世界は残酷だ
私が住んでいる地域には、開かずの踏切がある。
開かずの踏切の定義としては、ピーク時に1時間の間に40分以上遮断機が下りている踏切のこと。
過密なダイヤ、多数の列車の通過、駅が近い等が原因として挙げられている。
ちなみに、私が住んでいる地域の踏切は、ピーク時1時間のあたり最大54分遮断機が下りていることがある。
通勤の時間帯に54分も遮断機が下りていると考えると、何かあった時にゾッとしてしまう。
「そんなゾッとする日が今日だった──!」
私は遮断機が下りていく様子を、全力ダッシュをしながらスローモーションで見ていた。
原因は忘れ物だ。
家を出て少し歩いてから忘れ物をしたことに気付く。
スマホだ。
今のご時世、スマホを忘れたら困ることが多過ぎる。
それ故に、私は妥協することなく家まで戻り、スマホを手に改めて家を出た。
忘れ物をしても電車の時間に余裕はあった。
開かずの踏切の遮断時間を考慮しなければ生きていけない地域である。
事前行動大事。
大事だったんだけれども、私の意志とは無関係に今日はいろいろ起こり過ぎた。
いつもは挨拶だけの近所の奥様が、私のお母さんに何か用事があるらしく伝言をことこまかに伝えてきた。
待って、それは母に直接言えばいいのではなくて?
我が家のインターホンを鳴らせばいいのではなくて?
そして近所の奥様を乗り越えたと思いきや、今度は信号がタイミングよく赤になること多すぎる。
何か私に恨みでもあるの!? と叫びたくなる程に赤になる。
しまいには取引先からの電話対応。
ちょっとお待ちになって、まだお互いに営業時間ではないのでは!?
今日の会議についてなのは分かるけど、せめて踏切を通過してからにしていただけないかしら!
そんなこんなを乗り越えてきた私は、ヒールを履きながらも全力ダッシュをしていたって訳。
なのに、無情にも、踏切は下りてしまう!
下りてしまったら、次に開くのは何十分後か分からない!
「私は! ここで! 止まってなんてられないのよぉおおおおおおおおおお!」
履いていたヒールを蹴り上げてキャッチ。
タイツを履いているとはいえ、ほぼ素足になった私はさらに速度を上げる。
学生時代の陸上部で、短距離の悪魔と呼ばれていたのは、伊達ではない!
同じようになんとか踏切を渡ろうとする人達を追い抜いていく。
擦れ違いざまに追い抜いた人が、
「ひっ!」
と声を上げていたのは気のせいに違いない。
もう少しで遮断機が下り切ってしまう。
あと2メートル。
あと1メートル。
「あぁああああああああああ!」
最後の気合を出すも、無情にも遮断機は下りてしまった。
世界は、残酷だ――
スマホを忘れただけなのに。




