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腐り姫と不死の王  作者: コードアリス
第一話: 消えてしまった鼓動
2/33

シーン1

 ゆれる視界に舞い落ちるは、六花(りっか)


「ここは……」

 雪月に染まりし森に、夜鴉たちの鳴き声がこだますさなか、

「そうだ、僕は――」

 己が撃たれたことを思い出した鳴海は、慌てて体へと視線をめぐらす。


「……ある」

 されど吹き飛ばされたはずの四肢は無事に残っていた。

「折れていたはずの足の指が……」

 不思議なことに完治していた。――自傷行為の(あと)はそのままだったが。


「僕は、殺されたはずなのに……」

 不可解なる現象。

 あの非日常的な出来事は、はたして夢であったのか?

 それとも、これは悪夢の続きなのか?

 燭台に揺らめく炎をみつめながら、しばし鳴海は思考をめぐらせていたが……。


「ひづめの音?」

 木枝にとまっていたカラスたちが、一斉に灰色の空へと飛び立ち、

ラ・(目を)エジェロ・(覚ました)イクシュ(ようじゃな)

 ドクロの馬鎧をまとった八脚の黒馬、そして紅のコートに身を包んだ銀髪の少女が瞠目する彼の前へと現れた。



 × 第一話 消えてしまった鼓動 ×



エルク・(もう動いても)ラ・イスム(平気なのか)?」

 異形の馬から降りた少女は、未知の言語で鳴海に語りかけるが、

エスラ(君は)……」

 奇妙なことに、自然と彼の口から返答はつむがれてゆく。


「ワシの名はアリア。赤竜(せきりゅう)のアリア」

 取り払われたフードの下に隠されていた、エメラルド色の瞳。

 さりとて鳴海が動揺したのは、人間離れしたアリアの美貌にだけではない。


「その……君のこめかみから生えているものは?」

「この角は竜族の証。……なんじゃ、そのようなことまで忘れてしもうたのか」

 アリアはさびしげに苦笑し、

「竜族って……」

 厨二病めいた発言に、鳴海は口元をひくつかせてしまう。


「くふふ……」

 アリアと名乗った少女の年齢は、鳴海と同じくらいであろうか。

 端正な顔立ちと白皙の肌。大人の色香を漂わせながらも、少女子(おとめご)のようなあどけなさが表情には残されている。

 無論、奇形の馬は別として、二対の朱色の角も、近未来的なボディースーツもコスプレ用のものではあろうが……いずれにせよ現状を把握せねばなるまい。


「ここは、どこですか?」

 鳴海はためらいながらも問い、

「うむ。レスタニア王国の北東にある死霊たちの森じゃな」

 目の前にいる対象とコミュニケーションを図ることは、困難であることを知る。


「……とりあえず僕は、家に戻ります」

 嘆息した鳴海は、雪に埋もれかけた石畳へと素足で降りるが、

「ワシらに戻れる場所など……もはやどこにもないのじゃよ」

 聞こえてきたつぶやきに、思わず身をかたくしてしまう。


「どういう――」

「鳴海よ。おぬしはこれから死ぬための旅をはじめねばならぬ。その手助けをするために、ワシはおぬしを迎えに来たのじゃ」

 そして鳴海の左腕に手を添えたアリアは、


「あ……」

 まるで騎士が忠誠を誓うかのように、そっと自傷行為の痕に口付けを行い、

「いずれ嫌でも知ることになる。それまではワシが、全力でおぬしを悪意から守る」

 呆然となった少年の顔をみつめながら……。


「ひょっとして、女子(おなご)にキスをされたのは初めてじゃったか?」

「えっ!? ち、ちが……っ!」

 白い八重歯を見せ、ふたたび黒馬へと騎乗し、

「くふふ、()いやつじゃな。――ほれ、受け取るがよい」

「うわっ!? え、えっと……これは?」

 鳴海は投げ渡された皮袋の重さによろめく。


「食料と水、そしておぬしの大事なものが入っておる。

 ワシは結界のほころびを修復するがゆえ、いましばらくは休んでおくがよい」

 森の奥へと去りゆくアリアを、言葉なく見送っていたが……。


「白い息が、出ない……」

 パーカー一枚という薄着姿にもかかわらず、肌寒さを感じぬ違和感にようやく気付き、

「心臓が……止まっている」

 己の鼓動が消えてしまっていることに、たとえようもない恐怖をおぼえた。


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