第5話:新入生テスト?!
とある日の終わりの短学活でのこと。
「ええ、家庭訪問期間と短縮も終わり、ひと段落してきただろうか。実は、明日『新入生テスト』というものがある。」
教室内が騒がしくなる。
「小学六年生の勉強の中からでるぞお。今日、しっかり勉強して、備えておくように。では、学級委員、挨拶。」
「起立!さようなら!」
「さようなら」
「おうい、テストだってよお」
挨拶が終わってすぐ、八郎は創に飛びついた。
「面倒くせえよなあ。なんであんなつらいことを・・・喜ぶのはガリ勉どもばっかだ。」
創が、侑也の方を顎でしゃくる。
「子供は、勉強をする必要なんてねえ。遊ぶために生きているんだ。」
「そうだぞ!テストなんて、勉強が出来ない人に対しての差別だ!」
「しっ!あんまり大きな声で言うと、またあの白井の野郎がぐちぐち言ってくるぞ。」
「そうだな。小さな声で・・・テストは、体育のテストだったら面白いと思うんだけれどな。」
「たとえば、野球の人数は何人ですか?とか。これは簡単すぎるか」
「保健も忘れずに」
「へへっ。なかなかエッチですなあ」
「いえいえお代官様こそ。」
「お代官じゃねえよ」
八郎が笑って言った。
「何がお代官だよ」
正樹が話にのってきた。
「いやいや、ちょっとね・・・テストの話を・・・」
「テストかあ。うっとうしいよなあ。体育の実技だけならいいんだけれど。」
正樹が運動場の方を見る。
「あ、実技ねえ。ガリ勉どもを見下せて、いいもんだぜ。」
「なのに、あんまりねえんだよなあ。」
「俺、総理大臣になって、テストは体育だけになるようにするぜ。」
「はは、そりゃいいや。だけれど、その頃には、俺たち大人だぜ。」
「そういえばそうだな。俺、何を言ってんだか。」
「なあなあ、明日、テストを盗んで、めちゃくちゃにしてやらねえか。」
「え・・・職員室に突入するの?そりゃあきついぜ」
「夜中に侵入すれば・・・」
「無理だろ・・・」
「鍵閉まってるし・・・」
「塀を乗り越えればいいのさ。体育館の裏の塀、低いだろう。」
「んん、あそこなら入れそうだな。よし、やってみようぜ」
「だけれど、どうやって家を脱出する?」
「あんなババアどもなんか簡単に出しぬけられるさ。」
「じゃあ、集合時間と場所を決めておこうぜ。」
「場所は、学校の正門前。時間は、丑三つ時でどうだ」
「丑三つ時?なんじゃそりゃ」
「午前二時から三時までのことさ。つまり、二時に集合ってこと。」
「あ、聞いたことがある。なんでも、幽霊がたくさん出てくる時間帯なんだろ。」
「ええ、怖いじゃんかよお。」
「いやむしろ、面白いじゃん。じゃ、そういうことで。」
気がつけば、もう校門のところまで歩いてきていた。創、八郎、正樹は全員違う方向に家があるので、ここで別れを告げなくてはならない。
夜の一時四十分、八郎はこっそりベッドから抜け出た。明かりは全て消えている。家族は寝ているようだ。今がチャンス!
「ようし、寝ているな。」
玄関のドアを開ける。ついでに、鍵を持っていって、外に出てから、閉める。それから、駆け足で学校に向かった。
八郎が学校についたのは、時間にして夜の一時五十分。走ってくると、早いものだ。
「まだ誰もいねえなあ・・・一足先に侵入しよう。」
八郎がそう呟きながら門をよじ登る。結構な高さだが、八郎のように運動神経がよいと簡単に登れるようだ。
丁度、体育館の裏のところに着地した。体育館の中から物音が聞こえてくるが、気にせず本館の方へ。一階の職員室に入ろうとするが・・・。
「鍵が閉まってやがる。破ってみようか」
だが扉が破れるはずもない。そこで、八郎はいいことを思いついた。職員室の窓から侵入すればいいのだ。とても古い窓なので、こじ開けられるかもしれない。しかし、それも出来なかった。八郎は最後の手段に出た。
「このぼろっちい窓を、割ってやろう。割ったほうが、大人たちも大騒ぎするだろうし。」
八郎はガラスを殴った。物凄く大きな音がする。手を見てみると、真っ赤にそまっていた。
「ちっ、怪我をしてしまった。どうせ中に絆創膏があるから、それはればいいや。」
とりあえず電気をつけ、血が出ている部分に絆創膏をつけたが、これで大丈夫とは到底思えない。
「これでいいや。えっと、テストはどこだろう・・・」
そこら中にある机の引き出しを引っ張る。あった。八郎はそれを取り出すと、傍にあったシュレッダーにかけた。
「へへへん、これでにっくきテストをやらなくても済む。教師ども、ざまあみろ!」
「おい!誰だ!」
後ろから大人の声がする。長田だ。
(なんでこんな時間に居るんだよ・・・逃げなきゃ。)
八郎は大急ぎでドアの鍵を開けて出た。そのまま、一目散に門を飛び越える。着地したとき、少し痛かったが、今の八郎にはそれどころではなかった。捕まったら何をされるかわからない。頭を丸刈りにされるかもしれないし、三年生のとき、内申点を悪くつけられるかもしれない。
「ちょっとびっくりしたけれど、明日が楽しみだぜ。」
次の日。緊急の朝礼が行われた。
「ええ、今日朝礼を行ったのは、ある特別な理由があります。」と、校長。
「昨日の夜、長田先生が発見したのですが、職員室の窓が割られていたのです。門には鍵がかかっているので、入られるわけがありません。つまり、生徒の誰かが学校に泊り込んでやった可能性が高いのです。」
「ええ、なんでそうなるの?」
「こじつけだな」
「酷い。責任を擦り付けるなんて」
生徒たちの野次が飛ぶ。
「今年は、このような不祥事が起こりすぎです!そこで、罰として、これから暫く、毎日、朝礼と掃除をやることにします。よいな?」
校長が、生徒たちの目をまじまじと見つめた。
「はい。では、そういうことでお願いしますね。」
「校長先生、ありがとうございました。今日の朝礼は、これで終わりです。明日は金曜日ですが、全員朝礼にくるように。では、まわれえみぎ!」
教室に全員が座ると、誰かが突然口を開いた。
「おい、これっておかしくないかよ」
雄一だった。
「俺たちがやったんじゃないのに。おかしいよなあ!」
この言葉で、侑也以外の全員が雄一の方を見た。
「教師どもに抗議しようぜ。みんなでやれば、怖くない!」
ここで殆どの生徒は馬鹿らしいと思ったのだが、数名が立ち上がった。
「おう、やってやろうじゃんか」
「ぶっつぶすぜ」
(ちょっとやばいことになってきたな・・・)
八郎は、心の中で思った。ここでみんなに言うべきか、言わざるべきか・・・。丁度そこで、白井が入ってきた。
「はい、おはようござい・・・」
「おい!白井先生よお!」
「なんだお前たちは!また因縁をつけてくるのか!」
「さっきの朝礼、おかしくないですか?」
「おかしくない。おかしいのは、お前の頭だ。」
白井がはははと笑う。
「失礼極まりありませんよ、先生。」
「お前程ではない。安心しろ。」
「先生という職のあなたがそのような性格だったら安心できません。」
「うるさいなあ!がきどもは黙って頭に数学だの国語だのを詰め込んでおけよ!」
白井は憤慨した。