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第13話:学校だけでは物足りぬ

 一泊移住の次の日は休みとなっていたので、八郎は家でくつろぐことが出来た。


 八郎がアニメを見ていると、園子の声がかかる。

「八郎、あんたもそろそろ塾に行ったらどう?」

「塾?まっぴらごめんだな」

「他の友達も、行っているんでしょう?」

「行ってないし。みんな勉強なんか嫌いなんだよ」

「あら、嫌いでもやらなくちゃいけないわ。自分の将来の為よ。」

「俺、将来スポーツ選手になるから、勉強なんかしなくていいの。」

「いつまで夢みたいなことをほざいているの。スポーツ選手はみんな頭いいでしょ。ほら、八郎の好きなあの選手だって、大学はそこそこの国立を出ているのよ。」

「いつもいつも、六郎とかに『T大目指しなさい』って言っているくせに、スポーツ選手はそこそこで頭いい扱いかよ。」

「ごちゃごちゃ言わないの。行きなさいね。」

「行かないぜ。」

「でも、もう申し込みはしてあるのよ。」

「えっ・・・」

 八郎はたまげた。まさか、勝手に申し込みされるとはおもってもみなかったからである。

「そんなの、ないよ・・・むごい。むごいよ、母さん。」

「殆どの子供は、勝手に申し込みされて行っているの。自分から『行きたい』なんていう子供なんて、居ないしね。」

「絶対に行かねえからな。」

「行きなさい。」

「行かない。」

「行きなさい!」

 園子に頬をビンタされたとき、八郎の小さな脳みその中で閃いた。

(そうだ・・・塾にも手をのばしてやれば・・・こうなれば、あいつらも仲間に加えるしかないな。)

「行くよ。行く。うん、行きたくなった。急に。」

「何よいきなり。ビンタが痛かったから?」

「違う違う。なんか面白そうな気がしてきて。」

「また何か企んでいるの?」

(うっ・・・)

 園子に感づかれて、八郎はどきっとした。

「企み?何それ。」

「ますます怪しいわよ。塾をめちゃめちゃにしようっていうんでしょ!」

「まさか。今回ばかりは、違うよ。」

「でもあんた、一泊移住でも大暴れしたみたいだし・・・信じられないわ。」

「なんだよ!さっきまで行け行け言っていたくせに、本当に行くとなったらそんなことを言うなんて。」

「まあ、何もしないことを願うわ。今日、入塾テストがあるから、四時になったら行きなさい。お母さんもついていくから、場所がわからないとかの心配はいらないわ。」

「合格するように頑張るぜ。」

「比較的簡単みたいだけれどね。」


 入塾テストは簡単なものであった。小学六年生でも出来るレベルだろう。おかげで、八郎でも合格することが出来た。


 次の日、一時間目が終わった後の休み時間に、トイレへ創たちを誘った。

「俺さあ、またまたまたまたまたいいこと思いついちゃったぜ。」

「うざい教師たちを懲らしめる?」

「ちょっと違う。別に恨みはないけれど、塾の教師を懲らしめる。最終的には、つぶしてやるんだ。」

「それ、ちょっと酷くねえ?」

「いいや、どうせまた生徒をしごいているんだろうし、行かされている奴らのためにもつぶしてやったほうがいい。だけれど、こんなことは一人で出来ないだろ。」

「俺たちに協力して欲しいってことだろ?いいぜ。クソババアに頼んでみる。」

「入塾テストもあるけれど、めちゃくちゃ簡単だから心配するな。」

「俺も入塾する!」

「俺も!」

 その後も、「俺も」という声がたくさんあがった。

「じゃあ、今度塾で会おうぜ。」


 塾の生徒たちは、落ち着いた性格の者が多かった。八郎たちは、そいつらにくってかかる。

「やあい、変態勉強大好きっ子お!」

「ガリ勉!色白!運動音痴!」

 そんなことを言いながらノートやテキストを破る。生徒は、こちらを信じられないという目で見た。

「おうおうおう!また騒いでいるのか?」

 講師が入ってきた。

日下(くさか)先生、なんかノートを破る人がいるんだけれど」

「ありゃっ。それはいかんな」

 日下は、中年で少し頭がはげている英語教師だ。

「こりゃこりゃ。ノートは大切にしないと。」

「うるせえ、ハゲ!」

 こんな騒ぎが起きている間に、創は事務所に入り込み、書類やパソコンをめちゃくちゃにする。

「ははは、楽しいぜえ!物を壊すのって、気持ちいいなあ!」

 そこで、何者かに肩をつままれた。


 いつのまにか受付に体が戻っていて、何者かが前で喋っていた。

「授業の邪魔をした大橋君たち、事務所を荒らした中山君は、退会処分とします。お母さんたちは、さぞ悲しむことでしょう。でも、そのようなことをしたのだから仕方がありません。」

 後ろには、それぞれの保護者が居た。

「八郎、やっぱりこんなことを企んでいたのね。でも、今回はすぐに終わったわよ。講師さんに、事前にそういうことが起きるかもしれない、って伝えておいたからね。」

「お父さんは、会社を早退して来たんだが、まさかこんなことをしているとは思わなかった。四郎や六郎を見習え!塾に真面目に行っているから、四郎はT大医学部だし、六郎はN高校だ。お前は、そんなすばらしい奴になりたいとは思わないのか!」

 父親が八郎を殴る。

「すばらしいぜ!俺たちは!駄目な大人たちを更生させるために、懲らしめてやっているんだ。こんな努力をする奴の方が、そのティーダイイダクブかとか、エヌコーコーとかに行っている奴らより、よっぽど偉いぜ。」

 父親はため息をついた。

「もう本当に諦めた。お父さんは。今まで何回も駄目だなあ、こいつは大橋家の恥だなあ、とか思っていたけれど、もう今回で終わりだ。お父さんは、もう八郎を教育しないからな。」

 八郎の父親は、八郎の腕を引っ張って塾から出ていった。


 塾の騒動があった翌日、八郎たちは再びトイレに集まって、大人たちに対する愚痴を言っていた。

「俺んちのババアなんか、『今月は味噌汁抜きです!』なんか言っちゃって。あのときのひもじさったら、なかったよ。」

「はは、それはいいダイエットになるんじゃないのか。」

「俺んとこは、お前はもう教育しないなんて言っていた。八郎の父親の真似じゃんか。」

「父親なんてかっこつけて言わないでいいぜ。『クソジジイ』でオウケイだ。」

「オウケイってなんかおかしくない?オッケーって言うんじゃないの。」

「正しい英語の発音では、オウケイだって聞いたことがあるんだけれどなあ。」

「話を戻すけれど、うちのババアは、他のスパルタ塾に行かせるから、覚悟しなさいって言っていたよ。」

「スパルタかあ。大変だなあ。」

「いや、そうでもないんだ。俺、将来弁護士目指しているから、勉強がたくさん出来るのは嬉しいんだ。」

「ふうん。変わってるなあ。」

「まあ、勉強出来て嬉しいなんて言ったら、不良失格だと思うけれどね。」

 紀夫が、苦笑いしながら言った。



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