第10話:一泊移住 一日目(4)『作戦実行』
夕食を食べ終えると、風呂の時間となった。大浴場に、グループごとに時間をわけて入るのだが、教師の目が厳しい。
「駄目だ!もう一回拭け。」
「ええ、またかよお。」
「ごちゃごちゃ言うな!」
浴槽の入り口に教師が立っているのだ。出る前に、体を拭いて、こいつに了解を得れば、やっと着替えられるのである。だが、赤の他人に全裸を見られ、さらにそれにけちをつけられるので、生徒たちは不満だ。
「ったく。股間のあたりばっかじろじろ見やがって。すけべめ!」
「教師連れてきて、湯船に沈めてやろうぜ」
「それで、すっぽんぽんにして、俺たちにやったことと同じことをする」
「やっぱ八郎は天才だぜ。よし、教師を持ってくるぞ。」
「うわうわうわ!」
教師はいきなり運び上げられたので、気が動転しているようだ。
「やめろ!何をする!」
「暴れるな!俺たちをいじめた罰だ!」
教師は湯船に沈められ、八郎たちの手によって服を脱がされた。
「こ、こら!股間ばっかり見るな!」
顔を沈めることだけはなんとか逃れられたので、息は出来るし声も出せる。
「それはこっちのせりふなんだけれど?」
紀夫が教師の股間を蹴った。
「いってえ!お前ら、後で覚えてろよ。校長先生に言いつけてやる!」
「どうぞどうぞ言いつけてください。じゃあ僕たちも、保護者に『先生が全裸になっている僕の股間を見てくるんだよお』って言いますね。」
「開き直るなあ!早くはなせ!」
「声おっきい。響くんだから小さくしてくれよなあ。耳障りだって」
八郎は教師の口を押さえた。
「のぼせるまで沈めておいてやろうぜ」
「あれ・・・?」
扉の方から声がした。次のグループのようだ。
「まずいな、ちょっと長く居すぎたらしい」
「戻れって言えば大丈夫だよ」
「おういお前らあ、時間は変更になったからあと三十分くらいは部屋に居とけよお。」
「時間変更?聞いてないけれど・・・」
「いいから。早く。俺たちのあそこを見たってしょうがねえだろ。」
創がそいつらを外へ押しやって、扉を閉めた。
「おうい、教師がのびたぞ。」
「のぼせたんだな」
「とりあえず顔だけは沈まないようにして、置いておこうぜ」
八郎はそう言って、湯船の淵をみまわし、そこへ教師の頭を置いた。
「さっさとあがろうぜ」
八郎たちは大急ぎで着替え始めた。この後は、部屋での作戦会議だ。
八郎たちが戻ってから一時間後、教師はやっとのことで気絶から立ち直った。
「ちくしょう、あのくそがきどもめ。体がふやけちまった!」
教師はそう言うと体をタオルで拭き、服を着てから、再び生徒を見張る作業に戻った。
「もう午後九時半だ。そろそろ就寝になるぞ。」
「リヤカーは、教師が居ないうちにこっそり持ってきた。」
「おお進吾、グッジョブだぜ。」
「へへ。スリルがあって楽しかったぞ。」
「スリルがあるなんてもんじゃねえよ。どれだけ緊張したか。」
横から浩二が顔を突っ込む。
「あ、お前も行っていたのか。デブなのに」
「酷いよ。そこまで言うなんて。」
浩二は半泣きになった。
「車輪がついているから運ぶのは楽だったよ。」
進吾が口を突っ込む。
「楽じゃないぜ。意外に疲れるんだ。」
「疲れないよ。楽だったよ。」
「そりゃあ進吾は、リヤカーを押すだけだもん。僕なんか、前の部分持ち上げてたもんね。それに、進吾だって部屋のドアをくぐりぬけるときに、『はあ、結構大変だなあ。』なんて言っていたじゃないか。」
「まあまあ喧嘩はよせ。そんなしょうもないことでこの大作戦が壊されても困るしな。」
八郎は目を瞑って得意げにそう言った。
午前二時、八郎のグループだけは全員起きていた。
「じゃあ、そろそろ教師も眠りについていそうだし、作戦実行といきますか。とりあえず、生徒を運び出す。んん・・・あ、いやっ、作戦変更だ。教師を先に運び出す。こっちの方が安全だ。じゃあ、浩二はリヤカーを押す役、進吾はリヤカーを持ち上げる役、それ以外は教師をリヤカーにのせる役だ。」
「ちょっとまて、それじゃあ時間がかかる。体育館に二人くらい待機しておいて、教師をリヤカーからおろす役にしようぜ。それで、教師をリヤカーにのせる奴らは、教師の寝床に待機する。」
「了解。では進に創は体育館で待機しておいてくれ。」
「了解だなんて、軍隊みたいでかっこいいな。」
「さあ、なるべく早くすませるぞ。」
まず始めに、「担任」という張り紙がある部屋へ忍び込む。鍵は閉めておらず、中には白石たちが寝ていた。
八郎はおっかなびっくり、白井をリヤカーにのせる。そして、浩二と進吾が体育館へ運び、進に創がおろす。これの繰り返しを何度かして、やっと終わった。
「ふう、もう一時間も経っちまった。あと一時間くらいで仮眠の時間が終わって、教師どもも起きだすだろうから、さっさと生徒を運ぶぞ。もう一人ずつじゃない、五人ずつ、いや、住人ずつだ。」
「十人ものるかなあ。」
「のるだろう。早くするぞ。」
「なんか、あんまり乗り気になれないなあ・・・」
「そりゃあ、まだ俺たち以外この作戦に気づいていないからさ。これからが面白いんだ。」
八郎はそう言い、拳を強く握り締めて、天井を見つめた。
生徒も運び終えた。時刻は午前四時をさしていて、八郎たちは汗だくである。
「はあ、なんとか、教師が気づく前に終えたな。さて、あとはここで仮眠をとって朝を待つのみだ。」
「疲れたあ。眠たい。おやすみい・・・」
「グッナイ。」
みんなすぐに眠りについた。
八郎は、騒がしい声を聞いて起きた。
「ん・・・なんだなんだ?ああ、一泊移住か。」
八郎たちはハイキング道にいる。青少年の家とは死角だ。
「なんだ、みんな起きているじゃないか。」
殆どの生徒は起きていて、わあわあと喚いている。
「うわ、なんだこれ?!」
「あれ、野外キャンプだっけ。」
「やだあ、たくさん蚊にかまれているわ。」
「よし、成功だな。教師どもんとこへ行ってみようぜ。」
「うん、わかった。」
八郎と進、創に正樹は教師のようすを見に行った。