デス・レース 2015
夜勤明けの朝、車で迎えに来た奥さんが、
「ちょっと聞いて〜、昨日(夜勤の私を送っての)帰りに、子供を迎えに幼稚園に行こうとしたらさ〜、めっちゃ危ない目にあったんだけど!」
と待ってましたとばかりに話し出した。その話によると、前を走る車が、中央線を超えたり、歩道に寄ったりしながら、フラフラと走っていたので、注意しながら走っていたという。
高齢者マークを付けていたから、まあ良くあるお年寄りの運転かな〜? と思っていたらしい。
バイパス道路からの右折が一緒で、対向車が過ぎるのを待っていた所、赤信号になり、右折可の矢印が出たという。
前の車はそれに気付かず、止まったまま。プッ! とクラクションを鳴らしても、動かない。
そうこうする内に赤信号になった。
その時、道の真ん中まで出ていた前の車のテールランプが、ギアをバックに入れた事を知らせる。
えっ!? と思った奥さんが、プッ! ププッ! プーーーッ!! とクラクションを鳴らしても、バックし続ける。自分もギリギリまで下がったが、後続車があり、それ以上さがれない。
『ぶつかる!』
と半ば覚悟した時に、車がこすれそうな距離で前の車が止まった。という。
その後も幼稚園まで同道して、危ない運転が目についたという。
ちなみに奥さんは来月出産予定の妊婦である。
これを聞いた時、私は昔見た「デスレース2000」という映画を思い出した。
確か市街地を通る長距離レースを行い、途中でどれだけ人を撥ねられるか、ポイントを競う。妊婦や高齢者を撥ねたら高得点、というインディーズ映画だったと思う。
若かりし頃のシルベスター・スタローンも出演していたと記憶しているが、詳細は忘れてしまった。無責任だが、興味があったらWIKI先生に聞いて見てほしい。
この映画では殺戮者は無謀な若者だったが、2015リアル・バージョンは高齢者という事か? なんとも皮肉な話だ。
私は今、四十年前にできた〝新興住宅地〟に住んでいる。もとから住んでいた訳では無い。元の持ち主が高齢化して、おばあちゃんの一人暮らしが維持できなくなり、施設に入所。その家を、知り合いのつてを辿って、中古物件で購入した。
つまり周囲の住人は高齢化、もしくは私のような第二世代に移行している。以前にも近所で、駐車場から飛び出して、対向車に激突しそうになったおばあちゃんを見かけた事があった。
そして少し前、歩道を走って、児童数名を撥ねて死傷させた、痛ましい事件があったばかりである。あれは認知症高齢者が加害者だった。
田舎に住んでいると、車が無い不便さは身にしみてわかる。我が家も近所のスーパーまで車で10分、歩いて30分強。お年寄りなら片道一時間はかかるかもしれない。
私の父親も80近くまで車を運転していたが、二年ほど前に免許を返上した。家族、そして親戚一同が、傷つけないように説得して、4回事故を起こした挙句の返上だった。
その父親がこの間の事件をみて、
「やっぱり返上して良かったなぁ、俺は事故を起こす前だったけど」
とおっしゃった。
『おいおい、四回事故っとるがな!』
というツッコミを飲み込んで、
「やっぱりお父さんは偉いなぁ」
とよいしょしたら、まんざらでもない顔で、
「車は凶器やで、年寄りはその認識を忘れたらあかん!」
と力説していた。うん、私もそう思うよ、あなたに力説する権利はあるのか? 甚だ疑問は残るが……まあ幸いにも大きな事故を起こさなかったから、良しとしよう。
他にも認知症高齢者で運転を継続している方を一人知っている。だが部外者なので、強く止めるようには言えないのが現状だ。
家族ですらデリケートな問題なのに、他人が注意していいものか? 悩み所である。
私の実家は二十年前の〝新興住宅地〟だが、美観指定地区とかで、お店もない、バスもそんなに来ない。
こんな街にお年寄り一人で住んでいたら、そりゃあ車を運転したくなるってものだ。
移動販売車や、デリバリーにも限界がある。
これは行政サービスの出番だと思うのだが、いかがでしょうか? 駅前で暇そうにしているタクシーに、補助金を出して、格安運送サービスとか……いかがでしょうか?