第6話:テストはどうなる?!
「白井先生は、技術家庭だから、勉強のことがよくわからないんですよ。だから、そんなめちゃくちゃなことを言う。」
紀夫は、勉強だけは真面目なので喋り方がなかなかうまい。
「技術家庭を馬鹿にするな!副教科は、内申が大きいし、人格を磨くのにとても大切なのだ。もし学校が、主要教科しかやらなかったら、変な人間ばかりになる。」
「じゃあ、塾に行っている人はみんな変だというんですね?」
「ああそうだ。」
「話が少し脱線してきているので戻しますが、先生ちょっとおかしくないですか?」
紀夫が右手の人差し指を自分の頭にあてる。
「おい、今何をやった!」
白井が紀夫の首をつかむ。
「くくくく、首が絞まる・・・」
「ふん!」
白井が手を離すと、紀夫は倒れた。
「あ、紀夫!」
「こいつ、殺しやがった・・・」
「し、失神しているだけだろう。だ、大丈夫だ、し、し、心配するな。」
白井はあくまでも平静を装っているが、明らかに動揺しているかのような喋り方である。
「う、ううん・・・」
紀夫は起き上がった。大事には至らなかったようだ。
「よかったあ。」
「ほ、ほらな。失神していただけだ。」
「それでも、そんなことをやるなんて教師失格ですよ。校長先生に言ってきます。」
進が教室を出ようとした。だが、白井が進の首根っこをつかむ。
「そんなことをしたら、どうなるかわかっているんだろうな・・・」
本能的に身の危険を感じた進は、教室を出ようとするのをやめた。
「はい、わかっています・・・」
「そうだ、それでいいんだ。はいじゃあ席座ってえ。今日は、一時間目から恐怖のテストです。じゃあ、職員室にとりに行くから、待っておけ。ふっふっふ・・・」
教室が緊張した雰囲気になる。だが、なかなか白井は戻ってこない。
「あれ・・・?」
「おかしいな、まだかな」
「もう一時間目、半分も過ぎてる」
「はあい、みなさんにお知らせがあります。」
白井が戻ってきた。
「今日のテストは中止です。」
「ええ、なんでえ?」
(よっしゃあ、してやったり!)
「ある特別な事情で、なくなりました。次やるのは、恐らく二週間以上先でしょう。それじゃあ、今日は臨時で六時間ずっと技術家庭です。はい号令。」
「ええ?!」
教室内が騒がしくなる。
「号令!」
「・・・起立。礼。着席。」
(なんだ、いつかはあるのかよ、結局。そんじゃあ、そのときもテストをシュレッダーにかけてやれば・・・あ、そうだ!)
八郎はあることを思いついた。
(昨日の夜、創と正樹、来てなかった・・・)
休み時間になった。八郎は、まっさきに創の机へ行く。
「おい、創。」
「なんだい?」
「昨日の夜、来なかったよな。何故だ?」
「いやあ、両親が、なかなか寝てくれなくてね。」
「それなら、仕方がないや。次は、正樹だ。おうい、正樹、昨日の夜なんで来なかったんだあ?」
「ええ?聞こえない。」
「仕方がねえな。昨日の夜、なんで来なかったんだ?」
「いやあ、深夜テレビが面白くて面白くて。ビデオテープがないから、録画できなかったんだ。ごめんね。」
「深夜テレビ?午前二時頃は、番組は終わっているんじゃないのか?」
「あ、う・・・」
「本当のことを言ってみろ。」
「そのう・・・面倒くさくて・・・」
「ふうん。まあ一応成功したからいいや。」
「何の話をしているんだ。」
白井がにこやかに近寄ってきた。
「(うわ、気持ちわる・・・)ああ、昨日の夜のテレビの話をしていたんです。」
「そうか、テレビか。でも、いつまでもテレビなんて見ていないで、たまには勉強しろ。」
「していますよ、ここで。」
八郎が、床を指差す。
「そりゃあ、しているがな。家でもやるのが偉いもんだ。」
「外でいつも遊んでいるので、勉強なんかできません。」
「遊ぶな!勉強しろ。」
「運動なので、体育と同じです。体育だって、勉強でしょう?」
「う、まあいい。勉強するかしないかはお前の勝手だ。」
「勝手?どういう意味ですか?」
「勝手の意味もわからないなんて・・・中学生だろう。勉強していないからそうなるんだ。」
「じゃあ聞きますけれど、先生は学生の頃、勉強していたんですか?」
「・・・もちろんしていた。」
「ふうん。じゃあ俺もちょっと勉強してみよっと。」
「それでいいんだ。」
白井は去っていった。
「白井のせいで、話が断ち切れちゃったな。」
「何の話をしていたっけ・・・」
「・・・そうだ、テストをめちゃくちゃにしたときの話だ。」
「それで、八郎はどうしたの?」
「もちろん、やったさ。体育館裏の塀を飛び越えて、職員室の窓をぶち破って、テストをシュレッダーにかけた。みごと、テストは粉みじんになったけれど、途中で長田っぽい奴に見つかって、大急ぎで逃げてきた。あ、そうそう、ガラスを壊したときに、こんな怪我もしちゃった。」
八郎が、ガラスを破ったときに出来た傷を見せる。
「うわあ・・・そういえば、今思いついたんだけれど・・・」
「ん?何だ?」
「昨日じゃなくて、今日だよな。」
「ああ、そういえばそうだな。まあ、意味は通じるし、どうでもいいじゃんか。」
その頃、廊下で侑也と翔太の二人が廊下でこんな会話をしていた。
「テスト、なくなっちゃったなあ。」
「楽しみにしていたのになあ。」
「多分、あの不良たちがやったんだと思うよ。」
「僕もそう思うね。」
「さっき、テストだのシュレッダーだの言っていたから、テスト用紙をシュレッダーにかけたんだろうなあ。先生たちもかわいそうに。」
「ああ、折角問題を作ったのになあ。」
「本当、あいつらには困ったものだよ。性格も悪い。」
「早く、高校に行きたいねえ。」
「そうだねえ。それも、僕たち二人が目指している、あのN高校にね。」
N高校とは、ここから電車で三十分程の距離にある、私立の中高一貫校のことである。日本で一番偏差値が高いということで有名で、どれぐらい高いかといえば、七十九である。
「あそこは、みんな頭がいいから、あんな変なことをする奴らは居ないだろうよ。」
「僕、N高校に入ったら、クラシック研究部に入りたいな。」
「僕は、数学研究部かな。」
「ああ、それもいいね。数学研究部に、クラシック研究部に、鉄道研究部に、物理研究部に、地歴研究部・・・」
何故二人がN高校の部活まで知っているかといえば、受験に備えて、パソコンなどでいろいろと調べているからだ。
「いっぱい入るんだね。大変かもよ。」
「そうかもね。」
「じゃあ、五月末の中間テストに備えて問題の出しあいっこしようよ。」
「いいね、やろう。」
「三ぶんの五かけるマイナス九ぶんの八十三わるマイナス六十三ぶんの四十二は。」
「えっと・・・紙に書かないとわかんないや。」
「ははは、そうだね。そもそも、問題を覚えられないか。僕だって、覚えていないもの。」
この後も、二人はチャイムがなるまでの五分間、問題の出しあいっこをしていた。