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腐り姫と不死の王  作者: コードアリス
第一話: 消えてしまった鼓動
3/33

シーン2

 時をおなじく。

 鳴海たちのいる死霊の森から、南西五十キロほど進んだ高台に建つレスタニア城にて。


「……やめぃ」

 (がく)の音が止み、妖しく揺らめいていた踊り子たちが息をのむさなか、

「そこな小娘。いま、余の顔のシワを(わら)いおったな?」

 怨讐をはらんだ老人のしゃがれ声が、居並ぶ臣下の心を凍りつかせていく。


「い、いいえ! けっしてそのような――」

 骨皮だけとなった指を向けられた踊り子は身をふるわせ、

「そんなにもおかしかったか? 余は醜い老塊として、そちのまなこに映ったか?」

 にやと笑ったレドリック王は、あご先で衛兵たちに合図を送り、

「お、お慈悲を! なにとぞお慈悲をっ!」

 屈強な男たちに両腕をつかまれた娘は、涙ながらに慈悲を乞う。


()れ者ではあるが、よい肉付きをしておる」

 が、ドレスを引き裂いた王は、豊満な胸へと五指を食い込ませ、

「ちょうどエサをやる時間だった。――この娘、生きたまま犬どもに喰わせてやれ」

 恐怖に満ちた娘の顏を肴に、嗜虐の笑みへと口元を歪ませていく。


「ひ、いやあぁァ――ッ!」

 それは、憎悪にもひとしき感情だった。

「これ見よがしに若い肌をみせつけおって……馬鹿が」

 忍び寄る死の影。枯れ枝のように朽ちゆく己の肉体。

 五十年前、“嘆きの壁”から現れた妖魔たちを退けた三英雄のひとりは、老いと死の恐怖に怯え、あまねく黄金よりも、かつての若さ、生命力を渇望していた。


 そんな命のことわりに、王が歯噛みするさなか、


「殿下」

 紺色のローブに身を包んだ白髪の男が、娘と入れ替わるかのように姿を現す。


「おお、ネビュロスよ! 待ちくたびれておったぞ!」

 長身痩躯の中年男性。

 陰気で血色の悪い術者の登場に、内心で毒づいていた臣下は大勢いた。


「ホホ、遅くなりまして申し訳ございません。新薬の生成に手間どりまして」

 数年前に登用された、得体の知れぬ魔術師。

 いかなる手段を用いたか、怪しげな術の研究まで許され、それに異を唱えた者たちは王の命令によって処刑されてしまった。


「ほ、ほほゥ……これはまた、美しき紅玉(ルビー)のような色合いじゃな?」

 後継者争いが起こっている帝国からの干渉も絶えてひとしく、もはや狂王たちに逆らえる者など、この国には存在しない。


 そんな臣下たちの心情をあざ笑うかのように、


「シオンよ、酒を」

 王はネビュロスから受け取った小瓶の中身を杯へと垂らし、

「そなたの兄の命……はたして、いかなる味がするであろうな?」

「……」

 顔をうつむけた少年従者の反応を愉しみながら、並々と酒を注がせ、

「ああ、美味い……まるで朽ちかけた余の肉体に、ふたたび活力がよみがえってくるようじゃ」

 血色に揺らめく液体を飲み干し、満足げに舌なめずりをしていたが……。


「いまひとつ。ぜひとも殿下のお耳に入れたいことが」

 ネビュロスからの耳打ちを許可した王は、

「――まことか!?」

「はい。ついに訪れたのです。

 長年に渡る殿下の願いを成就させるときが」

「お、おぉ……!」

 もたらされし福音に痩躯をふるわせる。


「我が財を使い潰そうと構わぬ! ネビュロスよ、必ずやその者を捕えてまいれ!」

 そしてドス黒い欲望で頭蓋を満たした王の姿に、

「殿下の御心のままに」

 うやうやしく一礼をしたネビュロスは、フードの奥でほくそ笑みながら大広間を後にし、

「そなたも余の糧となるまでは、しっかりと愛でてやるから、のぅ?」

「……身にあまる光栄にございます」

 あらがえぬ怪物の言に、シオンは作り笑顔で応えるしかなかった。


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