えぴそーど2 姫様御来訪
ひとまず俺は,子供のときに着ていたティーシャツとハーフパンツを身につけていた。下着は…,戦隊ものの絵がプリントされているパンツだ…。何で残しているの母さん?今は母さんと向かい合ってペタンと女の子座りをしている。アグラをかこうとしたら,
「めっ!」
って足を叩かれてしまった。…え,しつけられてる!?
「確かに,あなたは間違いなく優だわ…」そりゃそうだ,まぎれもなくこの心は俺の心で,誰の物でもない。姫宮家の長男,姫宮優だ。
ただ体がなぜか置いてきぼりだ。
こんなちっこくて,幼稚な体でいなければならないなんて…。
しかしもう一度じっくり見て見ると自分の鈍感さに呆れてしまう。髪の毛は以前の短髪とは打って変って,上品さを保った,染めた跡のない綺麗なウェーブの金髪で,触れれば汚れてしまいそうな白くて弾力のある素肌,声変わりし始めて粗暴になりつつあった声色は,口調は別にして,あどけなさを残した少女のそれである。年齢的には,10歳程度だろうか。指摘される前に異変に気づけよ俺。
「昨日の晩見たときは男の体だったけど,朝起きたらその体だったのね」
そうだと思う,もしかしたらベッドの中で目覚ましと格闘しているときにはすでにチビッ娘体型だったのか?それにしても母さんはよく正気でいられる。普通,息子が変形したら取り乱すだろうに。だが母さんはそんなことには動転せずにこうして
「可愛い〜〜〜〜〜〜〜っ,私こういう女の子が欲しかったの〜〜〜〜〜〜〜!!!」
訂正,母さんは馬鹿親ナンバーワンに殿堂入りです。おめでとう母さんぴーぴーぴーどんどんどんぱふぱふ!…あ,いや,ちょっと抱きつくなって,寄るな寄るな,
「頬をすりすりするなぁーーーー!」
必死の抵抗はなかなか通じず,2分間くらい玩具にされた。
「…さて,行きましょうか。」へ?行きましょうって,まさか…,
「学校に行くの!?いや不味いって!」
「あらどうして?一度,先生方に説明したほうがいいわ。」
そ,それもそうだ。このまま学校に行っても誰も俺だと気づかないし,「お嬢ちゃん勝手に入ってきちゃだめだよ〜」って門前払いされかねない。それに今日は確か1時間目は担任のシマムー先生も空いてるはずだ。シマムー先生こと嶋村榮花先生は,親しみやすいお茶目な若い先生だ。きっと俺のことが誰だか,話せばわかってくれるはず。
「それじゃあ学校に電話して,支度をするから優も準備してね。」
そう言って母さんは部屋を出て行った。…さて,準備って言ってもなぁ。一応制服をカバンに詰める。…トイレに行きたくなっちまった。…!?そうだ,これからは方法が違う…。
「考えるな考えるな考えるな…。」
呪文のように頭で何度も詠唱し,目的の場所へと向かった。
…ふぅ。
さて,行きますかっと。俺と母さんは車に乗り込み,出発した。俺の住むこの町,藤岩町は,大きく分けて3つに区分される。南は広域に渡って住宅地で,隣県の会社に勤める人たちのベッドタウンだ。北西は駅があることもあって微妙に発達しており,この市の商店街になっている。本屋に立ち寄ったり,スーパーに行くにもここへ来ることになる。また,学校帰りの生徒の寄りエリアになっていたりする。北東には手を付けられていない林が広がり,そこにポツンと市立藤岩中学校が建っている。
なぜこの林だけ手を付けられていないのかというと,これ以上木を伐採すると,雨が降った際にそのまま雨水が川に流れ込んで,川が氾濫してしまうそうだ。だから学校以外は建築しないよう市から声がかかっているらしい。住宅地と商店街,学校のある林は大きな川で隔たっており,北と東から流れる川が合流して,西へ流れていく地形になっている。
鉄橋で住宅地と商店街は繋がれており,学校へ行く人はそこから商店街と学校を結ぶ橋を渡って登校する。住宅地から学校に直で行ける橋を作ってくれれば近いのに,市では全く考えてくれない。…まぁ都会でもなく田舎でもない平凡な町だ。今は登校時間には遅い時間だから,通りには道行くサラリーマンぐらいしか見えない…はずだった。
「あ…,歩美だ。」
幼稚園のときから,どういうわけかずーっと同じクラスで,今も2-1で一緒のクラスの幼馴染だ。歩美は何をやるにしても,トロイっていうか天然っていうか…,あれでよくイジメられないものだと昔は思ったが,多分人柄のせいなんだろう,誰に対しても優しく接するから,友人も多い。そんな彼女は今,一生懸命に通学路を走っている。…寝坊だな,間違いない。母さんは車を歩美の近くに寄せてウインドウを空けた。
「ハーイッ,おはよう歩美ちゃん!」
歩美とは親ぐるみの付き合いだから,母さんも歩美とは仲が良い。でもハーイって…。
「あ…,おはよう…ござい…ます…。優くんのお母さん…,はぁ…,はぁ…。」
「ちょっと,学校まで走っていったら疲れちゃうって。乗ってきなよ!」多分そうなるだろうなと予測していた,歩美はありがとうございますと言いながら後部座席に乗り込んできた。…いやちょっと待て,車に乗られたら…。
「あれ?そちらの外国人の女の子はどちら様ですか?」
歩美は不思議そうな顔をして質問してきた。当然だ,この町に外国人なんて滅多に来るわけないし,それが車に乗ってたらなおさら気になる。どうしよう…何とか誤魔化さないと。
「あぁコイツ,優ちゃんよ。」
母様いきなりカミングアウトですかぁーー!?
「ノーノーノー,アイアムノットユウチャン。アイアム…」
「なに馬鹿言ってるのよ,学校行ったら皆に説明するんだからいいじゃない。」
ぐむ,ごもっとも。歩美にだって,どうせ学校でバレるんだ,それがちょっと早まっただけに過ぎない。
「…ふぅ,そうだ。俺は優だ,多分いきなり言われたって信じられないだろうけど…。」
「えっ…,優君って,ホントは外国人の女の子だったの?」
一つ飛び越えたー。俺の真の姿がチビッ娘なのか聞いてるよ,俺が優なのかどうかという問題は関係無しかよ。
「なわけあるか,昨日までの俺が本当の俺だっての。今は…,何でこうなったんだかわからない。」
本当になんでこんなことになったんだ?宇宙人の仕業か?わけわからん。
「えっと…,お人形さんみたいですっごく可愛いよ。」
それを言うな。
「でしょでしょう?私もこんな女の子が欲しかったから嬉しくて嬉しくて。ねぇ優,ずっとこのままでいない?」
勘弁してよ…。
さすが車だと早い,いつもなら三十分くらい歩く道を,ほんの五分で走破してしまった。
「またあとでね,優くん。待ってるよ。」
あぁまたな,と返事をし,俺は母さんと職員室へと向かった。今は朝のホームルームの時間だから,きっとシマムー先生もクラスにいるのだろう。
「先に校長先生と話をしてるから,あなたはここで待ってて。」
そう言って母さんは職員室へと入っていく。
………………………
………………
………暇だ,校長に話はうまく伝わってるのだろうか?俺が入ったほうがいいんじゃないか?百聞は一見にしかずとも言うし。でもいきなり入ったら混乱させちゃうかな?あれこれ決めかねているうちに,見知った奴が昇降口から入ってきた。珍しいな,アイツが遅刻するなんて。
「重役出勤だな,福島。」
福島慶太。この学校の生徒会長で吹奏楽部の部長,同じクラスで同じ部活だ。ちなみに歩美も同じ部活だ。表向き真面目を通して猫をかぶっているから皆の人望は厚い。が,地が出ると色んな意味で豹変してしまう危険な奴だ。でも根はいい奴で,いつもは気さくだから話しやすい。だから今も何気なく挨拶してやった。…しまった。
「…え?な,なぜ俺の名を…いやそれより,外人のお子様が俺に声を掛けている?これは夢か幻か!?」
自分の状況をすっかり忘れていた,見た目小学生のパツ金娘が,いきなりフランクリーに話しかけちゃ不審に思うだろう。しかもまずい事に,相手はあの危険極まりない福島だ。…身の危険を感じてきた,しょうがない,信じてもらえるかどうかわからないが試してみるか。
「そりゃわかるさ,クラスメートで同じ部活だもん。俺は姫宮だよ。」
「え,姫宮!?だってお前…?え?昨日部活で会っただろ!?・・・えぇ!?」
良かった,普通の反応だ。いきなりそれが貴様の真の姿か?なんて聞かれたら堪ったものじゃない。
「こんな格好じゃあ信じろって言っても信じてもらえないだろうけど,でも本当なんだ。試しに何か質問してみろよ。」
「ん,…じゃあ担任の先生は?」
「シマムー先生,嶋村榮花だろ。もっと難しいの聞いてみろよ。」
「今度の文化祭で姫宮が提案した曲は?」
「冷静大陸だ」
博士次郎がバイオリンをつとめる,かなり有名な曲だ。きっと文化祭で演奏すればウケがいいと思って推したのだ。
「この前俺が姫宮だけに言った言葉は?」
…こいつの信念であり,追い求める夢であり,存在理由だ。
「ロリッ娘にブルマorスク水,是究極にして至高の存在也」
これだけで福島のことは説明できるだろう,つまりはこういう奴だ。
「むむ,一句一言違えず述べるとは…,貴様は正に姫宮優本人だな。」
まったく…,でもまあ危惧した状況が起きる前に理解してもらえてよか
「最高だ,これこそ究極!心は健康な男子,身体は金髪碧眼の幼女,まさに至ごはぁぁ!?」
予想以上のリアクションありがとう,この背丈から繰り出すパンチは,きっと君の大事な宝箱に直撃していることだろう。さっさと撃沈してろ,どうせ元々遅刻してるんだし。
そうこうしているうちに,母さんからお呼びがかかった。じきにシマムー先生も来ることだろう。…やれやれ,今度は2人相手に自己紹介か,先は長いな。




