第七話
今日は町を見渡せる小高い丘まで来ていた。
大きな木が1本、少年はそこに登りトパーズに手を差し出す。
「おいでよ」
その笑顔がまぶしく、トパーズは直視できないで顔を赤らめる。
赤くなった顔を見られたくなくてエオノーラに風を吹かせてもらう。
「うわっ」
ザザーっと突然下のほうから吹いてきた風に少年は目を閉じた。
次に目を開けたときにトパーズの姿はなく、きょろきょろと周りを見回す。
「くすくす…」
笑い声のするほうを振り返ると隣の枝にトパーズが座っていた。
「君は風の妖精さんだったね。こっちにおいでよ。ここのほうが断然眺めがいいんだ」
そういうと幹の方にスペースを空けてくれる。
「ありがとう」
トパーズはふわりと飛ぶように移動する。
少年の言う通り、そこからの眺めは風に乗って飛ぶより美しく感じた。
その町の風景と重なるように別の風景が重なる。
崩壊した建物、道は割れ瓦礫の山になっている。
これは美しく見えているこの町の同じ風景だ。
トパーズは自分のやるべきことを思い出す。
”伝えなければ”
今、起こっていることを早く伝えて、この島から人々を連れて非難してもらうために少年に会っているのに・・・
少年がほかの島や国に避難をしてしまうと、もう2度と会えなくなることはわかっていた。
平和で幸せな笑顔をトパーズは見ていたかった。
それだけで泣きたくなるほど幸せで心が満ちてくるのだ。
「・・・どうしたの?」
そう聞かれてはっとする。いつの間にか涙がこぼれていた。
すっと少年の手がほほに触れそうになり、すっとその手が空を切った。
触れることはできないのだ。体は西の神殿の対話の間にある。これは虚像なのだ。
「ごめんなさい・・・もう帰ります。美しい風景を見せてくれてありがとう」
逃げるようにふわっと飛び立つトパーズ。
「明日も会えるよね!待ってるから!!」
後ろのほうで少年の声が響く。
神殿の自分の体に戻ると床に泣き崩れた。
「馬鹿だ・・・このことを伝えなければ彼も巻き込んでしまうのに・・・」
神との対話の間を出ると巫女たちが数人立っていた。
こんなことは今までなかった。異様な雰囲気に警戒するトパーズ。
「トパーズ様。トパーズ様には神殿の祈りの間に篭っていただきます」
突然巫女の一人にそう言われたかと思うと布で鼻と口をふさがれる。
次の瞬間には意識を失っていた。
どのくらい時がたったのか気がつくと神殿の奥、何十年も使っていない祈りの間にまるで捨てられたごみのように転がっていた。
小さな格子の窓と重たい石の扉。鍵がかかっていてびくともしない。
小さなその窓から精霊たちが入ってきて町の様子を伝えてくる。
おかしなエネルギーは町中、国中に広がってゆき、神殿間のグリッドも切れている。
”本当に私は馬鹿だ。自分本位な感情のためにチャンスを逃してしまった”
国のすべては無理でも西の神殿を囲む地域だけは護ろうと、トパーズは必死に祈りの間に自分のすべてを注ぎ込んでいく。
昔、祈りの間であっただけあって部屋の一つ一つの石や柱達は眠ってただけだった。
それらを起こし、意識を神殿のクリスタルの女神たちや、天使たち、精霊たちに繋ぎ、町を守るためにお願いをして祈り続けた。
祈ることで大地や地球と、つながりを強め、このおかしなエネルギーの影響を、できるだけ受けないようにするのだ。
それでも感じるエネルギーは、一人の祈りでは防ぎきれるものではなく、もうじわじわと迫っており時間の問題だということ。
ある日、トパーズは異変を感じた。たった一人の祈りでは支えきれない。もう本当に近いのだ。
風の精霊たちもこのエネルギーを怖がっていて神殿にも近づいてこない。
”彼に・・・伝えなければ・・・”
・・・・・・つづく・・・・・・・