えぴそーど7 姫様御抜擢(後半)
長くお待たせして,大変申し訳ありませんでした。
「第三回文化祭の曲どうしよっか会議をはじめまーす」
軽いな、福島。
隣りでガタガタ震えている歩美を尻目に、猫バスター福島の司会を耳にした。てか、いつまでくっついているんだ。
一通りモミクチャにされたあと、満足気な顔をした福島が皆をなだめて、音楽室に集合させた。あれでも一応は吹奏楽部の部長なわけで、女子は渋々といった感じだったが、皆を集めるのにそう時間はかからなかった。そういう統率をとる力があるくせに,なぜ自分の煩悩に打ち勝てない,福島。
「一・二回目で既に決まっている曲は、流行の映画の曲を入れようってことで、『パイレーツ・オブ・カルビ牛』,それにコンクール課題曲の『風邪の舞』が選ばれたわけだが…」
あー、あらすじだけ知ってる。確か、牧場で働く若者がある日牛の呪いにかかって、月の光に当たると牛乳を渇望するようになるってことで、親父さんに追い出されて、全国400ヶ所の焼肉スポットを制覇して呪いを解くために、海に飛び出すんだよな…。今やってるのはその続編だっけ、今度は豚トロの呪いだか何だか。……いや,古いだろ。全然流行じゃない,誰だこの曲を推薦した田舎者は,今流行の映画はなんてったってゲゲゲの…,それは誰だって演奏したくないか。それに課題曲の『風邪の舞』は,いろんな学校で人気になってる曲なんだよな,他に3曲も別の課題曲があるのに,なぜかこの曲がコンクールの課題曲部門で演奏されやすいようなんだ。
「華がなぁああああああああああああああああああああああああああああああああいっ!!!」
福島,吼える。
「夏のコンクールにも中途半端な成績しか収められない我々が,全ての力を出し切って演奏をお客様に届けることができる絶好の機会である文化祭で!! なぜ!! 中途半端に古い映画のテーマで茶を濁すような!! 醜態をさらさなければならんのだぁあああああああああああ!!!」
それを言うな,マジでへこむんだよ。ほら見ろ,歩美が下向いてショボーンとしてるじゃないか。去年の夏の失態を思い出しちゃったんじゃないのか。確かに映画の評価についてはそれなりに賛同はするが,言い過ぎだって。
「それじゃあ部長,『パイレーツ・オブ・カルビ牛』は無しってことですか?」
「いや,時間が全くといっていいほど無いからな,演奏はする。ただしそれをメインに添えるような真似は断じて許せないということだ」
女子一年の質問に淀みなく受け答えする部長。メインには添えない・・・ねぇ。
「おい福島,そう言うからには何かとっておきの企画を考えているんだろうな?」
「ザッツライイイトゥ!! その通りだよ姫! さすが慧眼の持ち主だ!」
意味が同じ言葉を繰り返すな。
「我々が思いがけず手に入れた素晴らしい資質の持ち主,そう!! 姫にこそその答えが隠されている!!」
はいはい姫様をプロデュースしたいのね,勝手にやってくださいよ…。誰だよその姫ってのは,……あれ?
「姫こと,姫宮優をソリストとして仕立てあげ,本当のステージの姫様として活躍してもらうのだ!!」
フルネームで指名が入りました。それも途方もない注文。
「ふ・・・ふざ・・・」
あまりの突飛さに声が上手く出ない。ソリストってことはあれだろ・・・? 俺がメロディーを全部やるんだろ? で,他の人たちは伴奏に徹してサポートに回るって・・・。そんな横暴な案件が通るわけないだろ。他の3年生が許すわけが,
「さんせーい!!」
「たのしそー!!」
「姫ちゃんのソロライブ・・・キャーーーー! カッコいい,可愛い!! 略してカワッコイイ!!」
ほぼ満場一致でした。
「どうやら誰も反対意見は無いようだな?」
いやだから本人がイヤだって,
「それじゃあ姫のソロライブにふさわしい,とっておきのナンバーを選曲してあげようじゃないか皆のものたち!!」
「「「オオオオオオォォォォ!!!」」」
反対意見は棄却されました,民主主義の化身,多数決の原理はここまで残酷なのか。