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腐り姫と不死の王  作者: コードアリス
第一話: 消えてしまった鼓動
4/33

シーン3

 どれほどの間、深い霧の中をさまよっていたであろうか。


「だめだ、もう一歩も歩くことができない……」

 歩きつかれた鳴海は、祭壇から数キロ離れた樹木の陰にへたり込む。


「どこに向かえばいいのかも……わからない」

 心臓は止まっているというのに、疲労は蓄積され、痛覚はそのまま残っている。

 パーカーの袖を引き破った鳴海は、血がにじんだ足裏へと巻きつけ、このような状況下でも腹の虫が鳴いた己に赤面し、

「そういえば……水と食料が入っているといっていたな」

 空腹感を覚えた彼は、もぞもぞと袋の口を開く。


「中身は……」

 黒地に黄金色の刺繍がほどこされたローブ、水筒と木の実、白い布に包まれた物体と、

「拳銃――」


 フラッシュバックする、悪夢の記憶。


「でもこの銃って……」

 おそるおそる銃杷(グリップ)を握った途端、異形の銃は緑色に発光をはじめ……。

 まるで生命力が吸い取られていくような感覚に、思わず鳴海は手を離してしまう。


「赤い、弾丸?」

 落下の衝撃で横へとスライドした回転式弾倉(シリンダー)にみえた弾の数は、五発。

 しばし鳴海は、異質な銃を眺めていたが……。

「……モデルガンか何かに決まっている」

 思考を遮断するかのように袋へと戻し、空腹を満たすために木の実をかじる。


「ぅ……」

 が、あまりにも不味かったため、すぐさま吐き出し、

「……食べ物だと思ったのに」

 がっくりと両手両ひざを地に付けた彼は、あらためて匂いの元を探る。


「美味しそうな匂いがしたのは……布に包まれているほうかな?」

 いままで嗅いだことのない、それでいて、やけに食欲をそそる不思議な香り。

 生ツバを呑みこんだ鳴海は、白布が巻かれた物体へと手を伸ばすが、

「……!?」

 突如きこえてきた、野犬とは異なる遠吠えに総毛立つ。


「いまのって……まさか、狼の遠吠え?」

 日本では絶滅したといわれる、犬神の咆哮。

 さりとてその叫びには、明確な殺意と狂気がはらまれており――生命の危険を感じた鳴海は、皮袋を手に無我夢中で走り出し、

「ルロオオォ――ッ!」

 彼の数百メートル後方に現れた、一頭の狼――否、幻想生物であるはずの人狼(ワーウルフ)は、逃げ惑う獲物に向け猛追撃を開始した。


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