ストーカーにホームランを打ってあげて!
「……」
体育の授業中、彼女の視線に気づいてないフリをしながら俺は準備体操をする。
今日の体育は軟式野球。俺のバットが火を噴くぜ。
「うし、それじゃあ二人組になってキャッチボールをして肩を温めろ」
空気の読めない体育教師の言葉で、再び彼女は余っておろおろ。
友人と組んだ俺はサッカーの時同様に、彼女にそれとなくボールをパスしようと思ったのですが、
「なんだ、余ったのか。それじゃあ先生とやろう」
体育教師の野郎彼女を誘いやがった!
「……」
「もっと、大きく振りかぶって投げると飛距離が出るぞ」
体育教師と彼女のキャッチボールを眺めながら嫉妬で心が押しつぶされる。
「おい、どこ見てんだ、早く投げてくれよ」
友人が俺を催促するが黙ってろ。
俺だって、俺だって彼女とキャッキャウフフしながらキャッチボールしたいのに!
「いでっ! 誰だ、今投げたやつは!」
「すいません、手が滑っちゃいました」
腹の立った俺は体育教師の顔面に思いきりボールをぶち当てる。
「まったく……おっと、先生はベースやらバットの準備をしないといけないから」
体育教師が試合の準備をするために去っていく。
彼女の面倒を見るならちゃんと最後まで見てやれよ!
とはいえ、これでようやく彼女とキャッチボールができる。
友人とキャッチボールをしながら、途中で彼女に向かってボールを投げようとするのだが……
彼女にボールを投げようとして思いとどまる。
サッカーと野球では事情が違う。
サッカーボールは彼女に向かって蹴ってころころと転がせていけばいい。
彼女の足元に着くころには、ボールもかなり減速しているので簡単に彼女はそれを取ることができる。
しかし野球のボールは違う。
弱い力で投げたら彼女には届かないし、強い力で投げたら彼女が捕れずに当たってしまうかもしれない。
先日のサッカーの時はシュートを彼女の顔面にぶち当ててしまうという大失態を犯したこともあり、慎重にならざるを得ないのだ。
彼女のグラブにすっぽり収まるように投げることができる程、ピッチングの技術は俺には無い。
どうする、どうすれば彼女とキャッチボールができるんだと悩んでいるうちに、
「よーし、それじゃあ男子集合しろ、試合をやるぞ」
無情にも体育教師が俺達を引き裂いた。
せめて、せめて彼女にホームランボールを贈呈しようじゃないか。
試合がはじまり、俺の打席が回ってくる。
グラウンドの後ろに座って俺を応援してくれている彼女のために、
俺は全神経を集中させ、バットを振るう!
「……! ……♪」
天高く舞い上がったそのボールは、見事に彼女のところへ飛んでいき、彼女はそれをナイスキャッチ。
嬉しそうに俺の打球を手にした彼女を微笑ましく見ながら、俺はダイヤモンドを一周しようとしたが、
「ファール」
無情な審判のコールに邪魔されてしまった。




