第12話:一泊移住 二日目(2)『集団食中毒と大火事作戦』
「ええ、食中毒ですって?!」
窪田はたいそう驚いている。
「そうなんです。子供たちが集団で、カレーを食べてからお腹いたをおこしたんです。数人の生徒は違いますが」
生徒たちは虫カレーを食べてから数分たつと、お腹が痛い、お腹が痛いと言い出したのだ。
「それは大変だ。すぐに病院へ運んだほうが・・・しかし、この付近には病院がありません。急いで救急車を呼ばねば。」
「お願いします。」
長田は深々とお辞儀をした。
「大丈夫だからね、もう少しで救急車が来るからね!」
特殊学級の担任が、必死に生徒をなだめている。
「おい、ちょっと大変なことになってしまったな。」
「う、うん、まさか病院送りまで行くとはな・・・」
「ゴミがいけなかったんじゃねえか。」
「俺、ゴミ食ったことあるけれど、お腹いたかったぜ」
浩二が言う。八郎たちはどっと笑った。
「おいおい、どれだけいやしんぼなんだよ」
「いや、どんな味かなって・・・」
「普通、そんな疑問抱かねえよ」
「ま、まあ、冷静になって考えてみれば、確かにそうなんだけれど・・・」
「そういえば、一つ思い出したんだが、火事作戦もあったよな。あれはどうする?もうみんな帰っちゃうだろうし、今やってもあまり面白くないと思うんだけれど・・・」
「やろうぜ。」
「木が、かわいそうじゃないか?」
「じゃあ青少年の家に火をつければいい。」
「それはさすがに気がひける・・・」
「じゃあハイキング道につければいい。あそこは木も建物もない」
「賛成。じゃあ早速つけにいこうぜ」
「俺、マッチ持ってきているから貸してやるよ」
「サンキュー。じゃ」
創と八郎、正樹が火をつけに行った。
「しかし、この後どうなるんだろう」
「俺たちだけでプログラムを進めるとは到底思えない」
「ってことは、帰宅なのかなあ・・・」
「やったぜ。俺たちお手柄だな」
そんな会話をする不良たちを、侑也は軽蔑するような目で見ている。
暫くして、八郎たちが戻ってきた。
「火、つけてきたぜ」
「どうだった?」
「もう、草原がぶわあって。やべえことになってるぜ。風向きによっては、青少年の家が燃えるかもな」
「そ、そりゃあやばいじゃん。どうすんだよ」
「どうすんだよって、ほうっておくのさ。明日には、『渋川高原で大火事!』なんていうニュースでもやってるだろう。」
「死人が出なけりゃいいけれど・・・窪田とかはあそこに住んでいるんだろう?さすがに人殺しは、気分が悪いぜ・・・」
「でももうやっちゃったのさ。ぐだぐだ言わずに帰宅するのを待とうぜ」
そこで丁度、長田がやってきた。
「ええ、集団食中毒が発生して、たくさんの生徒が救急車で運ばれたので、一泊移住は中止。これから学校に戻ります。はい、バスに乗るぞ。荷物は、青少年の家からもう持ってきたので、取りに行かなくてもいい。」
いつのまにか、食中毒の生徒たちは居なくなっていた。既に運ばれているのだろう。
帰りのバスは、非常に寂しかった。前の方に侑也のグループ、後ろの方に八郎のグループ、しかなかったからだ。八郎たちは騒がしかったが、侑也たちはうんともすんとも言わない。
「しかし、楽しい一泊移住だったな。」
「ああ、そうだな。夜中の作戦は失敗しちゃったけれど」
「その後の二つの作戦は大成功。」
「いえい!」
体育館につくと、やはり保護者が居た。行きとは違い、生徒たちの人数が少ない。長田と校長による、食中毒についての説明やお詫びで、もう終わりとなった。
次の日、八郎は少しどきどきしていた。火をつけたところはどうなっているのだろう。もしかして、本当に大火事になっているのではないだろうか。そう期待してテレビをつけたが、スポーツの中継しかやっていなかった。