表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第1話:監禁

 夕方の六時頃、大橋八郎の母親である大橋園子(そのこ)が仲中に電話を掛けた。

「あのう、すみません、大橋八郎の母ですが・・・」

「なんでしょうか?」

「うちの八郎、まだ帰ってないんですが、学校には居るでしょうか・・・」

「少しお待ちください。」

 二分程、沈黙が続いた。

「八郎君は、今日は休みだった筈ですよ」

「ええ?今日の朝、送っていったのに?」

「ですが・・・学校には来ていません」

「何故ですか?寄り道しているのかしら。あっそうだ、日比谷君は来ていましたか?」

「少しお待ちください。」

 再び沈黙が続く。

「日比谷君も来ていないようです」

「じゃあ、登校中に何かあったのかしら・・・日比谷君と一緒に登校した筈だから。失礼しました・・・」

 園子は電話を切り、片足で小さく足踏みした。

「ああもう、八郎はどこに行ったのかしら・・・」

「お母さん、どうしたの?」

「あら、二郎。実はね、八郎が居ないの」

「どういうこと?」

「八郎、学校に行った筈なのに、今日は来なかったんだって」

「お兄ちゃん、遊ぼ遊ぼ」

「ちょっと待っててね、すぐ行くからね、部屋に戻っててね、十郎。・・・そりゃあおかしいなあ。どっか行ってるんじゃないの」

「それがね、一緒に登校した日比谷君も居ないんだって」

「じゃあ、二人でどっか行ったんでしょ」

「でも、もうこんな時間だし・・・」

 園子は、不安そうに時計を眺めた。

「どうでもいいよ。・・・そうだ、十郎と遊んでやらなきゃ。やれやれ・・・」

「もう、お兄ちゃんなのに・・・困ったこと。とりあえず、もうちょっと待ってみましょ。」

 だが、九時になっても、十時になっても、八郎は帰ってこなかった。


 その日の午前八時頃、西田駐車場を借りている一人の男が困っていた。西田駐車場とは、八郎たちが連れ込まれた駐車場の名前である。

「あれ・・・なんでシャッターが閉まっているんだ?」

 シャッターには、「ただいま休止中、入ってきたら解約」という張り紙がしてある。

「困ったなあ・・・早くしないと・・・」

 男の名前は瀬谷石男(せたにいしお)。五年以上前からここの駐車場を借りている。

「仕方ない。路上駐車しよう。」

 瀬谷は車に戻っていった。


 西田駐車場の中は、大変なことになっていた。防音シートが壁に敷き詰められ、たくさんの大人たちが二人の少年を殴っている。

「もう、これくらい殴ったら十分だろ。」

「よし、縛って端っこに置いておけ。」

「オーケー、リーダー。」

 大人たちの中の一人が、二人の少年を縛っている。この二人の少年とは、八郎と正樹のことである。二人の目は閉じていて、体には傷だらけ、生きているかどうかすらわからない。

「ちょっと、こんなにやっちゃって大丈夫すか。」

 こう言ったのは、山谷(やまたに)という赤色の髪の毛をした男だ。

「ふん。俺たちは、もう五人もやったんだ。がき二人くらいどうってことない。」

「いや、こんな目立ちそうなところでやったら、見つかりやすくありやせんか。いくら防音シートを張ったって、少しくらい音が漏れそうっすが。」

「お前の声の方がでかいよ。」

 リーダーが山谷の頭を叩いた。

「いてて・・・すいやせん。」

 そのとき、八郎がむっくりと起き上がった。体に巻かれている縄から手を出して、傍にある鉄パイプの山から一つ、太そうなのを引き抜いた。真っ暗なので、大人たちは気づいていない。

「卑怯な大人は、死んじまええ!」

 八郎は、大人たちの居るとおぼわしきところを片っ端から殴った。悲鳴と、倒れる音が聞こえる。

「な、なんだなんだ!」

 リーダーが叫んだ。だが、それに答える者は誰も居ない。

「おい、誰か暴れているのか。返事をしろ!」

「はあい、暴れてまあす。あなたもやっちゃうね」

 八郎は、リーダーの声の発信源を殴った。手ごたえがある。やったか・・・。

「ふふふ・・・。まだまだヒヨッコですねえ。この俺を倒せるとでも思ったか!」

 リーダーは、八郎の持っている鉄パイプを奪った。それで、八郎の腋や股間を殴る。

「ううう、いてっ。痛い、痛い・・・」

「どうだ、どうだ、どうだ。」

 そのとき、大きな金属音が響いた。

「やられた・・・」

 リーダーが床に倒れ掛かる。

「おお、正樹、よくやったな。」

「朝ごはんに食べた、納豆ご飯がよかったみたいだね。」

「ふふふ、俺を倒したと思って油断するなよ。ここには、外側から鍵が掛かっている。逃げ出せはしない・・・」

「こんなボロシャッター、余裕で壊してやるぜ。納豆ご飯パワーでな!」

 正樹がシャッターをとび蹴りした。しかし、シャッターは音をたてるだけで、びくともしない。

「あれ・・・?意外に強いなあ・・・。もういっちょ!そりゃあ!」

 正樹はもう一度飛び蹴りをした。しかし、やはりびくともしない。

「おい、八郎。二人で蹴ろうぜ」

「いいぜ。やってやろうじゃんか」

 正樹と八郎は、同時に飛び蹴りをした。だが、さっきと同じように音が響くだけである。

「結構頑丈だなあ・・・。おっ、そうだ。」

 正樹はおもむろに落ちていた鉄パイプを拾い上げ、それでシャッターを殴った。けれでも、少し傷がついただけで壊れる様子はない。

「傷がついたぞ。何回も繰り返せば、壊れるかもしれない」

 だが、残念なことに、十回繰り返しても、百回繰り返しても、壊れなかった。

「駄目だ・・・。やっぱり閉じ込められている。どうやって脱出しよう・・・」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ