだ。


 鉄をねじ切るような断末魔をあげ巨大なモンスターはその巨体を倒した。

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