ガリベンくん
レイジは図書館に来ていた。読みたい本を探し、空席でその本を読もうとしていた。
「おや?」
ふと目に入ったのは血眼になって勉強に励んでいる男子中学生と思しき少年だった。
ただならぬ覇気。死と隣り合わせと言わんばかりの気迫があった。
(僕にもあんな頃があったかな。学校の現況や学歴を神と崇めているような頃が……。なぜ、そう思ったのだろう?)
椅子に座り、レイジは逡巡する。自分が堅苦しい服装=学生服を着ていた時代を思い起こす。
特に深い理由やらトラウマはなかったような気はする。
ただ、大人たちは二言目には「勉強をしろ・しないと酷い目に遭う」などと一方的に主張するものだから、流されるまま従っていた。そんな感じだった。
(今思うと、本当に学校の勉強が出来ることが絶対的に正解だったのだろうか? ……違う気がする。いわゆる、高学歴を手にしたものの得たモノは極楽の上流階級生活ではなかった。エリートの肩書があるが故に、酷使されて来たような気がする。そもそも、オカシイじゃあないか。同じ会社に入れば、自分より偏差値の低い大学出身者と同じ時間働いて、同じぐらいの給料を貰う……だいたいのパターンでは。頑張る人が偉い・賞賛すべきというなら、それこそ偏差値ごとに給料を変えていく方が……。いや、それはそれで荒れる。だから、難しいのだろう。成果ごとなら批判は出ないだろうけどね)
などと、脳裏で呟いていたら、バタンと大きな音が。
先程の鬼気迫る勢いで勉強していた男子中学生が倒れたのだ。
「! 倒れた?」
レイジおよび、周辺の人々が気絶中の男子中学生の元へ集まる。
レイジは男子中学生の額に触れ、手首の脈拍を計る。
「貧血? 目のくまがスゴイことを考えたら、寝不足だろうね」
隣に居田おばさんが携帯電話を構えて、「じゃあ、救急車を呼ばなきゃ」と、119番通報をした。
すると、男子中学生は意識を取り戻し掛けていく。
「びょ、病院なんか……行っている場合じゃない。べ、勉強をしなきゃ。一分一秒も惜しいんだ……」
と、立ち上がろうとするが、再び朦朧とし、伏した。
「無茶するから……。こういうのを見ると、勉強というものが拷問のように見えてしまう。確かに、知識を得る・忍耐力を鍛えることは大事なんだけど……。健康的な生活を害してまで価値を置くべきではないハズさ」
ふと、レイジはハッとなる。
「! やはり、学校の勉強は社会の歯車になるための洗脳トレーニングを目的としているのが本質じゃあないかな? だとしたら、あっさり洗脳されて、大人・社会の言いなりになるのを頭が良いとは評し難いんじゃあ……。なるほどね。大人たち。もとい、権力者たちにいいように利用されかけていたのか僕自身も。つまり、僕もバカだったということか……。笑っちゃうよまったく」