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絶世の姫は愛を拒み、呪いを遺した―西の京・山口に眠る姫山伝説―  作者: さとちゃんペッ!


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第8話 姫山伝説の誕生

ご覧いただきありがとうございます!

伝説……この伝説を知ったのは、書物からではなく、生きた人間との会話からでした。伝説を元に創作した物語をここに謹んでお届けします。

「小夜!」


僧衣に身を包んだその人影を見て、長者は思わず声を上げた。日に焼けた顔、短く落とされた髪。だが、その面差しは間違いなく小夜だった。


「父上、ご無沙汰しております。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」「……生きておったのか?」

父の声は震えていた。

「はい。桜御前に助けられました。ご覧の通り、髪はそり落としました。今、わたしは男として生きております」

「おお、そうであったか……生きておりさえすれば、それでよい」


ふたりは手を取り合った。言葉にならない想いが、そのぬくもりに込められていた。


「時がありませぬ。ゆっくり話すことができません」

「よいよい、生きていたのじゃ。それだけで十分じゃ。どうやって生き延びたのじゃ」

「弥助という侍に助けられ、桜御前のもとで、人目を避けて暮らしてまいりました。学びと下働きの日々です。薪を割り、畑を耕し、明の言葉も覚えました。御前とともに、民のためになることを学んでおります」


「おお……おお……」

父は涙をこぼしていた。


「今の願いは、かの国の食べ物や着る物を学ぶことです。向こうにはよく育つ芋や、丈夫な糸の取れる草があると聞きました。その種を求め、育て方を学びたいのです。何年かかるかはわかりませんが……父上、小夜は死んだと思っていてください。親不孝ではございますが、どうか黙って送り出してください」


父は何も言えなかった。ただ、強く小夜の手を握り返した。


ふと視線を上げると、龍一郎が船の上を忙しなく歩き回り、帳面を手に積荷の確認をしていた。商人にとって最も忙しい時だ。それでも、この再会の場を設けてくれた。その心遣いに、長者は深く頭を下げた。


「時が来たようです。お父上様、いつの日かまたお会いしましょう。どうかお達者で」

龍一郎に促され、長者は《《はしけ》》に乗り込んだ。はしけはゆっくりと船から離れていく。


太鼓が鳴る。腹に響く低い音。続いて、法螺貝ほらがいの長い音が海へと流れる。

「綱を放て!」

声が飛び、船はゆっくりと動き出した。


長者は陸に上がり、見物人に交じって船を見送った。そこには大内義隆公と桜御前の御座船もあった。船腹には、桜の花びらを散らした扇の絵が描かれている。長者は、会ったこともない桜御前へ向かって深く頭を下げた。

(お助けくださったご恩、決して忘れませぬ)


小夜たち留学僧は船べりに立ち、手を振っている。船は西へと進み、やがて見えなくなった。


その日を境に、長者は見違えるように元気になった。


ある日のことだった。陶が平川にやってきた。

「平川にはまだ美女がいるという。小夜の妹を差し出せ」

「まだ幼く、躾もなっておりませぬ」

「躾など御殿でいくらでもできる。連れて来い」

「……妹を呼べ」


しかし、家の者がどれだけ探しても、妹の姿はなかった。長者も母も、陶も足軽たちも、館中を探し回った。それでも見つからない。


その頃――弥助が、幼い娘を背負い山を越えていた。

「御前の修学所が静かになったと思えば……また新たに留学僧を育てることになりそうだな」


陶が去った後、長者は館の者たち、親しい老僧、そして平川の老人たちと集まり、策を練った。策には策で対抗せねばならぬ。その思いは一つだった。

話し合いは一晩に及んだ。夜が明けるころ、一同の顔には不思議な清々しさが浮かんでいた。


その策とは――。


今日は平川に市が立つ日。物売りが野次馬に向かって声を張り上げる。


「ほらほら、あんたら。平川の里から見えるあの山、名前を知っとるか? 知らんか。なら教えよう。姫様の山と書いて、姫山じゃ。今から姫山伝説を聞かせてやろう」


人々が足を止める。


「昔、美しく生まれた姫がおった。心に決めた相手との縁談も進んどった。しかし、その美しさゆえに御殿へ上がれと命じられた。拒めば父の首が飛ぶ。そう思い、姫は御殿へ上がった」


物売りは声を潜める。


「だがな、思い人を忘れることはできん。姫は殿を拒んだ。その結果――あの山の小屋に閉じ込められ、蛇攻めにあった。無数の蛇がうごめく小屋で、姫は苦しみぬいた」


人々の顔が強張る。


「そして、息絶える間際、こう言ったそうじゃ。『この山の見えるところには、美しい娘が生まれぬように。この苦しみは、わたしだけで十分』とな」


物売りは、にやりと笑う。


「それ以来、このあたりには美女が生まれん。ほれ、平川の女たちを見てみい。美しいとは言えんが、強くて優しい。さあさあ、買った買った。明から来た薬だ。どんな病にも効くぞ。買うたなら、この話を誰かに伝えてやってくれ。哀れな姫の話じゃ」


こうして、伝説は広まっていった。平川には、美女を求める権力者も人買いも、二度と近づかなくなったという。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

いかがでしたか?


感想をいただけるとすごく励みになります。

次回もどうぞお楽しみに!


さとちゃんぺっ!の完結済み長編歴史小説、良かったら読んでください。↓

歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)

源平合戦で命を落とす安徳天皇に転生した俺、死にたくないので、未来の知識と過剰な努力で、破滅の運命を覆します

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