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6 一人の仕事


一人生きて捕らえた盗賊を町まで連れていき、警備兵に引き渡した。事件以来ぎこちないない空気が会話を妨げ妨げ続けていた。その後三人はそのままギルドに向かい、依頼の完了手続きをし、報酬を分配した。



「じゃあ、また。」


バルトは分配を終え、次の大雑把な予定を決めて足早に立ち去ろうとした。


「バルト!」


ウィンはバルトが振り返るのを待った。


「助けてくれてありがとう!」


「チームなんだから当たり前さ。気にしなくていい。」


ありがとう、

そう言って笑ってバルトは帰っていった。

やっと三人の間の空気が揺るみ、少しの間いつも通りを取り戻すことができた。

三日後に集合する約束をして。




「よし、これにしよう!」


次の日、ウィンはまたギルドに来ていた。


『ハングリーキャット4頭の討伐もしくは捕獲』


ハングリーキャット、通称腹ペコキャットは肉食の猫で人間を襲うこともある。

しかし、大きさは普通の猫と同じくらいで人間を食べたという事例はない。


これなら、と仕事を決めウィンは早速現地へ向かった。

ウィンの受けた仕事はかなり簡単な部類に入る。

ターゲットは人を襲うとはいえ、危険度はそれほど高くない。

4頭という指定は一人辺りのノルマで複数人がこの仕事を受け、数を減らしていくのだ。

さらに捕獲、討伐どちらでもいいというのは手段に制限がないということである。

総じて言えば非常に駆け出し向けの仕事である。


ウィンは昼前には現地の平原につき、ターゲットを探し始めていた。

幸運にも一匹目が早速見つかった。

ウィンは気配を殺し、姿勢を低くし、少しずつ近づいた。

胸元まである草花は身を隠すには役立つが動くと音が出る分厄介である。

そうっとそうっと

ウィンは近づいていった。

やっとの思いで肉眼ではっきりとハングリーキャットの動きが見える位置まで来ることができた。

特徴の長目の、トゲトゲとしたしっぽを確認し間違いなくハングリーキャットだと確信した。


(よし!)


ウィンが土魔法を使う。

するとハングリーキャットの周りの地面が隆起し始めた。

それに驚き跳びあがるも既に手遅れで、あっという間に土の壁に閉じ込められていた。

いとも容易く1頭目を捕まえているが、周りの地面を隆起させ閉じ込めるなどという魔法操作容易にできることではない。

ましてや逃げられない発動と構築の速度でそれが出来る人間などそうそういない。

いとも簡単にこの魔法を使うウィンは紛れもなく一流の魔法使いなのである。


ウィンはすぐさま駆け寄り、ハングリーキャットを気絶させ、捕獲した。

この調子で、と気合いを入れ直し次はを探し再び動き始めた。

するとしばらくして次のターゲットを見つける。

今度は3頭一緒にいる。

これほど簡単に見つかるのが沢山いる証拠で討伐依頼が出ている所以なのだろう。

ウィンは先ほどよりも少し遠くに位置取りまた土魔法を使った。

3頭同時は厳しいと思ったので近くにいる2頭をまず捕まえることにした。

地面か隆起し始めた時、運悪く1頭が動き、逃げ出してしまった。

すぐにウィンは次の魔法を使う。

闇魔法

日が高いので光魔法と一瞬迷ったが背の高い草花に光が遮られているので闇魔法の方が威力が出ると踏んで放った。

黒と紫が混ざりながらも溶け合うことなく存在し、塊は真っ直ぐターゲットを捉えた。

ギャンという鳴き声と共に吹き飛び、黒と紫がまとわりつき、2頭目を動かなくした。


その光景を見届けたウィンと3頭目のハングリーキャットはすぐに行動を起こす。全速力で走りだすハングリーキャットと次の魔法を使うウィン。

野生動物だけあって素早いハングリーキャットだがウィンの魔法はしっかりと捉えた。

体の半分が氷漬けになる。

ウィンは3頭目も逃さず捕まえることができた。

複数種類の魔法を使い分け、瞬時に構築し、的確に当てる。

どれをとってもウィンの魔法は一流なのである。


早く捕獲しよう、

そう思いまず、闇魔法で気絶させたハングリーキャットに近づいた。

捕獲しようとした時予想外の出来事が起こる。

ハングリーキャットは跳び起き闇魔法を振り払い、ウィンに体当たりして突き飛ばした。

バランスを崩し後ろに倒れるウィンは内心怯えきっていた。

しかし、ハングリーキャットは容赦なく襲いかかる。

仇なす敵を討つために。


「うわああ!」


恐怖は拒絶を生み、拒絶は魔法に変わった。

風魔法、それも生き物を引き裂くほどの。

ハングリーキャットは無惨にもズタズタに引き裂かれた。

ウィンは魔法使いといては一流である。

しかし、それは魔法を使うという点においてのみであり、戦士としては何もかもが未熟な半人前である。

ハングリーキャットが起き上がれたのは無意識に威力を抑え、殺さないようにしたから。

日光が遮られていとはいえ日が高く十分に闇魔法の威力が出なかったから。


ウィンは後ろに倒れる。


汗びっしょりの体と破裂しそうな心臓と肺を落ち着かせながら改めて認識する。


殺した。


殺されると思って殺した。

これが自分のいる世界、魔物だろうと人間性だろうと殺さなきゃならない時がある。

誰かの役に立ちたかった。

誰かを守りたかった。

だけどそれはとても難しい。

誰かのためには誰かを傷つける。


バルト、

僕は人間でも魔物でも殺しちゃいけないと思う。

だから君が人を魔物を躊躇わずに殺すことが怖かった。

でも君が盗賊を殺したから僕らは無事でいられた。

わかってる。

いや、やっとわかった。

盗賊を殺さないで僕らを守れるほど君は強くなかったんだ。


バルト、セーナ今までごめん。

弱くて臆病者な僕はずっと二人に傷つける重荷を殺す重荷を背負って貰ってた。

気づいたから、

気づけたから、

今度は僕も背負うよ。

弱い弱い僕もみんなと一緒に進みたいから。

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