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第六話 「同じ旗」

情報は、乾いた声で伝えられた。

「北側街道を進軍中。規模は中隊。補給を伴っている」

地図の上に、旗印が置かれる。

遠風は、それを見て――動かなかった。

ただ、一瞬だけ、視線が止まる。

見覚えがあった。

色。

縫い取り。

布の擦れ方。

忘れるほど、昔の話じゃない。

「……どうした」

報告役が気づいた。

遠風は首を振る。

「いえ」

それ以上は言わない。

言う必要がない。

だが、胸の奥で、何かが静かに重くなった。

その旗は、

かつて、故郷の丘の向こうに立っていた。

燃えた家。

逃げ遅れた人。

名を呼ぶ声。

記憶は、音も匂いも連れてくる。

遠風は、呼吸を乱さない。

「遠風」

名を呼ばれる。

例の上官だった。

「進路を一本、潰したい」

地図の外縁。

補給線の細い道。

「正面から当たるつもりはない。

 だが、自由に進ませる気もない」

遠風は、旗を見る。

もう一度。

同じだった。

「……行けます」

問いではない。

確認でもない。

「走るな」

「はい」

「正面で戦うな。必要なら止めろ」

「はい」

短いやり取りだった。

感情が入り込む隙はない。

遠風は装備を整える。

弓。

槍。

どちらも、いつも通りだった。

分隊の者が、横を通り過ぎる。

「また一人か」

軽い声。

冗談のつもりだろう。

遠風は、頷くだけだった。

森に入る。

風向きを読む。

足音を消す。

遠くで、金属の擦れる音がした。

隊列。

規律がある。

――あの時と同じだ。

遠風は、足を止める。

走らない。

怒りは、確かにあった。

恨みも、消えていない。

だが、それが判断を曇らせることはなかった。

むしろ、

距離が、はっきり見える。

どこで止められるか。

どこまで許せないか。

遠風は、道を選ぶ。

補給が詰まる場所。

退路が細る場所。

弓を構え、

まだ撃たない。

この先で、

戦いは起きる。

だが、今はまだ――

向かう途中だ。

遠風は走らない。

ただ、戦場へ向かっている。

それだけだった。

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