第3話:帰還
八郎たちが駐車場に戻ってきたときには、もう外は暗くなっていた。
「帰ってくるの、だいぶ遅くなっちゃったなあ。」
「どうせ、今日は家に戻らないんだから、いいじゃん。」
「そういえば、ノースイーストウェストサウス団の奴ら、まだ伸びているけれど、どうする?」
「捨てちゃおうぜ。」
「う・・・。見た目の割に重いなあ、こいつら。」
「ポテトチップスやチョコクッキーの空き箱があるぜ。大人のくせに、幼稚だ。」
正樹がノースイーストウェストサウス団の一人の服を引っ張りあげる。お腹の肉がたるんでいて、何段にもなっていた。
「ほうほう、それでぶくぶく太っているのか。よくこんな格好で戦えたもんだなあ。」
「太っているから、力が強かったんだな。」
「二人で引っ張りだそう」
正樹と八郎が連中を協力して駐車場の外に出す。
「ふう、これで最後だ」
「疲れたなあ。だけれど、こいつらきっと風邪ひくぜ。」
「俺たちを散々いじめたんだもんなあ。ざまあみろってんだ」
「もうへとへとだから、寝よう」
「シャッター閉めないと誰か入ってくるかもしれないぜ。」
「ほんじゃあ閉めとこうか」
「じゃあ、おやすみ」
「グッナイ」
二人は駐車場の隅に横たわった。
次の日、八郎たちが起きたのは昼の十二時頃だった。
「さあ、家に戻るか。」
「ええ、もう戻るの。夜とかでいいんじゃない」
「じゃあお前はここに居ていいぞ。じゃあ、さいなら」
「一人は怖いから、僕も帰る。」
八郎は家に帰ると、園子にこっぴどく叱られた。
「あんた!どこ行ってたのよ!」
「えっと・・・。その・・・監禁されてたんだ。」
「嘘おっしゃい!」
「ほんとだってば!監禁したヤツは、俺と正樹で倒したけれど・・・」
「何よあんた、そんな非現実的な事を言って信じてもらえるとでも思っているの?」
「非現実じゃなくて、現実だってば。」
「もう信じられない。あんたはうちの子じゃありません。」
「お前みたいなクソババアにそんな事言われても悔しくないよ。」
「うるさいんだよ!このくそがき!ママの恥だわ。」
「おうおう、豹変しなすったねえ。」
「とにかく、今日は六時間授業だから、今からでも間に合うし、学校に行きなさい!」
「ちっ、仕方がねえ。」
八郎はさっきの事で、学校に着いてもいらいらしていた。
「おお、八郎。昨日はなんで休んだんだ?」
「うっせえよ。俺の勝手だろ。」
「おいおい、どうしたんだよ八郎。」
「どうしたもこうしたもあるか。お前の顔は目障りだから、どっか行け。」
「今日の八郎、なんかおかしいよ・・・。もしかして、他人と入れ替わったんじゃない?」
「そんな小説の中のような出来事、起きるわけがないだろう。」
「うん、入れ替わったんだね。」
「もう、うっとうしいから、近寄ってこないでくれ。」
「絶対おかしいよ・・・」
正樹は家に帰っても誰も居なかった。母親はパートにでも行っているのだろう。時計を見てふと気づく。
「もう学校の時間だ・・・。急いで行かなくちゃ」
家を出、走って学校へ向かう。校門の前に、二人の先生が立っていた。タバコを吸いにきたらしい。
「教師のくせにタバコ吸ってる・・・」
「お、遅刻か。生徒手帳貸せや。」
「はい・・・」
「ほうほう、お前の名前は日比谷か。お父さん居ないのか?」
正樹は返事しなかった。先生はにたにた笑っている。冗談のつもりなのか。
「返事しろよ、おい。まあいいけれど。はい。入れ。次遅刻したら退学だぞ。」
先生が正樹を脅す。正樹は走って学校の中へ入っていった。
「そういえば、お腹すいたなあ・・・」
考えてみれば、正樹は、丸一日以上食事をしていない。
「弁当を持ってくるの忘れたし、夕方まで食事抜きか・・・」
教室の中では、みんなが弁当を食べていた。もう昼食タイムになっていたらしい。
「おう、日比谷、遅刻か。理由を言え。」
「お腹こわしてまして・・・病院に行っていました。」
「よろしい。さっさと座って弁当を食え。」
「弁当、忘れました・・・」
「何いっ?!忘れただと。じゃあ昼食抜きだな!」
「正樹、俺の弁当半分やるよ。」
「俺のも」
「僕のもあげる」
「み、みんな、ありがとう。」
紀夫、創、光男の三人が弁当の半分を正樹にくれた。丁度、一人半分の量になる。
(お、多いけれど、食べられるかな。残したら、悪いし・・・でも、もう一日以上何も食べていないから、大丈夫でしょ。)
お腹がすいていた正樹は、一瞬で平らげてしまった。
「おお、はええなあ」
「正樹すげえぞ」
「早食い選手権にでも出たらどうだ?」
「はは、遠慮しておくよ。」
「おい日比谷、お前、飯食うの早すぎだ。口のまわりにご飯粒がいっぱいついていて、気持ち悪い。下品なことをするな。」
白井が言う。案の定、不良たちは怒った。
「なんだよ白井先生、喧嘩売ってんのかよお」
「うるさい!気持ち悪いから、気持ち悪いと言っただけだ。何か文句あるか」
「あります。腕も殴りたがっているから、頭をポコンとさせてもらいます。」
雄一が白井を殴った。殴ると同時に、雄一が「ポコン」と言う。
「いててて・・・お前らは、先生を殴りすぎだ。いい加減にしろよ。先生を馬鹿にするな!」
「こんなくだらないことで喧嘩するのよしましょうぜ。ね?し・ら・い・せ・ん・せ・い。」
「お前が喧嘩を売ってきたんだろう!」
「おやおや、記憶力のないおっさんですね。自分の言ったこと、思い出してみな。」
「う・・・余計気分が悪くなった。はい、昼食は終わり。みんな図書館へ行けえ。」
白井が言った。食べ終えていない生徒が殆どのため、文句が飛び交う。
「あと一分で片付けないと、居残り掃除だぞ。」
みんなは急いで片付けを始めた。