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尖閣諸島は「日本固有の領土」ではない

作者: 憂国の一書生


 今日、2019年9月2日は、終戦の日である。


 今から74年前、5千万人を超える尊い人命が失われた第二次世界大戦は、東京湾、戦艦ミズーリの上で終結した。


 このような戦争は二度と起こしてはならないと思う。悲しみ、苦しみ、血を流し、死んでいく犠牲者は常に弱い立場の者である。



 先日、警察庁が、尖閣諸島の警備のため、離党専門部隊を創設すると発表した。大型ヘリを持つ、高度に武装した部隊を作るらしい。


 このニュースを読んで思い出したのが、現在、自由民主党、安倍政権が計画している憲法改正である。その改正草案には気になる箇所があった。


「第二章、安全保障、第九条」である。


「戦争を放棄」するものの、「自衛権の発動は妨げるものではない」とし、「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」と、自衛隊を合法的にするらしい。


 国防軍は「国会の承認その他の統制に服する」とあるが、このなんとも怪しげな言葉「その他の統制」、これは誰でもアレのことだと想像つくと思うが、今、述べておきたいのは、それについてではなく、その次の項、「九条の三」である。


「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海および領空を保全し、その資源を確保しなければならない」


 これである。


 おそらく、もし京都や東京が空襲されたり、あるいは北海道や九州に他国の軍隊が上陸し、日本が侵略されたりでもすれば、自衛隊が動くことに異論をはさむ人はいないし、自ら戦おうとする人も少なくないと思う。私だって、愛する人、愛する国土を守るために立ち上がると思う。


 日本人は、平和を愛する心とともに、勇敢な武士の心を持っている。それは歴史を振り返れば分かる。


 だが、もしこの「九条の三」がこのまま変わることなく、憲法が改変されれば、遠い海の「資源の確保」のために、「国民は協力」しなければならない。


 その守ろうとする領土領海が、本当に、「日本固有の領土」であれば、まだ良い。本当は良くもないし、危険極まりないが、筋は通っている。


 だが、日本政府が主張する領土、北方四島、竹島、尖閣諸島、これらは本当に「日本固有の領土」なのだろうか。


 内閣官房のホームページには、「尖閣諸島が、日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています」と記載されている。


 外務省のホームページでは、上と同じ文言のあと、「したがって、尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しません」とある。彼らは「尖閣諸島に関するQ&A」を作成し、その啓蒙活動に勤しむ。


 それと並行し、韓国や中国の行為を批判し、領土が侵略されると不安をあおり、嫌韓、嫌中を広めようとする日本のマスメディア。彼らの行いは、はたして妥当なのだろうか。




 忘れてはならないのは、日本は戦争に負けた、と言う事実である。終戦ではなく、敗戦である。本当は戦いたくなかったとか、これは米英による陰謀があったとか関係がない。


 1945年、8月14日、昭和天皇と大日本帝国は、ポツダム宣言を受諾した。


 それにはこう記されている。


「日本国の主権は、本州、北海道、九州及四国並びに吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」


 これら以外は日本の領土ではないと、日本は認めたのである。


 内閣官房は、「日本は、尖閣諸島が無人島であるのみならず、他国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重に確認した上で、1895(明治28)年1月に閣議決定を行って沖縄県に編入しました」と、説明するが、ポツダム宣言を受諾した時点で、このような歴史は領土の帰属にとって関係ない。


 問題は、沖縄返還時のアメリカの言動である。


 1951年、9月8日、日本はサンフランシスコ平和条約に著名した。その第三条「信託統治」にはこう記されている。


「日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。

このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。」


 これにより、尖閣諸島を含む、南西諸島はアメリカの統治下に置かれることになった。(1953年12月25日付けの民政府布告第二十七号)そして、1972年5月15日、沖縄とともに尖閣諸島は日本に返還されたというのが、外務省の見解である。


 彼らは、「米国は,日米安全保障条約第5条の適用に関し,尖閣諸島は1972年の沖縄返還の一環として返還されて以降,日本国政府の施政の下にあり,日米安全保障条約は尖閣諸島にも適用されるとの見解を明確にしています。」と主張する。これは正しい。


 しかし尖閣諸島はアメリカの施政権下に置かれたが、沖縄返還時、アメリカ国務総省は、尖閣諸島は「中立」だと言い、その後、現在に至るまで、尖閣諸島の領有権が日本にあるとは、()()()言わない。


「米国は諸島の領有問題のいずれの側にもつかない。米軍は条約によって介入を強制されるものではない」(1996年、モンデール駐日大使)

「安保条約は尖閣諸島に適用される」(2003年 エアリー国務省副報道官)

「尖閣諸島は沖縄返還以来、日本政府の施政下にある。日米安保条約は日本の施政下にある領域に適用される」(2009年 オバマ政権)

「尖閣諸島の主権について米国は特定の立場を取らない。中国からの攻撃があれば、我々は必ず防衛する」(2016年 ハリス司令官)


 ポツダム宣言を受諾したので、日本は本土以外には「吾等アメリカの決定する諸小島」しか持てなかった。日本が尖閣諸島の領有権を主張するには、先ず、アメリカの承認が必要なのである。


 実際、日本政府は、何度もそれをアメリカ側に確認したが、明確な回答は得られていない。


 そうした状況の中で、外務省は以下のように説明する。


「カイロ宣言やポツダム宣言は,当時の連合国側の戦後処理の基本方針を示したものですが,これらの宣言上,尖閣諸島がカイロ宣言にいう「台湾」の附属島嶼に含まれると中華民国を含む連合国側が認識していたとの事実を示す証拠はありません。

そもそも,戦争の結果としての領土の処理は,最終的には平和条約を始めとする国際約束に基づいて行われます。第二次世界大戦の場合,同大戦後の日本の領土を法的に確定したのはサンフランシスコ平和条約であり,カイロ宣言やポツダム宣言は日本の領土処理について,最終的な法的効果を持ち得るものではありません」


 国内向けのプロパガンダとしては良いかもしれないが、もし、これを海外の、公の場で真面目に述べたら、いい笑い者である。呆れ果てる国もあるだろう。現在、日本政府は、徴用工問題において、国際法に違反していると韓国を非難しているが、これは、そんなレベルの話ではない。


 内閣官房は、「力ではなく法の支配に基づく平和な海を目指して、1、国家は法に基づいて主張をなすべきこと。2、主張を通すために、力や、威圧を用いないこと。3.紛争解決には、平和的収拾を徹底すべきこと」と言う。


 その一方で、彼らは多目的護衛艦と言う名の空母を建造し、F35戦闘機を大量に購入し、離党専門部隊を設立し、憲法改正を計画する。




 一体、何が起きているのだろうか。何故このようなことが起きているのだろうか。


 内閣官房は、


「中国は、長年にわたって、我が国が尖閣諸島を領有する事について一切異議を唱えず、海底資源埋蔵の可能性が指摘された後、突如として領有権について独自の主張を始めました。

1969年に国連の報告書で東シナ海に石油埋蔵の可能性があることが指摘されると、それまで何ら主張を行っていなかった中国は、日本の閣議決定から76年後の1971(昭和46)年になって、初めて尖閣諸島の「領有権」について独自の主張をするようになりました」


 と言うが、これを読むと、中国が海底資源が発見されるや否や、尖閣諸島を自国の領土だと主張しはじめたと、国民に誤解させようとしているのだろうか、と疑ってしまう。


 日中国交正常化(1972年)の時の周恩来、日中平和友好条約(1978年)の時の鄧小平、彼らは尖閣諸島が自国の領土だと言及しなかった。領土問題を棚上げして、日本との友好的関係を築こうとした。


 また、内閣官房は、


「2008(平成20)年以降は、継続的に中国政府の船舶が尖閣諸島周辺海域に派遣され、頻繁に領海侵入するなど、日本への挑発的行動を繰り返しています。これに対し、日本としては、日本の領土、領海、領空は断固として守り抜くとの決意の下、冷静かつ毅然とした対応を行うとともに、中国に対して厳重に抗議を行っています」


 と言うが、「中国政府の船舶が尖閣諸島周辺海域」で激増するのは、2012年9月からである。


 これは、中台統一を目標にかかげる、習近平が中国共産党総書記に選出される直前であった。


 1971年、台湾は中国の代表権を失い、それ以来、国家として認められていない。しかし、アメリカは依然として台湾に軍隊を置き、中台の緊張を高めている。


 国家の分断を恢復しようとする動きがある時、反アメリカの動きがある時には、必ず事件が起きる。


 現在の韓国では、それが進行中である。朝鮮戦争を終結させ、南北を統一する方針を打ち出した文在寅。ノーベル平和賞級の偉大なものだったが、その時点で、文政権潰しが始まるのは目に見えていた。


 日本のメディアは、今日も、文叩きに勤しんでいる。終戦の日を報道する者は、誰もいない。


 石橋湛山、芦田均、田中角栄、竹下登、橋本龍太郎、小沢一郎。アメリカに不都合な政策を実行しようと試みた日本の政治家は、みな、逮捕、強制起訴、総辞職と政治家生命を絶たれていった。沖縄の米軍基地を移転させ、中韓などと良好な関係を築こうとした鳩山由紀夫政権は、半年で潰された。


 ブレジンスキーが言う所の、「分断し統治せよ」である。アメリカ合衆国、あるいはトランプの言う所のディープステートは、それぞれの国の代理人を使い、メディアを使い、人々を対立させ、争わせる。



 三枚舌外交と呼ばれた、1916年のサイクス・ピコ協定を思い出す。領土問題で各国は対立し、中東は100年経っても戦火の絶えない悲しい土地となった。


 小さな土地。独占すれば、一部の権益者に小さな利益が入る。


 もし二国間で共同開発をすれば、それぞれの国民は大きな利益を手にできる。安全保障上のコストが減り、国家間交流も増え、経済成長にもつながる。


 だが、領有権を巡って争えば、莫大な利益が軍産複合体に入り続け、私たちは血のコストを支払うことを忘れてはならないと思う。


 憲法が「戦争を放棄」しているからといって何の慰めにもならない。彼らは言葉を変える。「戦争」を「紛争」と言い換える。「テロとの戦い」と呼ぶ。そうして大衆を、直接的間接的に扇動する。


 その昔、ドイツがスデーテンラントを占領した時、イタリアがエチオピアに侵攻した時、日本が満州に侵攻した時、それは「戦争」と呼ばれなかった。「人道的介入」である。その結果は考えるまでもない。




 かつて西田幾多郎は言った。


「各国家民族が各自の個性的な歴史的生命に生きると共に、それぞれの世界史的使命を以て一つの世界的世界に結合するのである。これは人間の歴史的発展の終極の理念であり、而もこれが今日の世界大戦によって要求せられる世界新秩序の原理でなければならない」(『世界新秩序の原理』)


 これが「八紘為宇」の本当の理念である。


 現在、日本ではグローバル化が急速に進んでいる。大国や、多国籍企業、国際金融家たちは、世界を軍事的、あるいは経済的に征服し、支配下に置こうとする。竹島も北方四島も、尖閣諸島とほとんど同じである。アメリカによって領土紛争の種が蒔かれ、今は、日本政府がその種に水をやっている状況ではなかろうか。それが開花した後、果たして何が実るのか。


 私たちには時間はあまり残されていない。


 今日にでも、日本政府は敗戦の事実を認め、つまらない所有欲や捻じ曲げられたナショナリズムから卒業し、中国に歩み寄り、各国家民族が自立し、共生する、コンヴィヴィアルな世界を目指す必要があるのではないだろうか。









 拙文は、尖閣諸島が日本固有の領土であると信じ、中国から守るためには強硬的な行動も辞さないと主張する、私の大切な友人Hに捧げる。



 内閣官房(https://www.cas.go.jp/jp/ryodo/senkaku/senkaku.html)、外務省(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/qa_1010.html#q2)のホームページの文言は、本日、2019年9月2日現在のものを引用した。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちわ、にのいです(^^) Twitterで、夢学さんのエッセイの話を見かけたので、拝読しました! かなり切り込んだテーマですね。 学の無い僕には、感想を書き込むのすら躊躇してしまいま…
[気になる点] あなたは根本的な勘違いをしている 人間が生物であるくびきを逃れられない現状、弱肉強食の縄張り争いは避けられない つまり平和とは力が均衡している状態なのだ [一言] 過ぎたる理想論は最悪…
[一言] しっかりとした見分おみそれいりました。なんでしょうね、たしかに良い知恵が湧けばいいんですが。敗戦の事実を認めるべきは確かですね。そして今ある私達の生活を護っていくことも確か。大事なのは戦争ほ…
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