こんな逃げたくなる夜に
ふいに降り出す氷雨の粒 心迷う
やけに空が暗く 嫌になる
ぬかるみ道が宝物 影が楽しい
冷めた月が笑ってる 永い夜は続く
土の下に何があるのだろう 無意識それとも敗北
この世界に負けたとしても 昔話はあるのだ
際限なく 思い出はあるのだ
この世界に生まれ落ち 笑えなくとも
今は 宵闇に溶けるだけ
それだけで 生きてる価値はあるのではないか
壊しもせず 創りもせず
存在だけで 生きていたい
神にも裁かれない 純然な贋作
自然に囲まれ 孤独が映える
かの山から 舞った風
ゆれる木樹 落ちる枯れ葉
湿った空気に浸かり 体が冷たい
忍び歩いているだけで 何を壊す
千年の虚無感を 繰り返すだけ
傷跡なんて どこにもなくて
一輪の花も みあたらなくて
やがてみんな 死んでしまうのだろう
朽ちる町 淀んだ景色
人波も消えて 業も残らない
居場所もなくば 呪いもない
けれど深淵に あらがえない
欲望を 忘れることはできない
けっきょくは 何に餓えているんだろう
いとおしい 名もなくて
仰ぐほど 空音が聞こえて
放り投げたるは コーヒーの空き缶
置き去りにして ひとり往って
うるさい鼓動を 道連れに
かこまれた 生活のなかの
おそろしの 罪は凍えてしまって
骨のあやかしが 飛んでいる
そんな人ならぬもの 誰が見ているの
亡霊は意味をなくしたように
寄る辺を失って 転がっていく
星のあいまから 等しき不幸を
大事に握っていた あの恨めしさを
にくむことも もはややめよう
もがれた四肢も つぶれた魂も
そんなものは どこにもないのだから
壁が迫ってくる 幻をみる
感触のない壁が 人肌だと知る
ひきずりこまれ つかまれて
せきたてられる 不安が心地いい
深まる闇 こぼれる容貌
からみつく不快と 毒瓶ひとつ
根源の罪に 殺される感覚
いにしえからの くらき憂鬱
汚い唾液だけを 棄て吐いて
廃人のように ひとりぼっち
架空じゃない 用意されている肉体
手繰って 身を投じて
支配されよう 生ぬるい朝焼けに
刻一刻と 時間は流れている
おれには 歩くことしか残されていない
ああ遠くから 鬼のなき声が聞こえる