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第七話「一矢の前」
夜が明けきる前、
遠風は小高い丘にいた。
霧は薄く、風は静かだ。
音が、よく通る。
眼下に、隊列が見える。
規律正しく進む兵。
補給車。
歩調の揃った足並み。
旗が、立っている。
遠風は、それを見て、もう視線を外さなかった。
同じだ。
記憶違いではない。
ここを通せば、
次に焼かれる村が出る。
それが、どこかは分からない。
だが、
通せば起きることだけは、分かる。
遠風は、座り込まない。
伏せもしない。
立ったまま、距離を測る。
走らない。
走る必要がない位置に、すでにいる。
弓を手に取る。
弦を確かめる。
一本、矢を抜く。
まだ撃たない。
敵の先頭が、地形を読む。
足が、わずかに緩む。
ここだ。
遠風は、心の中で、何も言わない。
誓いも、祈りもない。
怒りはある。
恨みも、残っている。
だが、それを前に出す理由はない。
これは、復讐ではない。
守るための戦いでもない。
止められるかどうか、
それだけだ。
遠風は、一歩だけ位置を変える。
走らず、音を立てず。
弓を引く。
敵の誰も、
まだ気づいていない。
この一矢が、
戦場を始める。
遠風は、静かに息を吐いた。




