9 討伐戦
バルトは驚いていた。
バルト達は今盗賊討伐部隊の中にいる。
その数50人。
まさかこれほどの人数で動くとは思っていなかったため正直戸惑っていた。
さらには中心にいる人物達、街の兵士とは明らかに違う風貌の人たちは恐らく、いや間違いなく騎士団だろう。
まさか騎士団までも出てくると思っていなかったためどこか窮屈な思いをしていた。
帰るわけにもいかないのでバルト達は隅の方で身を寄せていた。
すると騎士団の、それも一番偉そうな人が突然バルト達の方へ近づいて来た。
「お初にお目にかかります。王国騎士団第一部隊隊長ロランド=オクタビオと申します。」
そう名乗った50代程に見える騎士はバルト達に不自然なほど丁寧に深々とお辞儀をした。
「今回、盗賊の手掛かりを掴んで頂いたのはあなた方だとお聞きしております。
お恥ずかしながらこれといった手掛かりを掴めていませんでした。あなた方が手掛かりを掴んで頂いたお蔭で人々の安全を守ることができます。騎士団を代表して御礼を申し上げます。」
そう言うとロランドはまた深々と頭を下げた。
「いえいえそんな!偶然ですから、ですが騎士団の方のお役に立てるなんて光栄ですわ!」
すかさずセーナが外行きモードで返事をし、お辞儀をする。
この時のセーナはなんというか、輝いていると思う。
「そう言っていただけるとは嬉しい限りです。失礼ですがお名前を伺っても?男性がバルト殿とは伺っているのですが女性二人は伺っていないもので。」
「そうでしたか。私はセーナと申します。」
「えっと、僕はウィンベルトと言います。男です。」
笑顔で返すセーナとは対照的にウィンが控えめに言った。
「!!な、だ、男性の方でしたか!?これはとんだ御無礼を…。」
ロランドは身じろぎをして言った。
どうやら相当動揺しているようだ。
「いえ、よく間違えられますから…。」
ウィンが落胆したように答える。
女の子に間違えられたことよりロランドの驚きっぷりがこたえたようだ。
「こう見えても仲間を身を呈して守る勇敢な男なんですよ。」
バルトがさり気なくフォローを入れた。
「ロランド隊長!そろそろ出発を。」
団員の一人がロランドを呼んだ。
ロランドはそれに応じ、先頭に立った。
「皆の者!今回、集まってくれたこと感謝する!」
低くよく響く、腹の底を揺さぶられるような声だった。
「今回、奴らと戦闘する役目は我ら騎士団が引き受ける!皆には捕縛する役目をお願いしたい!どうか皆の力を我らに貸して欲しい!!そしてどこに敵が潜んでいるかわからぬこの状況!気を抜かぬように!」
短くも力強い言葉だった。
声が言葉がこれほど強く力を持つことをバルトは知らなかった。
胸が騒ぎ、心が奮い立つ。
それはここにいる誰もが同じだった。
街の警備兵の多くは仕事だから来ただけであっただろう。
しかし、今はロランドの言葉に奮い立ち鋭い目つきに変わっている。
その時、
「思い出した。」
セーナは呟く。
「ロランド。慧眼のロランド。先の戦争の英雄よ。」
ロランドは翻って進み始めた。
盗賊の根城は複数あるらしい。
今回は二手に別れ、主になっている一番大きい根城と一番離れている小さな根城を攻略することになっていた。
バルト達は離れている根城の攻略チームとなった。
こちらの人数は18人、騎士団員は5人。
小さい、とはいえこんな人数で大丈夫なのだろうか。
不安が拭い切れない。
そうこう考えているうちに拠点となる場所に到着する。
緊張する、不安が胸を支配する、決行はまだ明日であるのに。
しっかりしなくては、セーナとウィンの前なのだから。
バルトはいつも通りを意識した。
それが結果として不自然に繋がっていたのだが。
拠点では騎士団員が中心として動いていた。
拠点での騎士団員の対応はとても淡白なものだった。
俺たちが気に入らないのかなんなのか、それを不満げに感じていたバルトであったが、気づいた。
騎士団員も同じく不安なのだ。
悪とはいえ、敵とはいえ、殺すことも殺されることも。
ここにいる誰も死にたくない。
だから殺す。
そんな矛盾にも思える行動に身を委ねるのだ。
そのことに気づいたバルトは少しだけ緊張がほぐれた。
決行は明日の日が落ちる時。
その時に向けて各々が身体を休めるのであった。
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