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第13話『狩り強制終了』

「まだDランクカードが十枚以上あるしCランクを見てみるか」

「この癒しのローブがDランクですから、Cランクは伝説級かもしれませんね」


 二人はワクワクしながら肩を寄せ合ってリストを覗きこむ、肩の居場所が狭くなったルビーは気を使うように近くで休んでいるアスタリオンの上へと移動した。ホーンダイルの魔核もCランクだったが売ってしまったのでゆっくりとCランク一覧を見るのは初めてだ。


「上級が増えたな」


 まずは武器、防具の一覧、名工のミスリルソードや炎の魔杖など、上質な素材の武器や魔力を帯びた武器、防具には英雄の鎧などとんでもない代物が並ぶ。


「魔導ライフル拡張キット、これって幸雄さんの魔導ライフル『白式』が連射できるようになるみたいですね」

「スコープも付いて遠距離狙撃も可能か、弾丸のコストさえ考えなければかなり強いな」

「候補の一つですね」


 続いて薬の欄を眺め、幸雄が望んでいたモノを見つけた。


「EXPブースタードリンク(中)効力3倍、(小)との併用可能って」

『ドリンクの中と小を同時に飲みますと、倍率が六倍になります』

「もう、これしかないんじゃないか」

「二本分ありますか?」

「キッチンタイガーの料理を加えればDランクは二十枚以上あるギリギリだけど」


 魔法の欄を見るまでもなく交換する物は決まった。さきほどゲットした素材をほとんど使い切ってしまったが、EXPブースタードリンク(中)を手に入れる。残ったのは青いトサカのハイレオパルドスくらいだ。これはもしかしたらレアな固体かもしれないと幸雄の判断で残した。


「効果は半日」

「レベルアップはダイレクトに戦力増強に繋がります」

「最悪、野宿になっても構わないな」

「異論はありません」


 二人は乾杯するようにドリンクの入ったビンを軽く打ち鳴らすと、一気に中味の液体を飲み干した。

 女子中学生の静那が野宿を平気で受け入れた。それはこの異世界においてレベルアップこそが、自分の安全のためにも、帰る手段を見つけるためにも有効な方法だと理解しているから、それに二人はもともとアウトドアの素質があったのか、早くも野宿には慣れていた。


「これで経験値が六倍だ、さっそく狩りをはじめるか」

『ハルバネラ方面より多数の気配が近づいてきます』

「ハルバネラから、ミネルヴァさんそれはモンスターですか、それとも」

『人だと思われます。気配が隊列を組んでいますので』

「冒険者チームか、集団で狩りをするならその集団とは別の方角に進もう」


 得物の取り合いは非効率だ。幸雄は集団の進行方向をミネルヴァに尋ねる。


『まっすぐこちらに向かっています』

「ここに?」


 疑問を解消する前に、馬の集団が幸雄にも視認できた。お揃いの金属鎧を装備した集団、冒険者とは毛色が違う者たちだった、幸雄達のそばまで来ると足を止める。


「この者たちで間違いないか」

「はい、間違いないです。僕たちを助けてくれた人たちです。ローブの色が違うけど」


 集団のリーダーらしき人物が集団の後ろへと声をかけ返事をしたのは、ソーカマイタチから助けた若い冒険者の一人だった。彼らは逃がしてもらった後、南門まで走り守備隊に幸雄たちの救援を頼んでくれたそうだ。


「わざわざ救援ありがとうございます。なんとか退治することができました」

「礼など不要だ。ここは街道にも近く我々の警備エリア内、青い満月が過ぎたばかりだ、ソーカマイタチがでたのなら早急に対処しなければならない、それでソーカマイタチはどちらの方角に逃げた。森の奥ならば冒険者にまかせるが、まだこの近くにいるのなら我々が対処する」


 白鎧の騎士が三体も動き回ったので、真新しい戦闘跡がそこら中に残っている。青い満月の意味は幸雄にはわからないが、ソーカマイタチが出たことは信じてくれた。しかし退治したことは信じてもらえない。

「ですからポレフ隊長、この人たちがソーカマイタチを退治したんですって、俺たちが逃げたのは別の群れが近づいてきてるって、この人たちが教えてくれたからです」


 三人組みのリーダーらしき短い茶髪の剣士が必死で訴えている。


「嘘をつけ、追い払うのと退治は別物だぞ、ここにソーカマイタチの死骸がない以上逃げ出した証拠ではないか」

「あ~」


 ポレフ隊長が退治したことを信じないのは死骸がないからかと幸雄は理解する。でも倒したソーカマイタチはすでに等価交換で使用してしまったので存在しない。


「幸雄さん、どうします」

「鎌が数本残ってるから、それで信じてもらえないかな」

『異国の召喚士として術式が違うと押切ましょう。召喚士そのものの人数がすくないので、これはそういうものだと強気にいけば多分大丈夫です』


 ローブで口元を隠した静那がこっそりと幸雄に訊ねてくる。手元を確認すれば五枚だけ爪の鎌の素材カードが残っていた。爪の鎌は全部で十五枚あったが、十枚は交換材料で消費している。


「あの~これで信じてもらえるか、わからないのですが、倒したヤツの爪の鎌なら残ってます。解放」


 カード化を解除してポレフ隊長の前に出現させた。


「こ、これは」

「俺たち召喚士なんですよ、だから倒したモンスターをカード化して持っていられるんです」

「そ、そうなのか、私の知っている召喚士と少し能力が違うようだが、確かにこれはソーカマイタチの爪鎌だな、左前足の爪鎌が一本、頭部の爪鎌が一本、後は右後足が三本か、確かに三匹分の爪だな、それもまだ新しい」

「どうやって見分けてるんだろう」

「私には頭部の爪の鎌以外、全部同じに見えます」


 頭部の爪の鎌は根元が曲がっているので見分けられるが、他の足の爪は幸雄と静那には区別がつかなかった。たまたま残っていたのが、同じ個所の爪でよかったと二人は揃って胸をなでおろす。


「体や魔核はどうしたのだ」

『召喚師だから触媒に使ったことにしましょう』


 本当に大丈夫なのだろうかと、幸雄は必至に表情をポーカーフェイスにして説明をする。


「先程も申しましたが、我々は召喚士なんです。ソーカマイタチを倒した後にレオパレドスの群れに襲われまして、召喚の触媒として使用してしまいました」


 スキル等価交換のことは隠しておきたいのでとっさに嘘をつく、まさか今着ているローブとドリンクに交換しましたなんて正直に言えるわけもない。


「やはり私の知っている召喚術とは別物のようだな、ここの戦闘跡を見る限り大きな存在が戦闘したのはわかるんだが、よければその召喚術を一度見せてはもらえないか」

「別にかまいませんよ」


 すでに緑の穴熊や助けた冒険者の三人には見せているのだ。


「隊長、西南の方角から何か近づいてきます。人ではありません!」

「この人数に近づいてくるのか、大物かもしれん、陣形を組め、槍を構えろ、新人冒険者は後方に隠れるのだ」


 モンスターにも知性はある。武装した集団がいれば勝てないと判断くらいする。それが逃げずに近づいてくる。勝てる自信があるのか。

 ポレフ隊長は幸雄への尋問をやめ迎撃の準備に入った。

 警備隊は陣形を組み、冒険者の三人組みは後方の岩陰へと逃げ込んでく。


『マスター近づいてくるのは、ルーチェです』

「待ってください隊長さん、やってくるのは我々の連れです!」

「なんだと、しかし人の気配ではないと」

「それは騎獣用のモンスターです。召喚獣ですから攻撃しない限り襲ってきません」


 間違って攻撃されては大変だと、あわてて幸雄が止めに入った。


「あれ、ご主人、もめごとですか?」

「いいや、違うぞって…………」

「なんだあれは」

「うそだろ」


 森からやってきたシビエルーチェの姿を見て、正確にはイグアラプターの背負っているモノを見てポレフ隊長はじめ警備隊一同や幸雄と静那まで驚いた。

 イグアラプターの背中には草で編まれた荒い目の籠が乗っており、その中には大量のホーンラビットが詰め込まれていた。


「いや~この先で大量繁殖してたんっすよ、木々は穴だらけ、草木は食べつくされて森の一部が砂漠みたいになってました。新人冒険者が少人数で遭遇していたら危なかったかも」


 いったい何羽のホーンラビットがいるのだろうか、幸雄がざっと数えたら三十羽近くいた。


「はい、ご主人、ご注文の得物です」

「あ、ああ、ありがとう」


 ドサっと幸雄の前に置かれる籠、幻ではなく間違いなくホーンラビットが詰まっている。


「これからどうしましょうご主人、もう一度狩りに行ってきましょうか」

『チャンスですマスター。ここで召喚を見せてルーチェたちには、また狩りに行ってもらいましょう。もしかしたら詳しい話しを聞きたいからとハルバネラに戻ることになるかもしれません』


 ミネルヴァの助言に思考が現実へと戻ってくる。ポレフ隊長たちがぽかんとしている今がチャンスなのだ。

「もう一度狩りに行っていいんですか、それなら追加の人員をお願いするっす。希望としてはキッチントラちゃんとシズナさんからもう一頭のイグアラプターをお借りしたいっす」


 幸雄と静那は視線で合図を交わしてデッキからリクエストを受けたカードを引き抜く、もし街に戻ることになったらせっかくのEXPブースタードリンク(中)が無駄になってしまう。


「隊長さん。ご希望通り、ここで召喚術を披露します」


 ポレフ隊長の返事を待たずに二人はカードをかかげた。


「「眷属召喚」」

「密林の料理人キッチンタイガーM」

「走竜イグアラプター」


 緑色の輝きを放ちカードからキッチンタイガーMとイグアラプターが召喚された。


「ガハハー、密林の料理人キッチィーンタイガーM召喚に応じ参上。マスターよ、食材を自分で取ってこいということだな、任せておけだぜ、俺のマッスルで完璧だぜ」

 マッスルポーズを取るコック服を着た二足歩行のトラ。召喚するたびにキッチンタイガーMのキャラが濃くなっていた。


『タイガー、ルーチェ、マスターとシズナさんはEXPブースタードリンク(中)を飲みました。無駄にしないため、大量の討伐をお願いします』


 ミネルヴァの声は幸雄達以外には聞こえないので、幸雄に変わり詳細を説明してくれた。


「細かい指示はださない、お前たちが一番効率がいいと思う方法で狩りをしてくれ」

「なんとフリーダムな命令だが、任せておけだぜマスター」

「狩りは私の本分だよ、まっかせてよ!」


 ルーチェが幸雄の前まできて小さい胸を叩いてみせる。そして幸雄だけに聞こえるように囁いた。


(これで、帰りは二人乗りだね、頑張れご主人)

「な、おい」

「あはは、それじゃ行ってきます!」


 いたずら成功と笑顔でイグアラプターに乗ったルーチェは手を振りながらキッチンタイガーMと一緒に森へと走っていく。


「…………」


 あまりの急展開にいまだ言葉を発せられない警備隊一同。それからポレフ隊長がなんとか再起動したときにはルーチェたちの姿は完全に見えなくなっていた。


「今のが召喚術なのか、やはり私が知っている召喚術とは少し、いやかなり違いすぎるが」

「これでよろしいでしょうか、まだ日が高いので我々は狩りに戻りたいのですが」

「ああ、ご苦労であった。狩りに戻っても、いいや、それはダメだ。詳しい話しを聞かなければならない、すまないが南門警備隊舎まできてくれ、それだけの収穫があれば十分だろ」


 途中で職務を思い出したポレフが言葉を訂正した。ミネルヴァの推測通りハルバネラに戻るしかなさそうだ。


「ホーンラビットは部下に運ばせる」

「いえ、それは大丈夫です。対象札化」


 幸雄が手をかざすと籠の中のホーンラビットはカード化された。

【倒されたホーンラビット/Fランク】角は薬の素材になり、肉は食用に向いている。

 Fランクなのにレオパレドスよりも取れる素材が多かった。もっとも全て最低ランクであるが、全部で五十四羽、数はかなりある。


「ルーチェは頑張ってくれたんだな」

「今のはいったいなんだ」

「召喚術の応用ですよ、倒したモンスターや自分の所有物をカードにできるんです。所有物にしか使えませんので盗みとかには使用できません」

「そうなのか、これは召喚術の範囲に入るのか、それとも俺が召喚術の知識が無さすぎるのか、あいつは自分のことを王国で五指に入ると自慢していたが比べものにならないぞ――」


 ポレフ隊長は自分が要求した幸雄の召喚能力を聞いて混乱気味であった。どこか上の空でぶつぶつと何かをつぶやいていた。

 ハルバネラの帰り道、イグアラプターを貸してしまった静那とルーチェの計画通り二人乗りで帰る。緑の穴熊のメンバーに代わって今度は助けた冒険者の三人から嫉妬の視線を浴びせられる幸雄であった。

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