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第八話

対話の間でもなく、こんなエネルギーの中、少年に会って伝えられるのかどうかさえもわからない。

閉じ込められてからはここには誰も来ていない。食事も水も届けられてはいないのだ。

体力的なことも考えると今動かなければ二度とできないだろう。


トパーズは、友人をこんな風にあつかうようなことはしたくなかった。

怖がって近寄れない風の精霊たちに来てもらうにはこれしか考えられないのだ。


祈りを込め手を床にかざす。

トパーズの周りには光の模様が現れ、風の精霊を召還する。


「ごめんね・・・エオノール、エオノーラ・・・私を彼の元に連れて行って・・・」


少年を探し出し呼びかける。

おかしな波動でもう映像は見えない。切れ切れの音声で、自分が誰であるかと、今の状況を告げ、町の人たちとここから離れるように告げ、逃げるルートを伝える。


「わかった・・・・君・・・」


途切れ途切れに聞こえる声に何か質問をしているようだが聞こえない。

そのとき、エオノーラがトパーズのそばに来てゆっくりと同化してゆく。


「エオノーラ・・・!」


トパーズはびっくりするがそのとたん映像と声ががクリアになる。

少年の姿が見える。


「あ・・・」


少年と、トパーズ同時に声が漏れる。


「わかったよ。町の人に伝える。・・・でも・・・君はどうするの?神殿にいるんでしょ?」


「わ・・・私は大丈夫・・・神殿は護られているから・・・」


とっさに嘘をつく。心配は掛けたくない。


「早く人々に伝えて・・・あなたもちゃんと避難して・・・」


うなずく少年。

トパーズを見つめ手をトパーズのほほに持ってゆく。ふれることはできないはずなのだが、不思議なことにぬくもりを感じる。


「絶対に・・・また会おうね。今度は透明な君じゃなく本当の君に会いたい。・・・・・約束だよ」


そういうと笑顔と共に手を振りながら町へ降りてゆく。


トパーズは涙があとからあとからとめどなく流れてくるのを拭くこともなく見送る。そしてエオノーラとの同化をとき、呪文で繋ぎとめていた精霊を解き放つ。


『彼とともに行って彼を守って』


と伝える。

開放したとたんに祈りの間の古ぼけた石畳の上にひざまづく。


”私は巫女として失格だ。この数日できっともっとたくさんの人を救う事が出来たのに・・・・・彼は大丈夫なのだろうか??私はもうただ祈ることしか出来ない。”


そして祈りの間で祈り続けた。

もう眠ることもなく、1日中。町の人と少年のため。


あれから何日がたっただろうか。


少年は急いでいた。

西の神殿にいる少女に会うために。


人々に事実を告げ、みんな船に乗って避難をさせた。

少年の父もまた町の小さな神殿で神に仕える身であったため少年の話はすぐに受け入れられたのだ。

そしてその騒動にまぎれて西の神殿を目指した。


大騒ぎな町の中、何度か風に助けられた。

その風からは少女の気配は感じられない。


「お願いだ・・・風の精霊!彼女の元に連れて行ってくれ。僕は・・・まだ彼女の名前も知らないんだ!」



〜西の神殿〜


あるとき一瞬すべてがクリアになったような感覚。

解き放たれたかのような一瞬。

おかしな波動で満ちていたのに・・・


ゴゴ・・・


そう音がして祈りの間の扉が少し開く。

外に出ると何の音もしない、誰の姿もなかった。

神殿には人の気配がない。

何日も飲まず食わずでふらふらの体で、壁を伝ってようやく立ち上がり、神との対話の間まで急ぐトパーズ。


そのころ神殿の外には少年の姿が。

神殿にはもう何日も前に人は逃げ出し扉は開かれたまま急いで物を運び出したあとが残っている。


「もう避難しちゃったのかな??」


クンクンと風が袖を引っ張る感触。


「もしかしてまだいるの?」


そう確信して神殿の中へと風に導かれる。

庭を抜けたところの扉をくぐったとき、長い廊下の向こうのほうに人影。

声をかけようとしたらその人は壁の中へととけてしまった。

少年はその壁に駆け寄り手を触れる。


〜神との対話の間〜


対話の間に入ると水晶の精が自愛に満ちたまなざしでトパーズを見つめている。


その瞬間で何もかもわかった気がした。

そしてその次の瞬間大きく地面は揺れて・・・水晶でできた神との対話の間が崩れていく・・・


”ああ・・・最後なのだ・・・

きっと私は神のもとへはいけないだろう。でも彼さえ無事でいてくれたら・・・”


そう目を瞑ったとき、天から光が降り、天使たちがトパーズのの両腕を持って引き上げる。

トパーズは自分の体から解き放たれたのだ。ゆっくりと自分の身体が倒れ、その上に重なるように崩れ落ちる水晶が見える。

風の精霊達がやってきて解き放たれたトパーズの骸のある周りを、風の精霊が取り巻いている。



空には無数の天使たちがこの国を取り囲むように並んで、沈んでゆくのを見守っている。

まるで雪のようにひらひらと天使たちの羽根が舞い落ちる。

まるでそれは天使達の流す涙のように少し悲しげに見える。

その無数の天使たちと一緒に、トパーズはただただ滅んでゆくのを見ている。

何の感情もなくただ・・・ただ見つめているだけだった。




                      


                       終わり



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