第7話 桜御前は野蛮な田舎侍がキライ
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伝説……この伝説を知ったのは、書物からではなく、生きた人間との会話からでした。伝説を元に創作した物語をここに謹んでお届けします。
弥助は桜御前の寝屋に向けて小石を投げた。しばらくすると、御前が顔をのぞかせた。
「御前様、小夜姫が蛇攻めにあいました。小夜が死んだと偽りの報告をすると、蛇攻めの小屋に火をかけ山火事になっています」
「誰の仕業じゃ」
「陶晴賢でございます」
「何て野蛮な。だから、田舎侍は嫌いなのです。ああ、都に帰りたい……陶はなぜにかようなことを?」
「小夜に殿の子を身ごもらせ、その後、陶が娶る手はずだと申しておりました」
「ふん。陶の機嫌を取るためじゃな。田舎侍たちの浅知恵であろう。女の命などどうでもよいといわんばかりの策じゃな。弥助、その小夜はどこにいる?」
「ここにおりまする」
庭の石の陰に身をひそめた人影が動いた。
御前が庭に降りて小夜の姿を見た。
小夜はひざまずいて桜御前を見上げた。
小夜の髪の中から蛇の子どもが顔を出していた。
桜御前の話を聞いた義隆公は、胸を痛めた。蛇攻め、小夜はどれだけ怖かったことか。しかし、陶のすることに口を出すと、どんなことになるやもしれない。陶がこんなことに智を巡らしている間は、文化的な政をするのに都合が良い。
宿老が桜御前の相談にのった。宿老の理解は早かった。
「陶は次なる美女を探していると聞く。次なる美女の命を助けねばならぬ。しかし、やり方次第では陶と戦になるやもしれぬ。それは避けたい。女一人の命で戦が防げるのなら……」
桜御前は怒った。
「どなたも女の気持ちも命も軽く見ている。だから、田舎者は嫌い」
桜御前は立ち上がると、怒りを鎮めるため館の外を歩いてみた。すぐに弥助が周囲を伺う。
桜御前は思った。
(この家の蔵には明の宝物がぎっしり。石畳の道も水路も民家も京風に整えられてきた。けれど、人の野蛮さは隠しきれないわ)
夜が明けた。山火事はおさまった。
山はところどころ青白い煙をあげながら、静まり返っていた。
何もなかったかのように。
風が吹き、鳥が鳴き、
昨日と同じ朝が来る。
長者の家には小夜の死が伝えられた。
「主の命を拒み、不慮の事故で亡くなった」
父母は昨夜の火事の意味を知る。
(あの子は、焼き殺されたのだ)
命を拒んだという理由で、葬式を上げることが許されず長者館は静かに喪に服した。
それから二カ月の時が流れた。
梅雨空の下、若い商人龍一郎が異国の香を持って長者館を訪れた。
「長者殿、今度の七月、また明を訪れます。各地の市場で良質の商品を仕入れてまいります。何かお望みの品はございますか?」
「いや、何もいらぬ。欲しいのはただひとつ。小夜の亡骸だ。亡骸さえも消えてしまった悲しい最期だった」
「それは……ご期待にそうことはできかねます。……出発の日、三田尻港にお越しください。きっとあなたさまの望む物がみつかることでしょう」
「見つかるものか。龍一郎、お主も小夜のことは忘れて、良き妻を娶ってくれ」
七月、三田尻の港は男衆と見物人でごったがえしていた。磯の香りが強い。遠くで藻塩を焼く煙があがっていた。
「長者殿」
長者が振り返ると、龍一郎が立っていた。
「遣明船をご案内いたします」
はしけ(小舟)に乗り、大きな船に乗り移った。
帆柱がそびえたつ。その下には大きな帆が丁寧に畳まれている。
男衆が木箱を運び込む。
「あれは何じゃ?」
「ああ、長者殿、あれは銀塊でございます。石見銀山から届いた銀の塊。かの国ではこれで物を買うことができるのです」
「ほう」
「長者殿、まだ元気がありませぬな」
「わしはもう一生笑うことはあるまい。娘が死んだのだからな」
その時、目の前に何人かの僧が現れた。頭を青々と反り上げ、そろいの僧衣をまとっている。
「彼らは桜御前様が遣わす留学僧でございます」
龍一郎が紹介すると僧たちは深く頭を下げた。そして、船の底にはしごを使って降りて行った。
一人残ったのは……
「おお、お前は?」
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