5 襲撃
依頼は達成した。
念のために二日ほど滞在し、見回りをしたが他の一角ガゼルはいなかった。
なので一角ガゼルが迷い込んだ原因は調査しなくていいと言う。
まあ、別の依頼になるから報酬も発生してしまうので言われるがままに。
村の人たちにはとても感謝された。
ウィンは「仕事ですから。」と返していたがとても嬉しそうだ。
セーナの方は「皆様のお役に立てて本当によかったです!」などと仰っている。
ちゃっかりお土産まで貰って。
仕事で来たにしては十分過ぎるほどのお別れを楽しんだ後にバルトたちは出発した。
出発の時間が遅れたせいか予定より半日ほど遅れてそうだ。
そして山のど真ん中で夜を明かすことになった。
「依頼大変だったね。」
「そうね。」
「でも、喜んでくれてよかったね。」
「そうね。」
ウィンに対してセーナは淡白に返す。
セーナのこれが地なのだ。
「あの子もさ、あんなとこに迷い込んだりしなきゃよかったのにね。」
ウィンが寂しそうにそういう。
「それを喜んで殺しに行くのが俺たちの仕事だろ。」
バルトは敢えてこう応えた。
「そういうことは言わない約束でしょ?バルトもウィンも。」
ごめん、二人して空中に呟いた。
「おお!当たりだ!女が二人もいるぞ!」
突如男の大きな声が響いた。
「まじか!?おお!ってそっち男じゃねぇのか?」
バルトたちを囲むように次々と男が現れる。
「俺、そっちでいい。」
姿勢の悪い大男がゆっくりとした口調で言った。
「本気かよお前!なんでもありかよ!」
ヘラヘラとした痩せ型の男が言い、ガハハと周りが笑った。
「じゃあ早速。」
そう言いながら初めに現れた短髪の男がセーナの腕を掴んだ。
「やめろ!」
ウィンが体当たりをする。
華奢なウィンの体当たりでもどうにかセーナの腕から男の手を離すことができた。
ウィンはそのままセーナに駆け寄り、必死に守ろうとしがみついた。
四人
間違いなく盗賊
幸運だったのは四人だけで狙ってきてくれたことだ。
気を抜いていたせいで気づけなかった。
もっと気をつけていれば…いや、他にも反省点はある。
だが今すべきは反省ではない!
バルトは剣を抜き、その勢いのまま正面の男を斜めに切り上げた。
血が飛び散るよりも先に次の目標に駆け出す。
軽く跳びあがり体を捻って振った剣は的確に大男の首もとを切り裂いた。
方向を変え真っ直ぐ走り、突き出した一撃は呆気にとられ立ち尽くす短髪の男の胸を貫いた。
数秒、状況を把握した最後の一人が逃げだす。
しかし、バルトはすぐに追い付き殴り飛ばし、気絶させた。
「ふぅ…」
バルトは横目でウィンとセーナを確認する。
無事を確認すると一安心し、死体から剣を抜き、盗賊たちを確認する。
最初に切った男に息がある。
バルトは二人に背を向け近くに立ち、剣を下向きに構えた。
そして柄の部分に額を当て、目を閉じた。
思い浮かべる。
ウィンの怯えた瞳を、セーナの非難する瞳を。
バルトは仲間を守れる強さと勇気を持つ人になりたかった。
バルトは奪うことも奪われることもない世界に憧れていた。
バルトは笑みを浮かべた。
そして、そのまま剣を下ろし、トドメを刺した。
バルトは振り返り二人を見た。
「ウィン、それじゃセーナを守ってるのか守られてるのかわからんぞ。」
そう言ってバルト笑ってみせた。
ありがとう、
二人の怯える、非難する瞳が進んでいる道が正しくないと教えてくれる。
誰も教えてくれやしない。
どうすれば理想に近づけるかなんて。
だから俺には二人が必要なんだ。