第21話『依頼と遭遇』
「チームヴァイスカイザー、査定が終わりました。受付三番までお願いします」
幸雄たちが戻ってくる前に査定の方が先に終わってしまった。
「あ、シズナ発見!!」
カウンターへ向おうと席を立った時、メインホール入り口から男の歓喜を含む声が聞こえてきた。
「見ろ一人だぞ、きっと別れたんだ!」
「やっぱり僕の言った通り、彼ではシズナに釣り合わなかったんだ!」
激しい頭痛に静那は襲われた。シン、コーサ、タンジェの勘違い三人組みが、ホールのテーブルを磨いていた給仕スタッフを押しのけ、他人の迷惑お構いなしに突撃してくる。人が少ない時間でなければまた喧嘩になっていた。
無視して歩き出すが、報酬を受け取るためにはカウンターで足を止めなければならない。
案の定カウンターで取り囲まれてしまった。
「すみません、どいてもらえませんか」
「大丈夫、俺たちはシズナに迷惑はかけない」
「そうそう、あれから君に相応しい男になるために腕を磨いたんだぜ」
「僕たち、あれからホーンラビットを二十四羽も狩ったんだ、ポイントだってもうシズナを追い抜いたよ」
おもいっきり迷惑をかけられている。相応しいとは何なのか、ポイントを追い抜いたとは一週間前のポイントのことで、シンたちが稼いだように静那たちも稼いでいるとはまったく想像をしない真紅の流星一同。
「これは俺たちだからこそできた偉業だ」
「あれから一週間で信じられないほど俺たちの実力はあがった。まさに君に相応しい英雄的な進歩だ」
「このままポイントを稼げれば、すぐにガンマⅠになれるからいろいろ指導してあげられるよ」
分かれてからの一週間、シンたちがどんな活躍をしたのかを無理やり聞かされる。
「これで安心してシズナが俺たち真紅の流星のメンバーになれるだろう」
「なりません。私はヴァイスカイザーのメンバーです」
「別れたのに義理立ててるとは、そこがかわいいぜシズナ」
「別れていません」
「彼は実力がなかったからしょうがないよ、僕たちのチームにおいで」
「入りません」
無視が通用しなかったので、一つ一つ否定をするがまるで聞いてもらえない。
『マスターに助力を求めますか』
「大丈夫、これくらいなんともないから」
見かねたミネルヴァが幸雄を呼ぶことを提案するが静那はそれを断る。真紅の流星のメンバーはなぜか幸雄を下に見る。静那は自分がからまれるよりも幸雄がけなされる姿を見たくないと一人で対応する。
冒険者同士のいざこざは殺しにでも発展しない限りギルドは関与してこないが、受付嬢は同情の視線を静那に送ってくる。
「どうだいシズナ、未来の英雄の俺と今夜ゆっくり語り合わないか」
なれなれしくコーサが肩に手をまわしてくるのを、ルビーが威嚇する。
「幼くても竜ですので、気を付けてください」
ルビーは小さい牙を剥き出し唸る。フォークの半分くらいの牙だが、手の指ぐらいは噛み千切れるだろう。
「ありがとうルビー」
ルビーのおかげでシンたちが数歩距離を取ってくれた隙に売却金を受け取ろうとしたのだが。
ドサっとカウンターに積まれた皮袋の多さに動作を止めてしまった。
「買い取り金額は金貨五百十二枚と銀貨六枚です」
金貨百枚袋が五つと端数が入った小さい皮袋が一つ。静那は知らなかったが、金貨百枚を入れる専用の袋があり、皮袋を縛る紐は色が変わる魔道具で金色だと中身が金貨百枚であるとの証明になっている。もちろん魔道具はタダでは無い、袋一つで銀貨五枚の代金は引かれている。だがそれは数百枚もある金貨を数える必要が無い手間賃だと割り切るのがこの世界での常識。
「すげー百枚金貨袋なんて初めて見た!!」
「五つもあるぞ、一人一袋で分けてもまだ余る!!」
「この後すぐに上街の高級魔道具ショップに行こう、伝説級の武具が買えるよ!!」
これは日本に帰るための幸雄と一緒に稼いだ大事なお金である。それがどうしてシンたちと分け合うことになるのか静那には理解が追い付かない。
「あなたたち、いい加減にしなさい、さすがにギルドとしても見過ごせない行為です」
あまりの行動に静那よりも先に受付嬢がキレた。
人が少ない時間帯だとはいえ、メインホールにはそれなりに人がいた。金貨百枚袋と騒げば当然注目を集める。それを受け取るのが若い女性一人となれば、よからぬことを考える者が出たとしても不思議ではないのだ。これは殺しにまで発展する可能性があると受付嬢は判断した。
「ギルドカードを提出してください」
「な、なんでだ」
「冒険者ギルドの信頼を著しく汚す行為をしました。功績を上げたチームに迷惑をかけるなど見過ごすことはできません。処分を審議します」
受け取る金額の多さはそのままギルドへの貢献度といっても差し支えない。静那たちが売却した素材は冒険者ギルドにとって貴重な運営資金となっている。
「横暴すぎる。これは僕たちチームの話し合いだ、チーム内のことにまでギルドは口出しできないだろ」
「確認しますが、シズナ様は彼らにチームに所属しているのですか」
「いいえ」
「これから入るんだよ」
「入りませんとお答えしました」
なおも食い下がってくる真紅の流星の面々だったが、受付嬢に奥からメモが届いたことで事態は動いた。
「ギルドより正式に処分がおりました。真紅の流星所属メンバー全員の冒険者ランクをワンランク降格します」
「なんだって!!」
「バカな!!」
「酷すぎる!!」
「次にシズナ様に近づいた場合は冒険者ギルドを除名しますので覚悟してください」
受付嬢の宣言をうけ、真っ白になって崩れ落ちるシンたち。
「助かりました」
「ギルドとして将来有望な冒険者を守ったまでです。それよりも帰り道には気を付けてください」
百枚金貨袋とシンたちが騒いでから、明らかに静那を意識した集団が平静を装いギルドホールを出て行った。
「ここで護衛依頼を出すことも可能ですが」
「いえ、大丈夫です。二階にいる仲間と合流しますので」
ずっしりと重量感のある皮袋を受け取る。一袋で何キロあるのだろうか、日本にいた頃の静那なら五つも同時に持ち歩けなかったかもしれない。フィリナースのレベルが上がれば身体能力も上がるとの言葉をようやく実感できた静那である。
「皮袋が魔道具なら、もしかして、対象札化」
皮袋に対象札化をかけてみたら成功した。端数の小さい皮袋はできなかったが予想通り魔道具である袋は【百枚金貨袋/Cランク】と五枚のカードへと姿を変える。
これで持ち運びが楽になった。
幸雄たちはまだ姿が見えないので、静那の方が階段を上り合流する。
「幸雄さん、まだ終わりませんか」
「あれ、もう下は終わったの。悪い、紹介状を書いてもらってるんだ。いきなり行っても取り合ってもらえない可能性があるからって」
「ああ、確かにその可能性はありますね」
二階受付カウンターでは、窓口で待たされる幸雄とフィリナースの姿があった。
すでにフィリナースの登録は終え紹介状が書きあがるのを待っている状態。
「買い取り金額はいくらになった」
「金貨五百十二枚と銀貨六枚です。予想よりもだいぶ多いですね」
「それだけあれば依頼できるな」
「できますね」
目標の金貨三百枚を余裕で超えている。
「あのすいません」
「申し訳ありません。紹介状はもうしばらくお待ちください」
「いえ、それではなく資金ができたので依頼を発注したいんですけど」
「依頼ですか?」
「ええ、オメガⅢランクのエルフィーネ・フルーネさんに相談に乗っていただきたいことがありまして」
「相談ですか、臨時パーティーメンバーとかではなく」
「はい相談です」
「面白い依頼ね。オメガⅢランクの冒険者に相談事だけなんて、依頼金額を知っているの?」
受付カウンターではなく背後から声をかけられた。
草色の洋服に蒼いとんがり帽子をかぶった女性が幸雄へと近づいてくる。表情は帽子を深くかぶっているため鼻から上はわからないが、口元には笑みを浮かべている。
「金貨三百枚だと聞いています」
「それは最低依頼額ですよ、オメガⅢランクともなれば、依頼内容が気に入らなかったり、面倒だったら断られるかも、もしくは依頼金額の多い仕事を優先するかも」
「でしたら金貨五百枚ではどうでしょう」
「いきなり吊り上げてきたはね。確かにそこまで出されたら興味はひかれるかもね、絶対じゃないけど」
「これでもダメなら、一週間後に倍の金額を持ってきますよ」
「アハハ、たった一週間で金貨を千枚用意するか、本当に面白いね」
ツボにはまったのか、口元を隠し優雅に笑う。
「あなたは、どなたですか」
「あら、いきなり話しかけて悪かったはね。私はギルドのアドバイザーみたいなものよ」
「アドバイザーですか」
「ええそうよ、面白そうだからその依頼は受理しておいて、五百枚で」
「よろしいのですか」
「私が許可します」
「わかりました。依頼を受理します」
「静那いいよな」
「報酬が一気になくなりましたね」
「まだ大物が残ってるよ」
「そうでした」
静那がカウンターの上に百枚金貨袋をカードから戻し積み上げる。
「これって収納魔法、いえ、違う、対象を変化させていた」
とんがり帽子のお姉さんがカードが金貨袋に姿を変えたことに驚き、分析でもするかのようにブツブツとつぶやいている。
「依頼申請は完了です。それとお待たせしました。こちらが紹介状と商会までの地図になります。エルフィーネ様が依頼を受けてくれるかは明日には結果が出ていると思いますので、明日またギルドへお越しください」
「明日にはもう確認が取れるんですか」
「え、ええ、そうですね、ギルドには独自の連絡手段がありますので」
受付嬢がチラリととんがり帽子のお姉さんを伺い、言葉を濁した。
「帰り道は気を付けてね」
伺いのまなざしを気がつきながらも無視したお姉さんが、階段を降りる幸雄たちに手を振り見送ってくれた。




