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「じゃあ報告を聞こうか」

 土日を挟んで月曜日の放課後、図書館で楓とこんな風に話すのは三度目だった。

「話を、したよ」

「お、今度はちゃんとできたんだ」

「お前なら知ってるんだろ? アスカの……、羽があったって、あの話は何なんだ?」

「やっぱ、そう簡単には信じられる話ではないよね」

 楓は視線を呼んでいた本に落としたまま答えた。

「お前とアスカは幼馴染だって言ったよな。じゃあ、昔は本当にアスカに羽があったっていうのか?」

 あまりに真剣にそう問うソラの姿に変えでゃ噴き出して笑った。

「ははっ、まさか。人に羽があるわけないでしょ」

「……」

 楓は当たり前のことを言っている。しかし、まるで人を馬鹿にしたようなその物言いにソラは呆れた。

(人には嗤わず、真剣に聞いてやれって言っておいてこいつは……)

「でもよかったよ。どうやらアスカと真剣に向き合ってくれてるみたいで」

「聴かせろよ。アスカの過去を」

「……そうだね。巻きこんじゃったからには、話さないとね」

 楓はそう言って読みかけの本を閉じ、席を立った。そして「場所を変えようか」と言って出口へと歩き出した。

 ソラは慌ててその後を追った。

 楓は図書館を出て校舎に戻った。

「何処いくんだ?」

 と、ソラが聴いても「まあまあ」と生返事をするだけだった。

 一、二、三、そして四階を越えても楓はさらに階段を上り続ける。

 屋上に行くのか、とソラは思ったが今二人が上っている階段はアスカがいた屋上につながる会談とは別の――ソラが最初に間違えって上った階段だった。

 やがてもう一つの屋上のドアの前に二人はたった。

「おい、こっちの屋上は開かないんじゃ――」

 ソラがそう言っている間に楓は何処からか鍵を取り出し鍵穴に差し込んで、回した。

 かちゃん、と鍵が開く音が響いた。

 楓は、にっと自慢げに笑ってドアを開け屋上へと足を踏み出した。

「こっちの鍵も持ってたのか」

「そうだよ。アスカにもこっちのカギは渡してないよ」

「あいつに鍵をわたしたのもお前か!」

「そうだよ。何怒ってんの?」

「あんなフェンスの向こうに乗り出す危ない奴に鍵なんて渡すなよ」

「いやあ、そうでしないとアスカは学校にこないし。自分だけの場所ってとこがないと」

「まったく……」

 ソラはため息をつきながら屋上を見渡した。向こうの屋上よりは自分広い。フェンスも向こうと比べてかなり高い。よじ登るのは結構骨が折れそうだった。

「あんまフェンスには近づかないでね。人目につくから」

「ああ……」

 フェンスへと歩いていたソラは足を止めた。そして。だからアスカには向こうの屋上の鍵を渡したのか、とふと思った。 

「やっぱ、屋上はいいねえ。此処にいるだけで青春って感じがしない?」

「そもそも、なんでお前が二つの屋上の鍵を持ってるんだよ」

「前も言ったけど、それは秘密」

 楓は悪戯無笑みを浮かべた。

 そして楓は徐にポケットから煙草をライターを取り出し慣れた手つきで火を付けた。

「美化委員長が校内で煙草なんて吸っていいのかよ」

 気持ち良さそうに紫煙を吐きだす楓を横目にソラは淡々と言った。

「美化委員長なんて言っても、ほとんど名前だけで何もしてないしね。……吸う?」

「……貰おうか」

 楓はもう一度煙草とライターを取り出しソラに手渡した。

 ソラほうも慣れた手つきで煙草に火をつけ大きく白い息を吐いた。

「なんだ、そっちも結構嗜んでるみたいじゃない」

「まあね。……てか女のくせにキャビンかよ。オヤジくせえな」

「何? 女ならメンソール吸えって? じゃあ、そっちは何なのさ」

「キャスター」

「そっちだってオヤジじゃん。それにあんな甘ったるい匂いのなんて私はやだね」

「……甘党なんだよ」

 青い空の下、二人の高校生が並んで煙草を燻らせていた。

 ソラはまた無意識のうちに視線を斜め上に向けていた。

 それを横目で見ながら「またか」と楓は呟いた。

(アスカもソラも、こら空にいったい何をみているんだ?)

 楓はそう思いながら隣のソラと同じように空を見上げた。


 ほどなくして二人とも煙草を吸い終わった。

 楓は携帯灰皿を取り出し、火を消した煙草をそこに入れ、次にソラに手渡した。

「どうも」

 受け取ると同じように吸い終わった煙草をその中に入れた。

「さて、一服もすんだことだし、話そうかな


 そう言って楓はその場に腰を下ろした。

「聴こうか」

 ソラも倣ってその場に腰を下ろす。

 二人が座っている場所は屋上のほぼ中心で背を預ける場所はなかった。

 胡坐をかいて座ったソラの前には同じように胡坐をかいて座っている楓がいる。女子が堂々と胡坐をかいているのはどうかとソラは思ったがその場では深く言及しなかった。

「前にも言ったけど、私とアスカは幼馴染で幼稚園から一緒だった。私達が住んでいたところは此処よりもっと田舎でね、小学校のときの全校生徒なんか今の一クラス分にも満たなかったの」

「県境のH村か?」

 その村はド田舎ということで有名だった。地方のニュースではよく熊や猪が出没したなどとよく取り上げられていたのでその村の名前はよく覚えていた。

「そうそう、本当に何もないところだよ。山と川と田んぼだけ。ここも都会とは言えないけど駅の近くまで行けば本屋でもカラオケ、ゲームセンターだってあるでしょ? 私の近所は本当に何もないんだから。なんとか寂れたコンビニが一軒あるだけ」

「大変だな……」

 何もないという大変さをソラも少しは分かっていた。

 今となっては行こうと思えば本屋でもどこでも行けるが、まだ小さい頃はそうもいかなかった。お金もなかったので移動手段は自転車だけ、そして中学に上がるまでは自分の住んでいる区域から出てはいけないという縛りもあった。

「小学校の校舎なんか木造だったんだよ。二年前に廃校になっちゃったけどね……」

 楓は昔を懐かしむように目を細めた。

 そして思い出したくない過去を思い出したかのように顔を歪め、話を続けた。


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