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えぴそーど5 姫様御披露目

「助けてもらったのに,貴様に対して感謝の気持ちが微塵も起きないぞ。」

「ふははは,姫のそのツンツンな台詞こそが,俺の糧になるのだ!」

馬鹿は懲りずにまだこんなこと言ってる。

「あははは,わ…,殴っちゃだめだよ優くん。」


俺と福島と歩美は,いつものように放課後の帰宅路を歩いていた。

訂正,あの馬鹿を追いかけて走っていた。


「はぁ…,はぁ…。ところで姫宮,昨日ついに発売したアレ,買ったぞ。」また何か,俺を嵌めるようと陽動に出やがった。

…ん?昨日が発売日のアレ…,あ。

まさか!?


「『溶けた血』のP○2版か!?」

「ふ…,さすが我が同士。話がわかるではないか。」

だから同士って呼ぶんじゃねぇ,この犯罪者予備軍。

だが,『溶けた血』なら話は別…。


「何…?その,『溶けた血』って…。」

ん,そうか。一般人の歩美にはこれがどれだけ素晴らしい作品かわからないだろうなぁ,…よし。

説明しよう!!


…やっぱやめた,面倒臭い。

「要するに格闘ゲームだよ,すごく有名なゲームを題材にした。パソコン版のが最初なんだが,これやってると時間を忘れるほど楽しいんだよ。」

気づいたら朝日が昇るのを見ていたことが何度あったことやら…。

「でも,パソコン版があるなら,また新しく買わなくてもいいんじゃないの?」

「それがぜーんぜんよくないのだよ歩美くーーん!!」うわ,いきなり大声で割り込んできやがって…。

「このゲームはだな,元の『溶けた血』のゲームクオリティはそのままにし,キャラの強さのバランスを再調整,さらに新キャラ,新技,新要素を加えた、進化した超ハイクオリティかつ燃え〜な格ゲーなのだよ!しかも初回限定版には猫アルぶげぁぁぁ!!?」

「それ以上はテメェが嬉しいことだろー!!」

あと○.一秒,殴るのが遅かったら大変だったじゃねぇか犯罪者め。


「う…,つつ…。カバンで顔を殴るのは反則でございますぞ姫様。」

テメェ相手にルールなんて適用されると思ったか,ってか姫『様』はやめれ。


「でだ,今日は金曜であるからな,明日も明後日も休みだ、いくらでも遊べるぞ。今日はとことんいってみようではないか!」

むう,これはとても魅力的な誘いだ。だが…,

「お前のその話振りからすると,今日は俺の家に泊まる気か?」「その通ーりです姫!何しろ数学の時間の寝顔は最高だったしなぁ,明日の朝,無防備に寝ている姫のホッペにツンツンぶるげはぁぁぁ!!?舌が、舌がーーー!!」

「マジで気色悪いんだよお前はーーー!!!」

ジャンプを利用したアッパーが見事に顎に刺さった、ザマミロ。今日でコイツを家に泊めるのは終わりだ,何されるかわかったもんじゃない。


「福島君可愛そうだよ優くん…。でも、今日は優くんのお家で遊ぶんでしょ?私も行っていいかな?」

「おー、来い来い。二人きりはシャレにならない。」

「ゲーム持ってきて姫様のお宅に参りますぞーーー!!では後程、サラバ!!」

福島はやかましく叫ぶといつもの別れ道で猛烈ダッシュを始めて突っ走っていた。

…不死身か、アイツは。






さて、二つの橋も渡り終え、住宅街に入り、我が家ももうすぐだ。

歩美は、

「家戻るの面倒だからそのまま優くん家に行くよ」

とのことで、いつもの別れる曲がり角を二人同じ方向に曲がった。



……着いた。あれ、車がある。

母さん家にいるのかな?

………!!!?


「歩美…」


「ん、どうしたの優くん。お家に入らないの?」


「いや…、何か物凄く嫌な予感がするんだ。」


そう、この玄関のドアを開けた瞬間、底知れぬ不気味な何かが、俺の身を危険に晒す。

俺の脳がそのように俺に警鐘を鳴らしているんだ。


「気にしすぎだよ、早くいこ。」


歩美は俺の気も知れず、家に入ることを促す。

ホントに気のせいか?杞憂ならいいが…。

俺はドアノブに手を伸ばし、扉を開けた。


「ただい」

「おかえり、優!!今日は早いわねー、あら、歩美ちゃんもいらっしゃい!」

なんで速攻で出てくるんだ母よ、張ってたのか?


「さあ優、新しい服を色々買ったから全部腕を通してみなさい!あぁ〜、今から楽しみね〜!」


予感大的中。

おい歩美、にやにや笑ってるんじゃない、薄情者。


「な…、勝手にそんなこと…、てか服なんて小さいときのを着れば」

「あんなガサツなもの今の優には着せられないわよー、ほら早く!あ、下着も買ったからね。」


最悪だ。




そして俺の部屋には大量の『女の子用』の服が置かれていた。

息子の不幸に上じて何やってんだ馬鹿親め。

…あれ?


「制服まで女用なの!?」

そう、服の山の一部に、わが中学の女生徒用制服、つまりセーラー服とスカートが置いてあるのだった。


「一応は聞いてみたんだけど、あなたの身長に合いそうな学ランは無いんだって。あっても買わなかったけど。」


おう、待て。

仕方ない、来週もTシャツハーフパンツで登校するわけにもいかないし、着てみるか。


「着方わからなかったら着せようかぁ?」

「あ、私も優ちゃんに着せたいなぁ。」


わなわな。

二人の手が不気味な動きをしている。

部屋から出てってくれ。




下着も換えろだと、何だこのふわふわした布切れは!?…う゛、肌に密着してるようで気味が悪い…。

スカートかぁ…、男がこんなの着るなんてみっともねぇなあ。…股がスースーして頼りない感じだな。

そんでセーラーを着てスカーフをする…と。あれ?スカーフなんてどうやってつけるんだろう?


「困っているようだな、俺がお手伝ぎに゛ゃーー!?」


「なんでおまえがいるんだよー、ってか入ってくるんじゃねー、福島!!」


突然ドアから現われた変態に、俺の戦友目覚まし時計を投げ付けてやった。


「ふ…、ふふ…、偶然ドアを開けてみたらヒロインがお着替え中。お決まりな状況だ!」


意図的にタイミング見計らって入っておきながら何を言う。どうやら俺が着替えてる間に来てたらしい。





「優くん、スカーフ巻いてあげるからはいっていいかな?」


歩美が控えめな声でドアの向こうから呼んでいる。まぁ歩美ならいいかな。


「おう、頼むよ歩美。」

「じゃあ失礼しますっと。…優くん……、凄すぎ。」

何がだ。



「ほら、端を持ってこう折り曲げながら中に入れて…。」

「面倒だなぁ、やっぱ学ランのほうがよかったなぁ。楽だし。」

「絶対ダメ、今の優くんすっごく可愛いんだから、学校のみんなも驚くよ。」

そうか、そうだった。これからしばらくの間はこの醜態を晒さねばならないのだった。

「着替えおわったんで入っていいですよー。」


歩美のオーケイサインが出た瞬間、待ってましたと言わんばかりにドアがバンッと勢い良く開き、福島が侵入し、母さんも後ろから入ってきた。


「すげぇーーーー!!生の美少女学生だ!!カっカメラ!」

マテコラ。


「あらあら、予想を遥かに上回る可愛さね。あっ、あとで焼き増ししてね福島君。」

アンタもですか母さん。


「ほら優、鏡で見てみなさいよ。」

母さんから渡された鏡の中には、頬を微かに紅潮させて、青と白の卸したてのセーラーに身を包み、汚れ一つない白い足が長めのスカートから覗く、小柄な少女がいた。しかも金髪の色がセーラーと、日本人の黒よりずっと色合いが取れている。自分で自分に見とれてしまった。

…はっ!?


「何考えてんだ俺ーーー!!!」


母さん、俺はどんどん道を外れてる気がします。なのにどうして福島と一緒に興奮してるんですか?


「じゃ、次の服いくわよ。小さすぎる服は返さなきゃならないから。」

どうやらこの服の山全部、着なきゃ解放されないらしい。



………。

「優…くん……、それ……」

イウナ、イワナイデ歩美。

「冗談で買ってみたんだけど、ここまで似合ってるなんてねぇ。」

ナンテモノヲカッテキタ母サン。


「うぉーーーーー!!生プリ○ュアブラッぐぇあ!!?」

テメェの反応が一番腹が立つ福島!

俺は次の服だと騙されて、コスプレをさせられていた。それも、全国のおっきいお兄さん方の間で大人気の、あのアニメである。

「ほら、例のポーズをとってくれ姫宮!」

ちょーありえなーい。



その後、やたらフリルのついた服やらピンク色のヒラヒラした服やら、やけに丈の長かったり短かったりするスカートやら…兎角色々と着せられた。

中にはメイド服まであったが、さすがにアレで警戒していたので、これを着ることは全力で抵抗した。母さんの見立てが良かったのか、そのどれもが良好なサイズであった。三人は、俺の姿が変わるたびに感嘆の声を上げ、俺の仕草すべてに興奮していた。さながらファッションショーのモデルの気分であるが、嬉しくもなんともない。本当なんだからな。



「ふぅ…、姫のニューコスチュームは全部見たし、もう夕飯の時間だから、俺は帰らせてもらうぞ。」


そういえばもう夕方であった。あれ?今日ってゲームするつもりで来たんじゃ?いつの間にか趣旨替えされてたようだ。


「じゃあ私も帰るね、バイバイ優くん。」

「さらばだ姫宮!」


俺がバイバイと返事すると二人は部屋から去っていった。母さんも夕飯の支度するからと、一階に下りていき。俺は一人部屋に残された。今はTシャツにスパッツの格好である。


…少しだけ気に入った服が、一つだけあった。もう一度着てみよっかな、…着てみよう。

それは真っ白なワンピースであった。首の辺りから、膝くらいのスカート部分の裾までボタンが十個付いていて、全く汚れの無い、綺麗な純白であった。

鏡の中で、あどけない少女が天使の姿で、顕現していた。…こそばゆいな。でも…、何か…、懐かしいような

「悪い姫宮!『溶けた血』置き忘れちゃ……、た…?」


世界からこの部屋だけが取り残された気分だった。いきなり現れた福島と俺は、石像のように固まった。…と思ったのは俺だけだった。福島はポケットからカメラを抜き出し、フィルムを巻き、シャッターを切る。その動作を、ガンマンの抜き打ちのように一刹那でやった。


「その調子だ。」


福島は満足したように、ゲームのパッケージを取って部屋を出ていった。爽やかな笑顔とともに。


鏡の中で顔を真っ赤にさせた少女を、俺は頭の片隅で可愛いなと思っていた…。

長い間更新が滞って申し訳ありませんでした…。

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