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君と紡いだ宝物  作者: 朝凪 紡


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7/8

まじわる、ふたごころ。

コト…

ふと息を整えたころ――

彼が姿を現し、透き通ったカップをそっとテーブルに添えた。

「カモミールティーです」

「ありがとうございます。いただきます」

(何回も往復してもらってるけど、一回も足音聞こえたことないんだよね…)

コップの縁に口をつけ、そういう方面を極めてるのか…?なんて、ぼんやりと思いながら、ゆっくりとコップを傾けカモミールティーを口の中に運ぶ。

(わぁ~美味しい~)

苦みが少なく、水出ししたかのようにさわやかな味わいである。

「とても美味しいです」

疲れが一気に吹き飛ばされ自然と笑みがこぼれた。

「ありがとうございます。本日のラインナップですが、定食が一種類のみとなっておりまして、そちらでも差し支えございませんでしょうか?」

「全然問題ないです。そちらでお願いします」

カモミールティーの余韻で気を張ることもなく初めて自然に話せたようだ。

「かしこまりました。今更ですが、苦手なものやアレルギーなどはありますか?」

「ありません」

「さようでございますか。では、準備して参ります。もう少々お待ちください」


「……あの、」

回れ右をして戻ろうとした背中になんとなく声をかける。


彼が、振り返る。

「はい」

――なんで呼び止めたんだろう。

自分でも戸惑いながら言葉が出た。

「良ければ、今日も一緒にご飯食べませんか?」

(…っ)

自分でもどうしてその言葉が出てきたかわからなかった。

ただ気づいたときにはそう紡がれていた。

恥ずかしさのあまり床を見つめる。

「…」

「…」

(まずかったかな…?)

意を決して顔を上げる。

するとそこには真顔のまま立ち尽くす彼がいた。

(固まってる?)

確かめようと手を挙げて顔の前で振ってみる。

「…」

(だめだ。別の世界にお出かけしてるわ)

私もそのまま一緒に固まってみる。

その後も変わらず動かないまま沈黙が流れた。

(そんなに動かないことある?もしかして…調子に乗りすぎた!?不快のあまり思考停止に…)

心の中であわあわしながら、このままでいても時間だけが流れていきそうだったので、声をかける。

「不都合であれば全然断っていただいても問題ないですよ」

そこで彼の手がピクっと動いた。

どうやらこちらの世界に、戻ってきたようである。


「…ええっと…、申し訳ございません。あまりに想定外のお誘いでしたので、取り乱しました」

(いや、そうだよね!?びっくりするよね。連日で来たと思ったら食事に誘われるなんて、びっくりするよね。そりゃ固まるよね!)

「謝らないでください。突然変なこと言ってしまってすみません」

目をぱちくりさせながら戸惑っている様子の時雨。

再び視界には床一面が広がった。

「いえ…!嬉しすぎて固まってしまいました」

耳を疑った――

反射的に顔を上げ、言ったそばから気まずそうに目をそらす彼の仕草に、妙な説得力を感じた。

ほんのり赤くなった頬に感情が追いつかない。

(え?試されてる…?私、何か試されてない?)

そう思ってしまうほどに時雨の表情は反則ものだった。

「ぜひ、お供させてください」

「っ…」

言わなきゃよかったと思った手前、まさかのオーケーに言葉が詰まる。

(今回は…ポーカーフェイスは保てそうにないな)

その意味もないだろうし――

この上ない幸福感に身を任せ、「ありがとうございます」と言った。

「では、準備してきますね」

「はい、お願いします」

去っていく背中を見つめながら、湧いてきた感情の名前を知っているけれど、それは頭の隅に追いやった。


しばらくして、茶碗の揺れる小さな音と共に、彼が戻ってきた。

向かいに座り、ふたりの食卓が、再び始まった。

昨日の緊張は何だったのか、と思うほどに話題は多方面に広がった。

好きなことや仕事について、普段はどんなふうに過ごしているか、食事が終わった後も会話は続いた。


とにかく彼は、何かを作ることが好きなようで、山の模型や木の彫刻、一つの世界を作っているようなクオリティのものを見せてくれた。

「プロ級のクオリティじゃないですか」と伝えると、恥ずかしそうに「ありがとうございます」と返した。

少し目をそらすようなその仕草に、私はまた思ってしまう。

(本当に不思議な人。話すたびに、少しずつ違う顔を見せてくる)

そう思うと、不思議と楽しみが募った。

微笑ましく眺めていると、違和感に気づく。

(あれ、さっきから身体が妙に軽い気がする)

息を吸っても、どこかうまく酸素が入ってこないような、そんな感覚――。

脳裏のどこかで、警鐘のようなものが鳴っているのに、心は妙に穏やかだった。

(もっと…この時間が続けばいいのに)


そこで突然、目の前が真っ暗になる。

(な、にこれ…)

全身から力が抜けていく感覚に襲われる。


「…っ翠さん!」

ガタン、と椅子が揺れる音。倒れたらしいが、不思議と痛みは感じなかった。

視界は真っ暗なままだが、彼が抱き留めてくれたことは分かった。

「大丈夫ですか!?翠さん…!」

(…まだ、お会計…して…ないのに、)

遠のいていく意識の中で、私の名前を何度も呼ぶ声が聞こえた。


彼の腕の中はなぜかとても心地がよくて、しんどさは一切感じられない。

そして、私は、眠りに入るように意識を手放した。


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